【短編】日向ぼっこ好きは 春一番 が好きじゃない

ほづみエイサク

日向ぼっこ好きは 春一番 が好きじゃない

 3月初旬。

 その日は朗らかな陽気でした。


 昨日は雪が少し降っていました。

 いや、昨日どころではありません。

 3日ぐらい、降ったり止んだりを繰り返して、大変でした。


 それなのに、今日は一転して春のようの温かい。

 まるで、空調のスイッチを切り替えたような変わり様です。


 完全に予想外。


 晴天。

 気温良好。

 日照りも十分。


 予想外に完璧です!

 今日は至高の〝日向ぼっこ日和〟です!!


 こんなに日向ぼっこに最適な日は、一年に一度あるかないか。


 本当は彼氏とのデートがありましたが、そんなことをしている場合ではありません。

 この日を逃してしまったら、ウチは一年間ずっと後悔してしまう。


 ウチは来月から中学三年生だ。


 一生に一度だけしかない、最後の中学生時代。

 そんな大事な一年間を、ずっと後悔し続けるなんて、考えたくもない。



(……さて、自分自身への言い訳は、これくらいで十分ですかね)



 彼氏には悪いけど、早速準備を整えましょう。


 デート服から、日向ぼっこに最適なラフな服装に着替えて――

 さらには、水筒とビニールシートをリュックに詰めた。



「おっと、これは忘れてはいけませんね」



 あとは、蒸しタオルは外せません。

 最近、日向ぼっこをしながら蒸しタオルをするのにハマっているのです。


 蒸しタオル自体が気持ちいいのはもちろんのこと、徐々に冷めていくことで時間感覚を楽しめます。

 日向ぼっこで体が温まってきたら、額に当ててヒンヤリ感を味わうことだってできてしまう。


 さらには、家を出るときにはアチアチにしておくのがポイントです。

 移動中に冷めて、ちょうどよくなりますから。


 これで準備は整いました!



「いざゆかん! 至高の日向ぼっこ!」



 ウチは意気揚々と、家を飛び出だしました。


 準備にも、一切抜かりはありません。



 そのはずだったのですけど――




「春一番のバカ野郎――――――!!!」



 ウチは思わず叫んでしまいました。



 その理由は単純です。



 春一番が強すぎて、全く気が休まらないのです。

 せっかくの日向ぼっこなのに……。


 ビニールシートはすぐにめくれてしまうし、蒸しタオルはすぐに冷めてしまう。


 一番つらいのは、どうしても、あの時・・・のことを思い出してしまうことです。



(台風の目で日向ぼっこした時の風に、少しだけ似てますね)



 なんで『台風の目で日向ぼっこ』したのかというと、


 あの時は色々と大変でした。

 家庭状況も、学校生活も。


 全部がグチャグチャで、自分の居場所がどこにもなくて、


 それで日向ぼっこで死にたくなって、色々やっていた。

 その時のウチはまだ若かったですねぇ。

 ……まだ一年経ってないけど。


 そして台風の目で、死のうとした。


 どうしても、その時のことがフラッシュバックしてしまいます。



「サイアクな気分です」



 だけど、これしきの事で諦めるわけにはいきません!


 ウチは、じいじから『日向ぼっこ好き』を受け継いだ。

 こんなことでくじけていては、天国のじいじに顔向けできません。


 そもそも、至高の日向ぼっこなんて、そう簡単に堪能できるわけがなかったのです。

 


(そう! これは試練!)



 この強風を防ぐためには、まず風の当たらない場所を見つける必要がありますね。

 ですが、風を防ぐだけじゃなくて、ちゃんと太陽光が当たらないといけない。

 そうじゃないと、日向ぼっこにはならない。


 ウチは河川敷を移動し始めた。


 ですが、全くいい場所が見つかりませんでした。



「なら次です!」



 次は、風を防げる場所を作ろうとしました。


 近くのスーパーから段ボールをもらってきて、簡易的な風除けを作ろうとしたのです。



「ああああっ!」



 だけど、軽すぎて簡単に吹き飛ばされてしまいました。

 まるで『3匹の子豚』に出てくる藁の家みたいに。



「これしきでは諦めません!」



 こうなったら、最終手段です!


 試しにテルテル坊主を作って、晴天の空に掲げてみた。

 これで風が収まらないかなー、と。


 もちろん、効果がなかったですが。


 テルテル坊主は春一番に飛ばされて、どこかへと飛んでしまいました。


 まるで巨人に息を吹きかけられているみたいで、不快です。



「ああ、春一番ごときに……」



 ウチは河川敷に寝ころびました。


 少しでだけ日向ぼっこして諦めよう。


 そう思って目を閉じた。


 矢先――



「おい、何してるんだよ」



 突然、声を掛けられた。

 聞き馴染みのある声だ。

 一瞬でその人の顔が浮かんで、心が弾んでしまうほどに。



 彼氏が仏頂面をしていた。

 いかにも


 一般的にカワイイと言われるウチとは、不釣り合いなほど、普通の顔面をしています。

 ですけど、その中身がかなり個性的・・・なのは、痛いほど思い知っています。


 彼は『レアチーズケーキ狂』です。


 デートで買い物をするときだって『レアチーズケーキをいくつ買えるか』を考えている。


 雲を見るたびに、レアチーズケーキの形を探す。


 女の子の肌よりもレアチーズケーキの肌に興奮する、と冗談を言う時もありました。

 だすが、彼女のウチからすれば、冗談に思えませんでした。 


 それら以外にも、未だに彼の『レアチーズケーキ狂ぶり』には驚愕させられることがあります。


 そんな、変人のかがみみたいな男の子なのです。



「何をしてるって、日向ぼっこですよ」



 ウチが人懐っこい笑顔を向けると、同志は仏頂面をぶら下げていました。

 あ、同志というのは彼氏に対する呼び名です。

 日向ぼっこの楽しみを共有できる同年代の異性がいるのが嬉しくて、そう呼ぶようなりました。



「今日、デートの約束だったよね?」

「でも、こうやって来てくれたじゃないですか。まだ待ち合わせ時間前ですよ」



 同志は「はあぁぁぁ」と大きなため息を吐きました。

 かわいい彼女がいる前で失礼です。

 


「この天気だったら、日向ぼっこをするだろうと思ったよ」

「わかってきましたねぇ。それでこそウチの彼氏です」



 同志は眉間にしわを寄せました。



「わかりたくなかったよ。約束をすっぽかされるなんて」

「何を言ってるんですか。予定を変更しただけのことです」



 ウチがとびっきりの笑顔を見せても、同志の顔は渋いままです。

 いえ、疲れている、というべきでしょうか。



「それなら連絡をくれ」

「連絡しなくても、来てくれたじゃないですか」

「屁理屈だなぁ」



 屁理屈、という言葉がカンに障ります。


 ここは言い返さないと気が済みません。 



「違いますよ。これは信用とか信頼とか、そういう素敵なものです」

「モノは言いようだ。ブラック企業のトップになる才能があるよ」

「そんなに褒められても困りますよ」

「……皮肉なんだけど?」



 なんだかおもしろくて、二人で笑い合いました。

 ただの軽口のたたき合いですけど、とても心地がいい。


 心がつながっている、という実感があります。



「ああ、そうだ。ほら、これ」



 同志はポケットから何か・・を取り出して、渡してきました。



 それを見てみると――



「あ、ウチの作ったテルテル坊主……」

「風に運ばれてきたんだよ。それで、君がいることに気づいたんだ」

「ああ、そういうことだったんですか」



 テルテル坊主は『天気の晴れ』は呼んでくれませんでした。


 ですが、ウチの『心の晴れ』は呼んでくれました。



「でも、よく気づきましたね。ウチが作ったものだなんて」

「ほら、いつもいいポケットティッシュ使ってるだろ。それに、目の書き方がかなり雑だった」

「なるほど。ガザツと言われたことを不服ですけど、」



 ウチは同志に向き直って、おねだりをします。



「まあ、とりあえず日向ぼっこでもしましょう。その後レアチーズケーキでも食べましょう」



 『その後レアチーズケーキでも食べましょう』の一文を付ければ、どんな要求も通りやすくなる。

 同志の彼女をする上での小技です。


 ですが、同志の顔はまだ渋い。



「こんなに風が強いのに?」



 半分は本心だろう。

 半分は早くレアチーズケーキを食べに行きたいだけだ。


 まだ馴染みのカフェが開く時間でもないのに……。


 その執念には、本当に呆れてしまいます。



「二人で肩を寄せ合えば、怖くないですよ。

 それに、最近は一緒に日向ぼっこしてないじゃないですか」



 そう言いながら、ウチは強引に同志を寝かせました。

 力は同志の方が強いのですが、抵抗する様子はありません。


 観念したのでしょう。

 ウチも相当頑固ですからね。

 同志もかなり思い知っているはずです。



「じゃあ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」



 ゆっくりと目を閉じる。

 お日様の光に、草と土の匂い。


 それだけで気分が安らいでいく。


 だけど、強い風が吹き飛ばそうとしてくる。


 でも、今は心が穏やかだ。


 すぐ隣から、同志の息が聞こえるからでしょうか。


 台風の目で日向ぼっこをしたとき、ウチは同志に助けられた。

 それで、どれだけ救われたことか。


 その一件がきっかけで、恋仲までになれました。


 一瞬だけ、同志の横顔を見る。


 全然カッコよくなくて、だらしない。



(だけど、それでいい)



 ウチはカッコよさを、そこまで求めていません。


 常に傍にいてくれて、浮気をしなくて――

 一緒にいるだけで、日向ぼっこみたいに心を温めてくれる。


 それだけで十分なんです。


 やっぱり、ウチはこの人のことが好きだ。

 一緒に日向ぼっこするだけで、そう強く思ってしまう。



 ああ、本当にテルテル坊主と春一番はいい仕事をしてくれました。



 今日は春一番に苦しめられた一日でした。


 ですが、春一番も嫌いじゃないかもしれない。


 その発見だけで十分な収穫かもしれませんね。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――

登場人物は過去作『チョメチョメ少女は遺された ~変人中学生達のドタバタ青春劇~』からの出演です


いわゆるスターシステム


少し悪く言えば宣伝です。


興味がわいたら、本編を読んで!!!!!!!

一応カクヨムコンの読者選考は突破しているので!!!!


文章やら構成やらは、今見れば雑だけど……


URL

↓↓↓↓↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330661278509471/episodes/16817330661279540491

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編】日向ぼっこ好きは 春一番 が好きじゃない ほづみエイサク @urusod

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画