自己紹介の時に言う趣味の正解って結局何


窓際の 汗を憐む 新学期。

そんな青春の真っ只中に向かおうとしている私は今、とんでもなく問い詰められています。

「ねえ、お風呂の時ってさ、上から脱ぐ?下から?それとも裂く?毎回裂く?」

なぜ席が隣なんだろう。無信仰だが、今日だけは神を恨んだ。

私は、白髪変態の心に触れぬよう、窓の世界を見てスカしていた。心の距離を、外にまで放り出そうとしていたのだ。

空はまるで真っ青なキャンバスのようだ。青空を真っ直ぐ、優雅に飛ぶ飛行機が筆となり、一直線に、飛行機雲を描いていた。

「ねえねえ、おっぱい何カップ?」

「なんなんですかもう!初対面に聞くことじゃないですよね?」

私は思わず立ち上がり、外れたつまみが、注目の目を一気に浴びてしまった。

「いや、おっぱいの大きさくらい聞かせてよ!」

意味不明な逆ギレが、皆がおっぱい星人を一瞬見た後、また私を見始めた。

いや、厳密には私の、私でも自信のある胸に、皆が視線を集めた。

今この瞬間、この一瞬だけは、いつもは凝視できない胸を、皆合法的にガン見出来る時間だった。

タプ。

「うーん、H、Hかな?Hですか?」

こいつは、今、何をしている。

ただわかるのは、胸を包むような両手の感触。こいつの、興味津々で爽やかな顔。

男子どもの、「おおっ」というかすかな歓声。そして、胸の重さが、一瞬だけ軽くなった。ということだけだった。

私の脳みその沸点を軽く超え、頭からヤカンの沸く音が聞こえた気がした。目の前が歪んで見える。皆が、私のことをほうぼうで話し始めている。何か、何か言わなければ、場を鎮める何かを。

「Iです!Iなんです!」

「名前?」

「違います!私はIカップなんです!」

場を鎮められた。

しかし、人間の本能として培われた嫌な予感が、私の頭の中で音量マックスで警報を鳴らしていた。

「あ、あわ、あわわ」

「あ、おっぱいの下、汗かき始めてるよ」

「きゃあああああああああ」

「諸君、入学おめでとう!」

私の平手打ちと同時に、おそらく先生であろう女性が、こちらの事情も知らず、勢いよく入ってきた。先生が伺える現状は、私がこの変態をただ叩いている様子。

終わった。みんなでプリクラとか撮りたかったな。お弁当のおかず交換したかったな。恋バナもしたかったな。みんなのMBTIも知りたかったな。卒業しても、私たちずっと友達だよねって、したかったな。

「熱いスキンシップだな!!」

「……」

「なんだぁ!この空気はぁ!春だぞ!桜散っちゃうぞ!」

先生のキャラクターに私を含め、皆がこう思っただろう。

こいつはヤベェ学園生活になりそうだ。

先生は黒いジャージで、髪の毛が紫色で、ヘアバンドでツンツンしている。元気そうな見た目とは裏腹に、黒板には可愛い字を書いていた。

「今日から担任になった!私の名前は千菊ゼンギク ユウ!見ての通り女だ!身長170センチ!」

うわ、私もそういうこと言わないとなのかな……。

「体重は女の子だから言いたくない!」

あ、そういう意識はあるんだ。

「普段は体育の教鞭を振るっている!好きな言葉は爆風スランプのrunnerのサビ全部だ!あとえげつないブラコンだ!よろしく!」

もう先生の価値観を見失ってしまった。

「じゃあそこから順番に自己紹介!」

え、待って。私は急に体がズーンと重くなった。

先生が指したのは扉側の一番前だ。

そして、私がいるのは窓側の一番端っこ。

寝るには最適なあの端っこ。

つまり私は、最後。大トリ。千秋楽。

まずい、みんな自己紹介を淡々とこなしている。

名前の後ってどうすればいいんだ。趣味とか言ったほうがいいのかな。趣味って何言えばいいんだ。まずい、みんなの自己紹介やってるよ。サッカー、バスケ、バトミントン。やばい。仲良くできそうにない。特にバスケ。こいつはやばい。絶対に女たらしだ。みんなのこと狙ってるんだ。

「はい!私の名前は加藤れなです!おもちが好きで、走るのも大好きです!あ、あと髪の毛白いのはアルビノなんですけど気にしないでください!」

周りから、「綺麗……」「可愛いー!」「れなちゃーん!仲良くしてー!」

とポツポツ歓声が聞こえ始めた。

あと、四人で私の番だ……。まずい、まだ何も思いついてないよ。ふと、肩からポンポンと優しく叩かれた。見ると、加藤さんakaど変態ヤロウが口に手を当てて、キラキラした目で、そっと囁いてきた。

「緊張してる?大丈夫だよ。私が魔法かけてあげる」

すると、ささやかな風が吹いた。

私の耳に。

「ひょえぇぇぇ!」

無意識に立ち上がり、また皆が私の胸に注目をした。合法ガン見タイムだ。

胸を見られることには慣れている。だけど、こんなに皆に見られると、流石に恥ずかしい。私は顔を赤らめながら、もうやるしかないと、空元気だけが鼓舞してくれた。

「わ、私は、矢車ヤグルマキヅキです。わ、私も、走るの、とか好き、です。よ、よろしくお願いします!」

タコのように腫れ上がりそうだった顔を隠すために、深々とお辞儀をした。

パラパラと拍手が聞こえて、私は許されたと思い、ゆっくりと座った。

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みかけハい々が、とんだこハゐ人だ 小南葡萄 @kominamibudou

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