みかけハい々が、とんだこハゐ人だ

小南葡萄

桜が咲く時期の雨の多さよ


春うらら 桜花道 新学期。

そんな日に、私は今。

変態に追いかけられています。

「きゃあああああああああ!」

良かった。今日運動靴履いてて本当に良かった。

良かった。通学路をリサーチしといて本当に良かった。

私はコンクリートの地面を必死に蹴りながら、肌に擦れるスカートを我慢し、腰に当たる鞄を無視しながら、百メートル地区予選二位の走りを、変態にお見舞いした。

もう、初日に遅刻しそうだっていうのに!

足音が急に消え、まくったかと後ろを見たら、変態は居なくなっていた。

赤信号が、私に一時の休息を与えてくれた。

本当に一時だった。

横断歩道の先に、変態が待ち構えていた。

白髪のショートヘアで、よく見たらおんなじ制服だ。

私は、こいつに触られたら転向する。そう心に誓った。

なぜ、サングラスとマスクをかけているんだ。

信号が青に変わった。

ふう、と息を吐くと、レースの開始の音が、聞こえた気がした。

私は走った。全力で走った。

汗を置き去りにし、なびく髪は、だんだん地面に水平なっていっている気がした。

しかし、私は変態を追い越すことができなかった。

なぜなら変態は、私の方を向き、腕を組んで、後ろ走りをしていた。

なんで、なんで、どうして。

私の頭は止まればいいとわかっているのに、先に体が、動いてしまっていた。

どんなに走っても、距離は縮まらない。いや、縮まっちゃダメだ。

周りの景色は変われど、前にいる変態はペースを保ち、私をただ見ていた。

「君もだよね?君もだよね?」

変態は、後ろ走りをしながら、私に会話を試みている。

「違います!」

完全に酸素不足だ。どんなことであろうとこの変態と一緒にされたくないと思い、私の本能が否定してしまった。

「え?じゃあその制服、盗んできたの?!まさか変態?!」

変態の驚いた声が、私をさらに動揺させた。

「ち、違います!」

なんで私が動揺しているんだろう。

もう、目の前には、私の新しい学校が見えていた。

初めまして新学校、さようなら新学校。

私は、この変態に襲われるんです。

暴力、カツアゲ、焼きそばパン買ってこいよ、お前の席ねえから、お前今日から椅子な、暇だからなんか面白いことしろよ、ジャミロクワイの真似しろよジャミロクワイの真似。

もう、ダメ。

校門の前でヨレヨレになりながら、この私が、足を止めた。ぽすんと、誰かの肩に当たった感触がした。

「大丈夫?疲れてそうだけど」

変態だ。おしまいだ。

「なんでついてくるんですか!ジャミロクワイの真似なんてしません!」

「は?いや、ほら、これあなたのでしょ?」

と変態が、ハンカチを差し出した。

あっ、私の。

受け取ると、変態がメガネとマスクを外した。

綿毛のような白いまつ毛、透き通った白い肌、ルビーのような綺麗な瞳。

汗が、水晶のような輝きを見せ、その汗を弾くように彼女は頭をかきあげた。

それはもう、吸い込まれそうなくらいに、可憐だった。

「あ、あと、パンツも落としてたよ。なんで?」

思わず、自分のお尻をさすった。ない。ない。なんで。もしかして

「あ、紐パンだ。可愛いね」

遅刻は免れたが、それよりももっと大事な何かを失った気がしたのであった。

そしてこいつは、紛れもなく変態であった。

「いやあああああああああ」

「おそっ」

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