深夜バイト

斎藤 三津希

深夜バイト

あの頃はずっと、

田舎から出たい。都会に行きたい。って

考えてたな。

けど、ろくに金も貯めずに上京して、

あっという間に貯金が底をついたという話を腐るほど聞いてきたから、

絶対金を貯めてから行こうと思って

遠くて、やけに広い駐車場のコンビニの夜勤つまり深夜にバイトしてたんだよ。

時給がよくて、来る客といえばトラックの運転手だったり、くたびれたえりのサラリーマンだったりで眠気さえ我慢すれば、そこまで苦じゃなかったんだよ。

だけど、田舎といえど深夜になると珍客も増えて少し大変だったかな。

そんなある日、いつもみたいに接客してたら一人、コンビニに入店してきた。

その時はレジでタバコやら、レンジやらで、また一人入ってきたな。ぐらいだったけど、

レジを終えて、客の方みたら、

女の人なんだけど、

何かおかしいんだよね。

身なりが汚いとか、ザ・貞子みたいな服を着てるわけでもなくて、けどおかしくて。

そうやって、ジロジロみてると

こっちに気付いてさ、

黒くて長い髪がブワッと浮いて

こっちに向いた顔の目と俺の目が合うのよ。

結構、キレイな人で美人系だった。

で、ジロジロみんの失礼だなって思って

目線外したら、その人トイレ入ってった。

なんだ、買い物じゃないのか。って思って

品だししてたんだけど、

まだ、ひっかかりがある気がして、

よく、思い出してみたのよ。

そしたら、あの人靴はいてなかったな。って

気付いちゃったんだよね。

そしたら、急にゾワッてしちゃったけど、

気のせいかもしれないし、

もしかしたら、DVや虐待から急いで逃げてきたから靴が無いのかもだし、

どちらにせよ、あの人の靴があるか

再確認してからじゃないと始まらないなー。と思って待ってたんだけど、

トイレから、一向にでてこない。

品だしも終えて、

なんなら、あの人の後に

新しく入店してきた客が二人買い物を終えてもでてこなかった。

トイレからでてたら確実に見てるだろうし、

品だしで見てなかったとしても、

トイレのドアの開け閉めの際の音がなるはず

まぁ、大きい方かなって思ってたんだけど、

店の壁の真ん中にある時計が

あの人が入ってから、もう四○分に迫ろうとしてて、さすがに倒れてるとしか考えられなくて、ドアをノックして聞いたよ。


「すみませーん。長いこと入られていますけど、大丈夫ですか?どこか体調悪ければ救急車お呼びしますけど?」


返事はなし。

けど、その瞬間、鍵が開いた。

俺は察したね。

嗚呼ああ、これ声だせないぐらい苦しいけど、

力を振り絞って鍵開けて助け求めたんだって

だから、見てしまうのは申し訳ない、不可抗力だー!って思ってドア開けたんだけど、

そこには誰もいなかった。

けど、それじゃ、開いた鍵が説明つかない。

家のトイレの鍵だって、

中で誰かいないと開かないのに。

ましてや、コンビニのトイレの

バカでか鍵が開かなかったのはおかしい。

けど、考えれば考えるほど怖くなってきたから、考えんのはやめた。

きっと、深夜のバイトの連続で

疲れてんだな。と思う事にした。

実際、そこからはその女の人を見なくなった

だけど、家の風呂で頭洗ってる時に

短髪の俺ではない誰かの長髪がついてたり、

頭掻いたら、あり得ない長髪があったりで、少し不気味に感じてた。

そんなある日、バイト帰りの朝、

一面田んぼとあぜ道の景色のはるか遠くに

何処かでみた配色の服。

普通なら遠くて誰だかもわからない距離だが

すぐに直感でわかった。あの人だ。

さすがに怖くなって親に泣きついた。

親に疲れてんだな。って一蹴されて

マジで悩んだ。

親に金渡されて、

息抜きしなさいって言われた。

次の日はバイトじゃなかったから、

かなり、町の方へ行った。

バイト先のコンビニが小さくみえるほどの町

大都市と比べると小さいんだろうけど、

息抜きには丁度よかったはずだった。

ビル、ビル、通る人達、賑やかな町。

そのなかに、あの女の人がいた。

まだかなり遠いが、裸足だとわかる距離。

そこで気付いたんだよ。

日に日に近づいて来てるって、

そうとわかったら、いても立ってもられない

本当に親に頼んだ。

土下座して、泣きついて、また土下座。

精神科に連れていかれそうになったけど、

なんとか要望通り、

除霊で有名な寺に連れて行ってもらえた。

住職の方ってすごいって気付かされたわ。

マジで、

そっからは何年と見てないし、

今は上京の軍資金がたまって都会住み。

定職にもつけたし、一件落着だよね。

けど、あの女の人、

多分幽霊にも感謝してる部分もある。

それは防犯意識が強くなったことだね。

オートロックのマンションに明るい廊下。

これだけでも帰ってきた時に

俺の部屋の前だけじゃなくお隣さんとかを含めた全部の部屋の前が明るいから安心する。

ちゃんと、ドアチェーンもあるし。

ドアの鍵は二個。マジで素晴らしい。

だけど、もっと素晴らしいのは

テレビのチャンネル数の豊富な事だわ。

田舎がこない電波を拾ってるからかな?

まぁ、知らないけど。

てなわけで、これにて俺の怪談は終了!

つまんなくてごめんねw


ドアの鍵かけた異常なし

覗き穴真っ暗誰もいない異常なし

ドアチェーンかけた異常なし

コンビニで買うもの

柿ピー、ビール、ポテチ、アイスチョコ味


P.S. 最後俺のメモにしてすまんな(´-ω-)人今からコンビニに行くもんで。許してクレー。


というメールをもらった。

怖い話を教えてほしいと頼んだのは

僕だが、まさかメモ代わりにするとは驚いた

友人だから良いけどね。

けど、メールを読んで

気になった部分が一つある。

覗き穴で覗いたということは

自分の部屋の前を覗いてるということだ。

そして、部屋の前は自分の部屋はもちろん、

お隣さんの部屋だって明るいはず。

じゃあ、何故、覗き穴で覗いた部屋の前は

真っ暗なんだ?

僕は急いでメールを読みなおした。


『そのなかに、あの女の人がいた。

まだかなり遠いが、裸足だとわかる距離。

そこで気付いたんだよ。

日に日に近づいて来てるって』


いや、まさかね。


『黒くて長い髪がブワッと浮いて』


僕は急いで友人の行った寺について調べた。

調べると、過去に霊感商法をおこなって

詐欺で逮捕された住職がいた。

まさか、じゃあ、今でも女は


『そこで気付いたんだよ。

日に日に近づいて来てるって』


『黒くて長い髪がブワッと浮いて』


僕は急いで友人にメールを送った。

まだ返信はおろか、既読すらついてない。

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深夜バイト 斎藤 三津希 @saito_zuizui

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