ニーソ創世記

つるよしの

ニーソ創世記

 神は「ニーソあれ すべての男の脚へ」と天地創造の八日目に仰った。


 ちょうど天と地をだいたい作り終えて神も飽きていたところである。ちょっとした冗談のつもりだった。ところが気を利かせた大天使ミカエルとかなんだかが、できたばかりの地に御触れを出してしまったのである。繰り返し言うが、あくまで冗談のつもりであった。男の脚へ、としたのは神がイヴよりアダムの方が好みだったからである。要するに趣味である。


 こうして人間の男は創世のはじめのはじめから、ニーソとともにあった。しかしこれは思った以上に好評であった。できたばかりの吹きっ晒しの大地では、ニーソはなにより暖かい。膝上まで覆ってくれるのだから。すね毛だけよりあったかい。これを男性は愛した。

 なお、女性も履きたいと思ったがそれは神が好まなかったので許されなかった。女性でこっそりニーソを履いたものは石打たれ、鞭打たれた挙句、荒野に追放された。なお、この事態を収拾するために神が造られたのがハラマキである。フェミニストもそう言ってる。女性の歴史は辛いのである。知らんけど。


 というわけで古代ニーソは男性の正式な服装のひとつであった。例を挙げれば、エジプトに遺された壁画にも、たいがい男性がニーソを履いている様子が描かれている。描かれているはずである。そう思えば見えなくもない。見ろ。


 また、ニーソは戦争における有効な武器としても使用されたことがわかっている。なかに石を詰めて振り回せば、殺傷力の極めて高い凶器になるからである。え? 薄くてすぐ破れるから使えない? そのニーソはどこで買った? ズバリしまむらだろ。せめてワークマンで買え。間違いないから。ワークマンは裏切らない。


 つまり古来より、ニーソを履きニーソで戦うことは男性のステータスであり、男性性の象徴であり、つまりは暴力性の象徴でもあった。なんかこう言うと様になるだろ? んんん?


 しかしながら時代が進むと「ニーソ=粗暴」というイメージも強くなり、近代思想が浸透すると、次第に、男性におけるニーソは時代遅れのものとなった。これをほくそ笑んだのがかつて荒野に追放された女性である。彼女たちはニーソを進んで履き、いつしか自分たちのファッションとして位置づけた。これがいわゆる歴史における「ニーソの改竄」である。


 それから長い時が経ち、状況が一変したのは、二十一世紀、極東の国ニホンのソウヤマによる、いわゆる「ニーソ革命」によってである。ソウヤマはたいへん勇気ある発言を行い、「ニーソは本来男性のものである」ことを提唱した。これをニーソ復古宣言という。ハイここ、テストに出るから覚えなさいね。


 これは最初、一笑に付されたが、栄光ある専門調査団がエジプトやローマに派遣され、複数の太古の石碑に「ニーソ永遠なれ」という一文を発見したことで「あながち嘘でないんじゃね?」と世間を揺るがすこととなった。これに感銘を受けた当時の日本国首相は、自ら足を運んだウクライナに直々ニーソを支援物資としてドヤ顔で持っていった。だが、そのニュースは戦時下のウクライナではどーでもいいことであったので、ニーソを渡されたゼレンスキーに「知らんがな」とうまい棒の箱ごと返却され、日本外交史の恥部となったのは言うまでもない。


 いま、ポートアイランドには、その偉業を讃えてソウヤマ氏の銅像が造られ、それはもう神々しいまでに輝いている。誰だデザイン、総金箔にしたの。眩しいよ。

 いいんだよ、ニーソを信じる者は救われるんだから。細けぇことは気にするな。


 しかしながら、ニーソを振り翳しながら全世界に睨みを利かすソウヤマ氏を摸した「ニーソの女神」像作成過程においては、特定の宗教団体が関わっていたという疑惑もあり、現在もなお、調査が続いている。


 なお、最新の研究では、ソウヤマ氏の次のような発言もツゥイッター上に確認されている。


「ごめん、趣味なんだ、趣味」


 しかしながらこの発言は、創世記における神の言葉と完全一致していることから、却ってニーソ復古主義者には「これぞ歴史が繰り返される証明である」とされ、彼ら彼女らを勢いづける結果となったのである。


 そして時代は移り二十二世紀、「AIによる男性ニーソ標準装備期」が訪れる――らしいんだが、もうネタが続かない、限界です。知ってる、みんなが読みたいのはこういうものじゃないって。

 あいすみません。終わる。

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ニーソ創世記 つるよしの @tsuru_yoshino

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