第8話
兵士達が王妃を傷つけてしまう躊躇している隙に男は詠唱をし、魔法を発動した。
「我が身に宿りし闇の魔力よ!この者達に終わることの無い悪夢を与え続けろ!ポイズンドリーム!」
男の魔法に気づいた魔法士団員が周囲のもの達を守ろうと結界を張ろうとしたが、ほんのすこしだけ届くことができず、何名か魔法を喰らってしまった。急いで治癒術士が術をかけて回復させようと試みたが、どんな術式も効かず魔法を喰らってしまったもの達は悶え苦しんでいた。
「貴様、何をした!」
「何ってただ魔法をかけただけだぜ?魔族には国取り合戦の記憶が随分と根強いみたいだからな。その夢をみせてやってるだけさ。」
だけという言葉では到底表すことのできない非道さに、クラレスとネイトはもうこの男は狂ってしまっているのだとこの時心の底から理解した。そしてもう世渡り人として扱うことは不可能だとも思い、この国を恐怖に陥れる危険分子としてこの男を見ることに決めた。
クラレスは怒りを滲ませながら剣を抜き、ネイトも同様にして二人同時に構えた。その様子をみた男は心底楽しそうに笑い、王妃を収納魔法で一時的に収納した。
どこからともなく生暖かい風が吹き、それが開戦の合図となった。
「我が身に宿りし炎の魔力よ!我に仇なす敵を滅ぼせ!爆熱烈火!」
「ネイ、避けろ!」
「言われなくても分かってます!来ると分かってる攻撃をみすみす受ける程バカじゃありません!」
ネイトはひらりといともたやすく回避してみせたが男の目的はネイトではなかった。ネイトの後ろに植えられていたとんでもなく巨大な木。男が放った魔法は見事に命中し、一瞬にして燃え上がった。
メキメキと音を立てて火が着いたまま倒れる木。大きな音を立てて倒れるとあっという間に芝生へと燃え広がった。辺りは騒然として悪夢に魘されているものを屋内へ退避させるもの、恐ろしさで声を出すことすら出来ずにその場に立ちすくんでしまうもの。一瞬にして地獄を造り上げたおとこは愉快そうに声をだして嗤った。それはそれは楽しそうに。
「来るって分かってる攻撃がなんだ?大人しく受け止めてたら良かったんじゃないか?そもそもお前達が俺を連れてこなかったらこんなことにならなかったんじゃないか?」
それを聞いてクラレスとネイトはハッとした。確かにあの日、男を見つけて治療したあと直ぐにどこかへ行かせていればこんな地獄は生まれなかったはずだ。それに気づいた二人は本当に後悔をした。
だが、それはたらればでしかない。ここで悔やんでいても現状はなにも変わりやしない。何度も死地を潜り抜けてきたからこその覚悟を宿し、クラレスとネイトは一思いに男を切り捨てようと男に飛びかかった。が、それが叶うことはなかった。
男に明らかないへんが出始めたのだ。あ、だのう、だの意味のない言葉ばかりを出してもがき苦しんでいるように見える。クラレス達はこの症状に見覚えがある。
魔暴走だ。
男はずっと自分が思い描く最強の自分としてオーラを纏いながら戦っていた。しかし、それはリティスに言われていた通りとんでもない量の魔力を消費するため、不足した分の魔力供給が追い付かずからだが耐えることができなくなってしまっている。
これでようやく終わるのかとクラレスが一息つこうとしたときにネイトが男に向かって走り出した。
「ネイト、何をしている!お前まで巻き込まれるぞ!」
「団長、でも王妃様が!」
クラレスはネイトの言葉で背筋が一気に冷えた。そういえばこの男は収納魔法に王妃を収納して戦っていたはずだ。男が魔暴走により死んでしまえばそれと同時に使用者である男につくり出された空間も一緒に消え去ってしまう。急いで男を止めようとしたが時は既に遅かった。
男の体は綺麗サッパリ消え去ってしまったのだ。クラレスとネイトはその場に崩れ落ちた。国の王妃を、自分達のせいで失ってしまった。その現実だけが無情にも残ってしまい二人は大きな声で泣き叫んだ。
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