10.俺氏、奴隷ちゃんと旅立つ
あれから十日ほどダンジョン三階でゴブリン退治をした。
正直なところ、飽きてきた。
でもその甲斐もあって、俺たちは資金が少しだけ溜まって買い物ができたのだ。
「ちゃんとしたブーツ!」
「ご主人様のブーツにゃ」
「マント!」
「お揃いのマントにゃ。うれしいにゃ」
「それから緊急用の中級ポーション」
「これで安心にゃ」
俺たちはだいぶ装備を整えたのだ。
シュパッと二人でポーズを決める。
「それでは、ベルマンディルを出発します」
「しゅっぱーつにゃにゃん♪」
パンと干肉も買ってバッグに入れてある。
他にも鍋とスプーンとカップなども買ってある。
このバッグ、容量は少ないもののマジックバッグなのだ。
この世界ではこういった魔道具が思いのほか普及している。
「大きな城門にゃ」
「だよな。俺も最初に通ったとき、見上げたっけ」
「前通ったときには奴隷馬車に載せられて、売られていくところだったにゃ」
「そっか、でもよかったよ。それで俺はリーヤを買えたんだから」
「今はご主人様に買ってもらえれて、よかったにゃ」
「そうかそうか」
「にゃんにゃう」
どちらかともなく手をつないで門を通過する。
門の兵士がじろじろ見てくるが、特に問題はないようだ。
「それでは、王都に向かいまーす」
「わわわ、楽しみですにゃ」
街道を歩いていく。馬車の代金を出すほどお金はない。
馬車代って思ったより高いのだ。
もう一週間ほどゴブリン退治をして節約すればギリギリ乗れるくらいだろうか。
でももうゴブリンは飽きたので、集中力も下がってきた。
そういうときは気が抜けていて、危険なのだ。
大怪我でも負ったら赤字確定だった。
「徒歩の人も案外いるんだな」
「そうですね」
前方にも何人か歩いている人たちがいる。
三人パーティーだったり、五人組くらいだったり。
みんな剣なり杖なりを装備しているので冒険者か冒険商人とかだろう。
道すがら、奴隷ちゃんが匂いを嗅ぐ。
獣人の多くは人間より嗅覚が鋭いのだそうだ。
「これ、ハーブですぅ」
「おお」
そう言っては草を採って歩く。
すでにバッグぎりぎりくらい道草を収穫していた。
確かに俺でも鼻を葉っぱにくつっけるくらいにすると匂いがする。
中には薄甘い匂いやさっぱりした独特の匂いなど、美味しそうなのもあった。
「これは薬草ですぅ」
「なるほど」
薬の匂いも詳しいらしい。
「初級ポーションに使う草ですにゃ」
「物知りだね」
「ママやパパに教わったんです」
「そっか」
「ママは王都のほうに売られたかもしれません」
「なるほど」
「パパはたぶん、獣人のオスなので殺されちゃってますね」
「うっ、変なこと聞いてごめんね」
「いいえ、もう過ぎたことですから」
お昼にする。
鍋に午前中に採った草のうち、食べられるものを入れて野草スープにする。
「おおぅ、思った以上にいい匂いだ」
「にゃうにゃうにゃう~いい匂い。美味しいご飯、たのしいな」
二人で出来たスープをカップによそって食べる。
「いただきます」
「いただきますにゃ」
ずずず。美味い。草ではあるが風味があっていい。
それから少し入れた干肉。出汁が出ていて美味い。
硬いパンはスープに浸して食べていく。
「もう食べちゃいました」
「そうだな、美味かったもんな」
「夜は違う野草を入れますね」
「いろいろな味が楽しめるな」
「そうですね。何種類もありますにゃ」
こうして午後も歩いていく。
途中、小さな滝があった。
「滝にゃうにゃう」
「おおお、滝か。小さいけどなんだか趣があるね」
何段も段差になっていて、それがウェディングケーキみたいになっている。
パンパン。
奴隷ちゃんが手を合わせていく。
「いい旅になりますように」
「ああ、そうだな」
この世界にも自然信仰とかあるみたいだ。
まあ普通はあるんだろうな。
教会とかも信仰しているけれど、それはそれこれはこれなのだろう。
夕方、道の横に簡易キャンプ場みたいな開けた土地がある。
不自然というか人工的に整備したみたいだ。
ところどころ地面が黒くなっているので焚火の跡のようだった。
「今日はここに泊まります」
「うん、分かった」
奴隷ちゃんのほうが俺よりこの世界には詳しい。
旅とかしたことはないらしいけれど、見聞きしたことはあるみたいだ。
また野草と干肉のスープだ。
今回は少し酸っぱい野草と薄甘い野草が入っていて、味のアクセントによかった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさん。奴隷ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして、えへへ」
飯を食ったら、あとはトイレとかに行ったら寝るくらしかすることはない。
日記とかもつけてないしな。
「それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみなさいにゃ」
「お、おう」
布団とかもないので、草を適当に集めてきて地面に敷いて寝ている。
季節は春、寒くはない。
それでも掛布団とかはないので奴隷ちゃんは俺に抱き着いてくる。
「えへへ。こうするともっと温かくて気持ちいですぅ」
「まあ、なんというか、ノーコメント」
「おやすみなさい」
奴隷ちゃんに抱き着かれて、そのまま眠った。
翌朝、目が覚めるとすでにリーヤは起きていて、鍋をかき回していた。
「朝のスープ、できますよ」
「ああ、助かる。ありがとう。それから、おはよう」
「おはようございますっ、ご主人様。今日もよろしくお願いします」
「あ、ああ」
こうしてご飯を食べて用を済ませたら再び出発だ。
とぼとぼと歩いていく。
王都まではまだ距離がだいぶあった。
途中で村や町が何個もあるらしい。でも野宿も多い。
この街道は比較的安全とはいえ、モンスターが出る事もある。
奴隷ちゃんのおかげでご飯は大丈夫だ。
こうして、二人でのんびりと旅ができるといいな、と思いながら歩いていく。
「奴隷ちゃん……」
「なんですか、ご主人様」
「なんていうか、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「ふふ」
「にゃはは」
こうして一人の人間と一人の猫獣人の旅がはじまるのだった。
異世界転移者、金貨一枚でバブみ奴隷ちゃんを買う 滝川 海老郎 @syuribox
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