第13話

結果から言えば模擬戦は勝負にすらならなかった、騎士の中にも位階の高いものはそれなりにいる、というよりも砦を攻略された後は完全に自力勝負になるからと砦にいる兵士よりも騎士たちのほうが平均の位階で言えば高かった。


もちろん貴族が位階の高い戦士を砦に送るのを渋り王族に対して武力で優位をとろうとしていたのも事実なのだろうが、同じ位階であっても実力には大きく差があるのだ。


貴族やえらい騎士を叩きのめすことができて満足したのかセリーヌはすっきりとした顔をして戻ってきたし、サブロウはセリーヌに連れまわされたとでも言いたげにやれやれといったそぶりを見せているがお前も楽しそうだったぞ……


さて、これでみんな仲良く殴り合ったので手を取り合って仲良く手を取り合いましょうね!とはなるわけもなく、殴り合う前よりも険悪なムードだ、当たり前だよなぁ!

特にメンツを潰された第二王子とその鳥巻きたちはこちらを呪い殺さんばかりに睨んでくるし、第一王子と文官達はこちらの武力に警戒心を強くしている。

唯一ブレイブ王とシャルロット王女だけが楽しそうにしている様である……

シャルロット王女はラシーに抱き着いてかっこよかったですわ、いい匂いですわと、いや匂いを嗅いでやるなよ……


ブレイブ王はブレイブ王で部下がぶちのめされているのに勇者ラシー達の活躍に嬉しそうに笑ってるしどうするんだよこの空気……


「さてセインよこれで文句はないな?イチロウ殿とその弟気味、使徒としてよみがえった勇者殿はしっかりと実力を見せたぞ文句はないな?」

ブレイブ王がそういうが文句しかなさそうな顔を向けるセイン第二王子そりゃあそうよと俺が思っていると第二王子はこちらを睨みつけてから闘技場から出ていく、それに続くように多くの貴族と騎士たちも出ていくが、闘技場に残った一部の騎士はなぜかキラキラとした瞳でこちらを見つめてくる、あ、なんか嫌な予感がする。


「いやぁ、強い強いまさか神自身ではなくその使徒にここまで完膚なきまで負けるとは思わなかったわい、どうじゃイチロウ殿、わしなんて使徒にしてみないか?」

そういってこちらに向かってきやすく歩いてくるのはひげ面の40代ほどの騎士だった、サブロウの攻撃を何度も受け止め結局力の差で強引に押し切られた騎士だった。

俺の目から見てもいい腕を持つ騎士だったが戦ってる時やサブローに殴り倒された時にいい顔をしていたのがどうしても気になってしまう……


「おや、それよりも私等いかがでしょうか、貴族の三男ですので礼儀作法や宮廷の作法にも明るいですが」

にこやかに近づくてくるさわやかな男、ただ頬を上気させて近づいてくるその姿に妙に寒気を覚える

具体的にいうと尻、いややめよう、俺の気のせいだ間違いない。


その後も癖強戦力強な人材が俺の前に集まるが俺には扱いきれないので申し訳ないがお断りした、その代わりほとんどゼファー教を離れて王と共に信仰を変えると宣言し、そのまま王様直属になったらしい。

集めてもいないのに気づけば信者が増えていくなんだこれ、別に神様として勢力を増したいなどとは思っていないのだが……


「さてアインよこれからわしはゼファー教ではなくイチロウ殿、ふむイチロウ殿。宗教の名はどうするのかの?」

ブレイブ王は王座に座ると改めてアイン王子に告げる、闘技場から王座の間に移動した俺達の前でブレイブ王が放った言葉に改めて動揺が走る。

城内での騒ぎは皆の耳に入っていただろうが改めて王が直々に宣言するとそれはやはり受ける衝撃が違うのだろう。


「お待ちください王よ、理由は確かに伺いましたし、彼らが強い力を持ちこの国の守護を担当していただけることは安心を覚えますしかし問題は多くあります、その中でもゼファー教との対立は国家にとっての一大事です、また彼らが我々をしっかりと守ってくれるのかを信じれないものも多くいます、彼らが強い力を持ってるが故に彼等が自分たちにその力を振るったらと思うものも多くいるのです」

俺達は今王の隣に後ろに立ち、臣下の列を見下ろす形で立っている、王座に座らせようとしてきたので全力でお断りした結果がこの形となった、俺達に臣下の列の一番端に立つ青年から意見の意見に耳を傾けて彼の言葉にいちいち確かにと頷くが王様は気に食わないようだ、というよりもどうしても前線に出ているものと後方で支援する者との間に温度差があるように感じる。


確かに彼の言う通り、俺達が裏切れば困るのもわかるし、信じられない信仰を変えることによる弊害があるのもわかる、ただ魔王軍と実際に戦った王としてはそれどころではないという感じなのだろう。

砦を囲んでいたのは魔王軍第一軍団であり、たしかに精鋭だが最強ではない、そもそも彼らが中心になって砦を囲んでいたのは動物型の魔物ではその亡骸を素材として利用されるのを嫌がってのことだ。

さすがに人間も人型の二足歩行の動物の肉を食べたり皮をはいで防具にするのは嫌悪感があるらしい、もう少し追い込まれれば変わるのかもしれないけどね。


今回第一軍団の中の最精鋭を俺達が倒した以上、すぐに第一軍団は再建されない、そうなると次は誰が来るかだが、もし魔王か、魔王の長男が来ればあの砦で守りきることは難しいだろう。


王様にはそのことを伝えているが、後方にいる者たちはどうしてもイメージがつきにくいのだろう、これが王様と大臣たちの会話の齟齬になっているのかもしれない……


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勇者を殺したそのあとで @kagetusouya

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