第9話 気持ちは体でも示そう:ハスキード視点
数か月前から数度にわたりテリア嬢を話をして意思を確認してきた。
それがこんな事件になるとは…。
何をどう勘違いしたのか、テリア嬢は僕と結婚すると思っていたようだ。話がカーリーとの婚約解消にまで発展した時はこの世の終わりだと思った。だけど今回もカーリーが問題解決に力を貸してくれた。
やっぱりカーリーは僕をちゃんと理解してくれる。儚げな佇まいの奥にはいつでも僕を支えてくれる芯の強さが隠れている。カーリーのいない生き方なんて分からない…そういえば…きちんと彼女に気持ちを伝えたことがない。それにカーリーの気持ちを確かめたこともない…言葉にしないせいで今回みたいな誤解につながるなら、きちんと伝えないと。
愛しくて愛しくてこの世の何よりも大切な僕のカーリー。言葉だけではきっと伝えきれない気持ち。それなら体でも示そう。
僕は彼女の前に跪き、恭しく顔を見上げ、手を差し出す。
「今まできちんと言ったことがなかったね。カーリー・レトリバー嬢、僕の最愛の人…。僕と結婚してくれますか」
ぽろぽろと涙を流しながら僕の気持ちを受け止めてくれたカーリー。泣かせてしまったのは悔やまれるけど、彼女も僕を好きでいてくれた!僕はなんて幸せなんだろう。この幸せがずっと続きますように。皆にも届きますように。
テリア・ラッセル事件も落ち着き、僕とカーリーは盛大に祝福されながら結婚した。カーリーとの結婚に舞い上がっていた僕はすっかりテリア嬢のことを忘れていたのだけど、ラッセル公爵から娘はウルシダー王国で幸せに過ごしていると聞かされた。
半年後、ウルシダー王国の国王陛下-テリア嬢の義父-から手紙が届いた。
なんでもウルシダーの王太子がテリア嬢を溺愛していて夫婦仲はすこぶるいいこと。野蛮だと言われてきたウルシダー王国だったが王太子の外交にテリア嬢が随行することで、悪評が薄れてきていること。テリア嬢の影響で力こそすべてだった国民、特に女性たちに新たな趣味や文化が芽生えたこと。祖国から遠く離れたウルシダー王国でテリア嬢が王太子に寄り添い、尽力していること。そのような報告とともに手厚い感謝の意が認められていた。
手紙の内容をラッセル公爵に伝えたところ、ため息交じりにラッセル公爵は話した。
「娘は面食いなんです。私は数年前に一度だけウルシダー王国の王太子にお会いしたことがるのですがとんでもない美丈夫でした。深い青の瞳を縁取る長い睫、寒い国特有の高く細い鼻と全体的に堀の深い造形、そのご尊顔に影を落とすような長い黒髪は美しさを更に深めていました。悪魔的な美しさとでもいうのでしょうかね。しかもそのご尊顔に鋼のような肉体が付随しているのですよ。うちの娘などは片手で持ち上げられるでしょうね。一目見てこれは娘が気に入るなと思いましたが、案の定我が家に届く手紙には王太子がどれほどハンサムでたくましいかが数枚にわたって書き連ねられていますよ。遠方の地と言っても娘は幼少期からあちこちで生活してきましたから、特に問題ありません。些細な不便程度なら気にならない程度には王太子に惚気きってるようですから」
王太子の見目の良さを遠くを見つめながらうっとりと語るラッセル公爵が禁断の扉を開いているのではないかと少しばかり心配になる。
いずれにせよテリア嬢、もといテリア王太子妃も幸せにやっているようで何よりだ。彼女のおかげで隣国もウルシダー王国もそして我が国サイベリアンも特別な関係性を築くことができたのだから。
これからもこの国が、嫁いだ彼女が、そして僕とカーリーが幸せでありますように。
王子の知性はちょっと控えめ ミスミソウ @misumiso
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