コンビニ
ルー・リクト
コンビニ
皮膚がぷつぷつと泡立つのを感じた。目の前の光景から目を離すことが出来ない。
レジを挟んで男が立っている。中年、小太り、禿げあがった頭。しみがついてくたびれたワイシャツに、額には今までの苦労が深い
男が買い物カゴを寄越す。同じ週刊誌を4冊、缶ビール8つ。まったく同じだ。この男は、同じ買い物を10回も繰り返している。なるべく急いで商品をスキャンする。ピッというスキャン音だけが、耳に飛び込んでくる。その他に音はしない。手が震えている。その間も男はじっと私を見つめている。
3761円。10回とも同じ金額。4261円。10回とも同じ支払い。男は黙って品物を抱えて店を出た。男の背中を目で追う。男は店の前の道路を右に折れて、見えなくなった。秒針のチクタクという音だけが聞こえていた。
あの男はまた目の前に立っていた。
もう一度店内に入ってきたわけではない。なぜなら男が出てから、ずっと出入口に目を向けていたからだ。今は深夜。人の出入りはなく、店内にはあの男以外存在しなかった。しかし、あの男はまたレジに立っている。さっきと同じ買い物かごをぶらさげて。
3761円。11回とも同じ金額。4261円。11回とも同じ支払い。男は黙って品物を抱えて店を出た。男の背中を目で追う。足にまとわりついた恐怖を何とか振りほどいて、私は男の後を追った。店の前の道路を右に折れた。男に続いて右へ曲がると、その先の路上に男たちが集まっていた。11人のまったく同じ顔、まったく同じくたびれたシャツ、まったく同じ買い物袋。ヒトの形をした野生動物が群れているように見えた。おにぎりや、ビールや、週刊誌は道路脇に一列に並べられていた。あまりにも異常な光景だった。
ぷつぷつと泡立つ皮膚。冷たい汗が首筋を滑って、下を向いたまま歩き去った。気が付くとコンビニの自動ドアが開いて、涼しい空気が全身を包み込む。そして、レジ前から影が伸びていることに気づいた。影は陳列棚の端から漏れ出るようにしてゆらゆら揺れているので、その主は見えない。そのまま私はコンビニから飛び出し、男たちのいる歩道とは逆の方向へ走った。
それから、家のドアノブに沢山のご飯粒がつけられていたり、ビールの空き缶が散乱していたりした。母は沢山の男たちに暴行を受けて言語障害を負った。現場にはめちゃくちゃに破かれた週刊誌が散乱していたと、警察の人から聞いた。
犯人はいまだにわからないそうだ。
コンビニ ルー・リクト @Lou-hon
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