第31話 体育倉庫で秘め事を

「これでよし、と」


 カチリとアゲハが内側から鍵をかける。


 放課後。


 二人は体育倉庫に忍び込んでいた。


「……アゲハさん。やっぱり学校でこういうのはよくないよ……。もし誰かに見つかったら……」

「ここ穴場だから。誰も来たりしないって」

「そうかもしれないけどさ……」

「涼子ママの事気にしてるの?」

「そんな事……」


 ないとは言えない。


「大丈夫だって。竿谷君が言わなきゃバレっこないんだから」


 その通りではあるのだが、そもそもの話。


「そういう問題じゃないと思うんだよなぁ……」


 煮え切らない態度の九朗に、アゲハはじれったそうに頬を膨らませた。


「お昼休みに話し合って竿谷君も良いって言ったじゃん? あーしもその気だったのに、今更それはなくない?」

「それはそうなんだけど……」


 了承したのはアゲハに詰められて仕方なくだ。


 そんなだから、いざその場になったら怖気づいた。


「もぉ! じれったいなぁ! 竿谷君だってその気じゃん! 何の問題があるわけ?」


 アゲハの指さす先では、九朗の股間がこんもりと体操服のズボンを膨らませていた。


 アゲハも体操服に着替えている。


 エロゲの世界なので当然赤ブルマだ。


 それもかなり際どい。


 こんなのビキニと大差ない。


 日焼けしたムッチムチの太ももが根元まで露出して、なんなら尻も少し見えている。


 シチュエーションも相まって、嫌が応でも勃起した。


 一応手で隠しているが、隠しきれるサイズではない。


 九朗は赤くなり。


「放課後の体育倉庫に忍び込んでオカズ撮影会だよ!? 問題しかないでしょ!?」


 そういう趣旨の集まりだった。


 あぁ、なぜこんな事になってしまったのか……。


「だーかーらー! それについては話し合ったじゃん! 竿谷君が夢精するから! いや、あ~しで夢精するのは全然オッケーなんだけど、実物のあ~しとエッチしてないのに夢の中のあ~しとエッチするのは浮気じゃん」


 あの後、そういうやり取りがあったのである。


 それだって納得したわけではない。


 アゲハの勢いに負けただけだ。


 だから当然異論はある。


「浮気じゃないでしょ……」

「そうだけど! そ・う・だ・け・どぉ! あ~しはイヤなの! 嫉妬しちゃうの! だってあ~しだってまだしてないのに、夢の中のあ~しが竿谷君とエッチするなんて悔しいじゃん! 誰だよそいつって感じだし! あ~しとエッチした後にあ~しとエッチする夢見るならいいけど、涼子ママとの約束あるから結婚するまでエッチ出来ないし! でも竿谷君がムラムラするのは仕方ないからエッチな夢見ないように本物のあ~しでシコれるようにオカズ撮影会しようって話じゃんか! てかあ~しだって竿谷君としたくてムラムラしてるのに一人だけエッチな夢見るなんてズルいし! あ~しも竿谷君のエッチな画像オカズに欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい!」

「しぃー! 声が大きいよ! 分かった、分かったから!?」


 まさにこんな感じで押し切られたのだ。


 可愛い彼女が主催するオカズ撮影会だ。


 九朗だって本音を言えば嫌ではない。


 むしろそんなイベントはウェルカムなのだが。


「……でも、わざわざ学校の体育倉庫じゃなくても……」


 とは思う。


 アゲハは大丈夫だと言っているが、万が一という事はあるはずだ。


「だって竿谷君夢のあ~しと体育倉庫でヤッたんでしょ? そしたらあ~しも体育倉庫でやるのが筋じゃんか。あ~し的には夢のあ~しに竿谷君を寝取られた気分なの! だったら寝取り返さなきゃ! でもエッチは出来ないから、せめて同じシチュエーションでやりたいのぉ!」


 ひとしきり駄々をこねるとアゲハは切なそうな表情で九朗を見つめた。


「それにだよ? 家でエッチな自撮り送り合うより、こっちの方が絶対オカズになると思うの。あ~し的にも竿谷君にお礼したいし。てか勝手に涼子ママと結婚するまでエッチしない約束しちゃってごめんって思ってるし。竿谷君だって本当はエッチしたかったでしょ? だからせめてあ~しのエッチな画像好きなだけ撮って欲しいみたいな。どんな恥ずかしい要望でもオールオッケーで応える覚悟なんだけど……迷惑だった?」


 いつの間にかアゲハはマットを敷いていた。


 その上に乙女なポーズで座り込み、ぽってりとした唇に人差し指を咥えて煽情的なオーラを放つ。


 ただでさえアゲハはエロゲのヒロインだ。


 なにもしてなくてもモワァッ♡と香るような色気がある。


 しかも今は小麦色の肌に委員長風の黒髪三つ編み+眼鏡だ。


 何度も言うが属性なんか盛れば盛る程良いのである。


 そんなアゲハに誘惑されたら元シコ猿中年童貞などひとたまりもない。


「迷惑なわけないだろ! 俺だって体育倉庫でドキ! 二人だけの秘密のオカズ撮影会(ポロリもあるよ)は嬉しいよ! アゲハさんの気持ちも嬉しいし……。でも俺臆病だから、ビビりな事言っちゃってごめん……」

「いいの! むしろちょっとくらいビビってくれた方があ~しも興奮するし! って事で早速やろっか!」


 目をキラキラさせてアゲハは言う。


「そ、それじゃあ、失礼して……」


 携帯を取り出すと、乙女座りのアゲハに向かってシャッターを切る。


 服を着ているとはいえ、エロゲ世界の体操服だ。


 上はパツパツで胸の形がくっきり浮き出し、際どい下は水着同然。


 シチュエーションとアゲハの恵体も相まって、九朗はめちゃくちゃ興奮した。


 なるほど。


 これはエロい。


 エロ過ぎる。


 ただエロい自撮りを送り合うよりもずっと良いオカズになりそうだ。


 これでけでも九朗は充分満足していたが、アゲハは物足りない様子だった。


「……竿谷君。そんなんでいーの?」

「え?」

「今ならあ~し、どんな要望もオッケーなんだよ?」

「それって、つまり……」


 ゴクリと九朗の喉が鳴った。


「あ~しのオッパイ、見たくない?」

「み、見たいです……」

「あ~しの大事な所も、見たくない?」

「見たいです!」

「じゃあ命令して。エッチな欲望全部叶えて。竿谷君があ~しの夢見る暇ないくらい、竿谷君が毎日スッキリ出来るくらい、あ~しの事オカズにして……」

「アゲハさんッ!」


 九朗の理性が蒸発し、思わずアゲハに襲い掛かる。


「ストーップ! お触りはダメ! あ~しも我慢できなくなっちゃうから!」


 足で股間を押さえられ、なんとか九朗は踏み止まった。


「ご、ごめんっ!? アゲハさんがエロ過ぎて、つい……」

「ううん、良いの。それだけあ~しの事好きって事でしょ? だったらあ~しも嬉しいし。でもそれはそれとして、涼子ママとの約束は守らなきゃ。ね?」

「う、うん……」


 そういう所は律義なアゲハである。


 そんなわけで、本格的な撮影会が始まった。


 ペロンと上をまくり上げてはカシャカシャリ。


 お尻を出してはカシャカシャリ。


 M字開脚なんかもお願いしちゃったりして。


 九朗もだんだん楽しくなってきた。


「いいよアゲハさん! すっごく良い! 最高だ!」

「はぅ……。なんかこれ、すっごいね……。画像撮られてるだけなのに、エッチより興奮するかも……。癖になっちゃいそう……」


 切なそうに内股を擦り合わせるアゲハを見て、俄然九朗は興奮した。


 気を張っていないと、触れてもいないのに暴発しそうだ。


「……ねぇ、竿谷君。一人でしちゃ、ダメかな?」

「い、いいんじゃないかな! エッチするわけじゃないし、ルール的にはセーフなはず」


 涼子にバレたら絶対怒られるのだが。


 それこそバレなきゃ問題ない。


 それよりも、二人はエッチな気分だった。


「じゃあ、するね……。竿谷君も……したかったらしていいからね……」

「……ぅ、ぅん……」


 二人の手がゆっくりと下の方に降りていく。


「ちょっと! 誰かいるの!」


 激しいノックと共に。


 少女の声が淫靡な空気を吹き飛ばした。

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