第20話 自爆

第20話 ハンバーグ

「こ、来ないな……」

「僕たちだけで本当にやれたのか……?」

「明らかにあたしが知ってるファイヤボールの威力じゃなかったわね」


 アマンダさんとオズ君が自分たちの魔法が生み出した惨状を見て驚愕している。

 私たちの目の前にはどこまでも巻き上がる火炎と砂の嵐が広がっていた。

 如何にフラムリザードと言えども、この奔流を越えて私たちを襲いには来ないだろう。


「なぁ、ところでこれはどうするんだ?」

「いつ止まるんだろうね、これ」

「さぁ? 私は知らないわよ」


 3人の視線は私に集まってくる。

 私にだって分からない。

 言えることは 1つだけだ。

 

「とりあえず……逃げよっか」


 私たちの手を離れて成長し続ける破壊の嵐。

 どうもこうもない。

 私たちにできるのは、巻き込まれないようにこの場を離れることだけだ。


 しかし、私たちは足を止めざるを得ない事態に陥る。


「バ、バカな⁉ いったい何が起こった⁈」


 行方を晦ませていたマルコフ先生が嵐に巻き込まれそうになりながら這いずって姿を現した。

 凄い剣幕で私たちに詰め寄ってくる。


「貴様ら何をした! いったいどういうことなんだ!」


 こっちの方が聞きたい。いったい今まで何処で道草をくっていたのか。

 

「マルコフ! アンタいきなり戻って何偉そうにしてんのよ!」

「ミンチ野郎! テメェのせいでこっちは死にかけたんだぞ!」


 アマンダさんとヤクト君が早速喧嘩腰だ。

 しかし、マルコフ先生の方もパニックを起こしているのか、会話にならない。

 それどころか、とんでもないことを口走り始めた。


「フラムリザードだぞ⁉ 俺がどれだけ苦労して奴を誘き寄せたと思っている⁉」

「「「…………」」」


 私たちは返す言葉も見つからない。

 いったいこの人は何を言っているんだ?

 

「お前らごときが相手になるはずがない! いったいどんな手を使ったこのクズ共!」


 明らかに悪意と呼ぶには温すぎる意思。殺意を含む言葉だ。

 けれど、恐怖以上に困惑が勝る。

 それはオズくんも同じだったらしい。

 

「貴方は……何を言っているんだ?」

「ご自分の言葉の意味を理解していますかマルコフ先生?」

 

 空気は完全に冷え込んでいる。

 けれど、マルコフ先生だけは未だに灼熱の中にいるようだ。

 顔を真っ赤にし額に青筋を浮かべながら、私とオズくんへ答えを返した。


「理解しているか、だと? 当然だ! 俺の仕事はなぁ、お前を殺すことなんだよアリス・テレジア!」


 突然のご指名に思わず場違いなリアクションをしてしまう。

 

「えっ⁈ 私⁉」

「当然だ、お前の妙ちくりんな魔法は魔導院が提唱する理念の妨げになる! 邪魔なんだよお前は! なによりもこの俺に恥をかかせた! 到底許されないことだ‼」

 

 魔導院? グレンダが言っていた機関が本当に動いたの?

 それにしたって強引すぎる。都市が運営する公的機関とは思えない。

 

「何言ってんのか分かんないのよクソ野郎! 許されないって、一体誰に許されないの? 勝手に恥かいた阿呆のくせに!!」


 マルコフ先生を挑発するアマンダさん。

 彼女は私を背に隠すように前に立つ。もしかしなくても、マルコフ先生の異様な雰囲気を感じ取って私を庇ってくれているんだろう。


「アマンダさん、駄目だよっ!」 

「この小娘がァ! お前から死ね!!」


 明確な殺気がマルコフ先生からアマンダさんに向けられる。

 察知した瞬間、私は前に立つアマンダさんを思い切り押し退けた。


「《ファイヤブラスト》」


 マルコフ先生……マルコフの宣言と同時に火炎がみるみる生成されていく。

 完成したあれを食らったら本当に死にかねない。

 私は反射的にマルコフに向けて魔法を発現させる。

 正確には形成途中のマルコフの《ファイヤブラスト》と適当な水魔法を発現させようとする。


 当然、私の魔法は発現しなかった。


 そして、マルコフの魔法も正常に発現されることはなく、彼の手元で爆発を起こす。 


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 悶えながら地を転がるマルコフの姿。

 それを見て私の心臓はようやっと早鐘を打つ。

 遅れて恐怖がやってきたんだ。


 危なかった。失敗していたら、地に転がっていたのは私だった。

 私は咄嗟にマルコフの魔法に自分の魔法を被せることで敢えて不和を誘発させた。

 威力減衰程度を狙っての試みだったけど、まさか自爆するとは……。 


「アリス、アンタ何したの?」

「魔法の発現を妨害しただけだよ。別属性の魔法を同座標に発現させようとしたの」

「……あの瞬間にその判断ができるの?」

「運よくね……」


 本当に運が良かっただけだ。

 この結果も想定外。

 だけど、アマンダさんはやけに感心したような顔で私を見ていた。

 そして、彼女は何かを思い出したようにかのよう表情を変化させる。

 頬を赤らめて、少し恥ずかしそうに。


「ありがと……助けてくれて……」

「最初に庇ってくれたのはアマンダさんでしょ? こちらこそ、ありがとう」


 私のお礼を聞いてプイッと顔を逸らしてしまうアマンダさん。

 なんだろうこの感情……これが可愛いと言うやつなのか?

 

「二人共、イチャイチャしてる場合じゃねぇよ」

「はっ⁉ ちげーよヤクト! あたしがアリスと……イチャイチャ…………なんてするわけ無いじゃん!」

「……わーったよアマンダさん、それより、ミンチをなんとかしなきゃ」


 完全に忘れていた。

 見れば、既に火はヤクト君の魔法で鎮火されている。

 そして、マルコフは酷い火傷を負ってピクピクと痙攣していた。


「こんがり美味しく焼けてしまったな」


 そんなオズ君のブラックジョークを聞いて、私達は苦笑いを浮かべる他なかった……。

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転生したら一般人の1/100しか魔力がないクソ体質だった私、それでも最強の魔導士を志す~【欠陥品】と馬鹿にされていたけど全部オリジナル魔法で何とかなりました~ 真嶋青 @majima_sei

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