第9話
ふと、二人は妙なことに気づいた。自分達以外の音が消えている、と。あんなにも響いていた団員達の声が聞こえなくなっている。それに、あの男によって燃やされた木が爆ぜる音も。どういうことなのかと混乱していると二人の目の前に一人の老人が降り立った。その腕のなかには王妃が美しい顔のまま眠っていた。老人は二人のもとへ寄ると、ようやく声を出した。
「ワシは輪廻転生を司る神、ランテスじゃ。此度はワシが世界渡りをさせてしまったものが厄介をかけたの。こちらの姫は輪廻転生するには速すぎるからのぉ、お主達に返そうと連れてきたのじゃ。」
クラレスはあまりの神々しさに言葉を失い、ネイトは静かに涙を流していた。そしてランテスから王妃を返してもらうと神は庭を何事も無かったかのようにもとに戻すと天界へと帰っていった。
そしてその後のアスマティス王国がどうなったかと言うと、男の変わりと言わんばかりの新しい世渡り人が現れ、国の発展に大きく従事し成長した王女と幸せな結婚生活を送ったらしい。
一方で元世渡り人である男が目を覚ますと一度目の死を迎えたときにいたあの空間にまた来ていた。気配を感じて後ろを振り返ればあのときと同じ老人が立っていた。
「お主は死んだぞ。二週間とて持たぬ儚い人生であったな。」
「おい爺さん約束が違かったじゃねえか!確かに最初は崇拝的なのされたけど後半全くだっだし、なんなら魔法ほとんど通用しねーし」
開口一番神に向かってそんな口を叩いた男は神から直々に雷をおとされた。何が起こったのか理解できずに頭にハテナを浮かべていると般若のような顔をした老人が男の前で仁王立ちをしていた。
「このたわけ者が!前世で不慮の死を遂げ温情で転生させてやったが恩を仇で返しおって!それに、お主が生前最後に参加していた飲み会で無理やり大量にアルコールを飲まされた青年が意識不明の重篤な状態じゃ。この意味が分かるか?」
男はそこまで言われて思い出した。前世の最後の飲み会で確かに男は気にくわない、勝手にライバル視していた青年に大量に酒を飲ませた。酔いつぶれて嘔吐している姿をみてようやくあいつに恥をかかせることが出来たと上機嫌で横断歩道を渡っていたところ、そこを轢かれたのだ。
「お前の二度目の転生は当分お預けじゃ!一度地獄に堕ちて己の業を詫びてから帰ってこい!」
老人がそういうと男の足元が綺麗サッパリ消え失せ、男はそこの見えない奈落へと堕ちていった。老人が一息つくとずっとその場をみていたものに声をかけた。
「お主はこれで良かったのか?」
老人はまっすぐにそのものを……いや、私のことを見つめてそう問いかけた。正直にいうと私はあの男を別世界に転生させるのはあまり良く思っていなかった。だって、こうなることは目に見えていたから。
だから私はせめてもの制裁としてあの男が望む通り行かない世界への転生を望んだ。ああいうタイプは痛い目みてもただじゃ自分を省みない。それを知っているから。
「ええ、十二分に満足出来ました。貴殿の協力に感謝いたします。」
こうしてあの男の二度目の人生が終わった。崇拝され無双することを望んだ男はどちらも叶えることなく地獄に堕ちていったのだ。
今回は私がみたなかでもっともバカな男の生涯を紹介したがどうだっただろうか。どうぞ貴方達は今世に未練を残さないように生きてくださいね。
転生して最強チートで無双するはずだった 花月 零 @Rei_Kaduki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生して最強チートで無双するはずだったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます