地球の誇り
高黄森哉
我々は地球人だ
あるテレビショウの会場で、ある男がインタビューを受けている。彼は、地球星人を名乗りし存在だ。司会の男が、マイクを突きつけた。黒く太いマイクだ。
「どうも、今日はようこそお越しなさいました」
「どうも、どうも。地球人です」
どっと、会場に笑いが沸き起こった。
「はい。私は地球生まれです」
「ほう、地球生まれですか。さいですか」
「火星とかにいくと、ああ、地球生まれでよかった、と思うんです。気候が違いますから。それに、地球には生命があります。いやあ、この美しい星に生まれて幸運でした。僕は地球を愛してます。この惑星は、僕の誇りです。素晴らしい」
司会は噴き出した。
「そうですか。それは、愛星心がお強いことですね」
「そうなんです。この宇宙の中で、この地球が一番だと思ってます」
「あんたねえ、自分の言っていることがわかっているのかい」
司会の隣に座っていた科学者が横やりを入れた。
「宇宙ってのは、途方もなく広いんだよ。もしかしたら、空間的に円形をしていて、閉じた系かもしれない。でも、だとしても、その歪曲が検出できないことからして、やはり人間にしては無限に等しいくらいの大きさなんだ。そんな宇宙の中で、ここが一番だなんて。ま、ま、いいでしょう。ならば、その根拠を教えてください」
「例えば木星です。これは、ひどいガス惑星ですね。まず、ガスというのがナンセンスです。これは、屁で出来ているようなものですね」
「それのなにが、美しくないのかわからない。あなたが、天文学者じゃないから、そう言えるんだ。木星のなにをしっているというのだ」
激昂する科学者を黙らせる勢いで、地球星人が立ち上がった。
「わあ」
と司会と科学者は口をそろえた。
「科学者と言えば、地動説は間違っている。宇宙は、地球が中心なんだ」
「もう、科学の話はやめましょう。この人になにを言っても無駄だ」
そう提案したのは科学者だった。星人は、意に介さず続けた。
「地動説を推進する馬鹿は、きっと宇宙人です。顔が爬虫類みたいだ。ほら、この科学者の人も、目がつりあがっている。これは、エンドケラスに住むレプテリアンに違いない」
「偏見だ! 私の目がなんだという!」
「こらこら、誹謗中傷をしてはいけませんよ、ええ」
司会は、たしなめる。
「イエスキリストを見習ってほしい。彼も私と同じ地球星人です。マイケルジョウダンや、レオナルドディカプリオ、オードリーヘップバーン、ガンディ、同じ地球人として誇らしい。やはり、地球人は優れているのでしょう。選良種族、ホモサピエンスはさすがで、様々な優良存在を生み出している。」
ふん、と鼻を鳴らして、傍で静かに聞いていた、皮肉屋が口を開いた。
「思い上がりだ。ちっとも、てめえと同じものか。そんなことを言い出したら、誰だってそいつらと同じじゃねえか。あたかも、同じグループにいるように、云っているが、それはレトリックで、実際はまったく別のグループだね。だって、お前、別になにもしてないんだろ。それに、そんなことを言い出したら、スターリンやヒトラー、昭和天皇も同じくくりじゃないか。いいとこだけ見て、悪いところはちっとも見やしない。そりゃ、都合が良すぎないかね」
「待ってください。その二人に、天皇陛下を並べるのは、失礼です」
司会は、たしなめようとする。
「いやいや、第二次世界大戦時の国の代表者というだけで悪意はないよ」
皮肉屋は、唇の右上を引き上げて、犬歯を見せた。
「ま、こいつのいってることは、ナンセンスだって話だな。お引き取り願おう。気分を害した」
そういわれた地球星人は、にこにこしながら立ち上がった。両手の指先はしっかり伸ばされ、太ももにぴったりと吸いつけられている。そして、こう締めくくった。
「一発芸、題名、『ニュース番組』」
地球の誇り 高黄森哉 @kamikawa2001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます