奴隷転生〜非チート奴隷で転生した男の奴隷解放譚〜

髙弥

第1話 奴隷転生

それは、一瞬の出来事だった。


目の前で轢かれそうな少女を庇い、俺が吹っ飛ばされた。


けたたましいサイレンの音が頭の中で反響する。


五月蝿い…


視界がぼやける。


死ぬ事を自覚する。


「あぁ…こんな事なら…転…生…」



【したいんだろ?】


意識が途切れかけたその時、どこからとも無く声がして来る。


(誰だ…お前…)


【神だよ】


神?転生?そんなあるあるは、現実には無いと思っていた。


しかし、その声からは人ならざる底知れぬ何かを感じた。


【この僕が君を望んだ世界に送ってあげるって言っているんだよ】


(なんで俺なんかを?)


【ん〜少女を助けたから?】


(なんでお前が?なんだよ)


【冗談冗談w、実はね、個人的に君の事が気になっていたからさ】


(俺なんか、神に好かれることなんてして無いと思うけどな)


【いいや、君は気づいていないだけさ】


すると段々と神の声が遠のいて行く。


【せいぜい頑張るといい…お前達人間が望んだ、異世界転生を…】


そこで神の声は完全に無くなり、自身の意識も闇に包まれて行く。


(まぁ転生出来るなら、チートの一つや二つはある筈だから、新しい世界では…絶対に…)


そこで完全に意識が無くなる。


すると、完全な闇の中に居た意識に眩い光が差し込む。


目が覚めた。


久しぶりにも思える世界は思ったよりもずっと暗かった。


「あれ?どこだここ?」


あたりを見回すと、薄汚れた壁に張った蜘蛛の巣や格子から入る微々たる木漏れ日。


極めつけには、自分と同じ布1枚を着た人々。そして死臭。


「なんだここ想像と違う」


状況がさらに分からなくなった俺は、さっきよりも大きめの声を出す。すると、


「誰が喋っていいと言った?!」


突然の誰かの怒鳴りにビクッと反応してしまう。


「お前かァ?!」


そう言って近づいてきた鬼の形相をした大男が突然、俺の首を掴む。


「テメェ、誰の許可を得て喋ってるんだァ?!」


「ぐッ…ガッ…ガハッ…」


突然首を締められた俺は、抵抗する為に手を使おうとすると、手錠が掛かっている事に気づいた。


(死ぬ?)


また、その言葉が過ぎる。


転生してチートをぶっぱなそうと思っていた矢先にこれだ。


(つくづく運が無いんだなと悟った)


その瞬間、オッサンの後ろにひょろっとした男が見えた。


「止めなさい。ソイツは殺すな。」


「?!しかし!コイツは許可無しに勝手に喋ったんですよ!の癖に!!」


(奴隷?奴隷なのか?!俺が?!)


「たかが喋った程度で殺しては私達の売上が下がります。しかも、ソイツは特に状態の良い奴隷です。殺したら貴方の給金が減ると思って下さい。」


「?!わ、分かりました。命拾いしたな!まぁ、お前らみたいなやつに命なんて無いに等しいけどなw」


捨て台詞を言われた。だが、命拾いは本当だ。


あのヒョロガリは奴隷商人なのかな…


そんなどうでもいい事を考えられる俺はどうかしてるな。


しかし、俺が奴隷だったなんて。まぁ、今考えれば周りの状況ですぐ分かるんだけどな。


そうして改めて周りを見ると、さっきあんな事が起きていたにも関わらず、人々は怯える様子が無い。目もくすんでやせ細っている。


こう見ると俺はまだいい方なんだな。


自分の身体を確認すると、皆よりかは痩せていない。と言うか、前世の俺より若返ってる気がする。


自分の身体や周りの状況に驚きつつ、1度切り替えて、転生したらする事をしてみた。


「…ステータス・オープン」


そう、異世界と言えばのこの文言。良くある奴では自分のステータスが表示され、そこにチートな能力があるのだが…



名前 無し Lv1

年齢16

体力5 /10(空腹 脱水 不衛生)継続ダメージ

魔力5

力5 | 魔法適性

防御5 | 火魔法5

俊敏5 | 水魔法5

知性10 | 土魔法5

精神10 | 光魔法5

幸運5 | 闇魔法5

信仰0 | 聖魔法0

スキル

ーー



何だこのクソザコナメクジは?

そもそもなんで名前が「無し」なんだよ、それに転生者とは思えない雑魚いステータス。


転生あるあるのチート能力すらねぇじゃねぇか!あるだろなんか!なんでも破壊出来るとか!強ぇ魔法出し放題とか!


これじゃ元の自分より弱くなってないか?!


「奴隷にクソステ…ははっ…最高だね…」


神への皮肉を込めた言葉は届くことは無い。


今の自分の虚無感を感じながらも、状況を打破する為に今はただ考える。


このままじゃダメだ。


このままただの奴隷でいれば間違いなく惨めで無惨な最期になる。


逃げたり、戦うのも無理だ。

このステじゃさっきみたいな男達に太刀打ち出来ない。


ならどうするか、


上手く立ち回るしか無い。


奴隷と言えば貴族や金持ちが気に入った奴を買ったりするのが相場だ。


俺もそうなれば、今よりかは人間味のある生活が送れる。


そうだな…

前世の知識があるから、知識奴隷として売れるかもしれない。


そうなれば、俺を買うのは変な趣味をしてる奴らより、マシな人達になる筈だ。


そうだ、そういう人に買われる為にも今の内からアピールして置かないとな。


奴隷にも奴隷なりの生き方があるんだ。


よし。


考えはまとまった。今は、今出来ることをひたすらやって行こう。


ゆくゆくは、奴隷の奴らを全員解放してやりたいな。


こんなゴミ捨て場よりも汚い場所には放っておけない。


「決めた」

まずは奴隷脱却!その後は他の奴隷達を解放する!


そして、こんなクソな初期設定にした神に会って、顔をぶん殴る。そして言うんだ、


「こんな世界に転生させてくれてどうもありがとう」ってね。

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