第7話

 リティスは男に対して気になっていたこと、どうしても理解することが出来なかったことを問いかけた。

「貴方が魔法を発動したときに言っている、あの不可解な言葉はなんなのですか?」

 それを聞いた男はキョトンとしてさも当然かのようにリティスに告げた。

「魔法には詠唱が必要だろ?なんでそんなに引っ掛かるんだ?」

「詠唱……?あんなに長いものは必要ないですよね?というか、あれは詠唱だったのですか?実地であれ程の詠唱中ずっと立ち止まっているのですか?」

 リティスが言っていることの意味が理解することが出来なかった。魔法を発動するためには詠唱が必要で、前の世界ではあれぐらいが普通だったし、どんな作品でも立ち止まって詠唱していた。

 しかし、男はフィクションとリアルの区別がついていなかった。いくら前の世界で見ていた物語がそうだったとしても、この世界はいまの男にとってはリアルなのだ。つまり、どういうことなのかというと

「あの詠唱だと詠唱中に魔物にやられてしまいます。私達が使っている魔法は昨日お見せした通り端的な詠唱で発動することができます。」

 リティスが言う通りの結果になるわけだ。現に、男はこの世界に転生してきたときと昨日で既に身をもって体験しておるはずなのだが都合の悪いことは忘れようとしていた。

 あれは何かの間違いなのだと。そんなことが起こり得るはずがない思っていたのだが、リティスによって一気に現実となってしまった。

「……魔力に関しては私達人間は到底貴方には届かないでしょう。しかし、貴方が今のまま魔法を使い続けるのであれば私達は必ず貴方に勝てます。」

「んだと!?」

「それ程までに貴方が行っていることはおかしいのです。まあ何を言ってもどうせ無駄になりますが。」

 それを聞いて男は激怒した。こいつもか、こいつも自分のことを蔑ろにするのかと。

 男に辛うじて残っていた理性は今のリティスの言葉によって焼ききれた。男は魔力を自分に纏わせオーラに見えるように放出し、手にも膨大な魔力を溜めて牢屋の鉄格子をひしゃげた。そして出来た隙間から見事に脱出して見せたのだった。

 あまりにに突然すぎた出来事かつとてつもない殺気と威圧感を放っている男を前にしてリティスは動くことが出来なかった。

 男はニヤリと笑うとリティスを米俵のようにしてかかえ、そのまま峰打ちをし気絶させた。そして男は上へ上へと天井を壊して強引に突き進み程なくして地上へと再び降り立った。どうやら地下牢からまっすぐ上に突き進むと医務室から見えた裏庭に出ることが出来たようだ。

 そこから男はとんでもない行動をし出した。裏庭から正門方向に歩きだし、途中で出会った門番をしていた兵士達を自分の詠唱魔法で完膚なきまでに叩きのめした。意識を失っているリティスに見せつけるかのように。

 男がそうして戦闘を繰り返していると、敵襲を知らせる鐘の音が鳴り響いた。かなり派手にやり過ぎたらしく事がとんでもなく大きくなってしまったが男はむしろ沸き上がっていた。もっと沢山の物達に自分の力を見せつけることができる。そして絶対に自分達で敵わないとなれば奴らは神のように自分を崇拝するだろうと歪んだ思考回路に陥った。

 大量の足音が聞こえると男は誇らしげにリティスを姫抱きした。そして到着した兵士や魔法士達は男とリティスを見て目を丸くした。

 兵士達の先頭に立っていたのはやはりクラレスでその後ろにはネイトが控えていた。

「世渡り人様……いや、カザムラ。王妃様に何をした!」

「これはこれは王宮第一騎士団の団長様。安心しろよただ気絶させただけだ。」

「王妃様を離せ!さもないと貴様の首は胴体と別れを告げることになるぞ!」

「副団長様は見た目に反してずいぶん物騒なことをおっしゃる。……やれるもんならやってみろよ。もしかしたらお前達の王妃様も巻き込んじまうかもなあ!」

 男は再び王妃を抱え直すと挑発的に叫んだ。

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