エピローグ:トランス・マキナ
「雛様、エヴァさん、ご結婚おめでとうございます!」
喜びに満ちたオリヴィアの声が、会場に響き渡る。雛とエヴァの結婚式が、静かに執り行われていた。参列者は多くないが、二人を祝福する温かな眼差しに包まれている。
「オリヴィア、来てくれてありがとう。あなたは、私たちにとってなくてはならない存在なの」
雛は、オリヴィアの手を取って微笑んだ。
「雛様、今日という日が来るなんて、夢のようです」
純白のドレスに身を包んだエヴァが、感極まった様子で言葉を紡ぐ。
「エヴァ、あなたと出会えたことが、私の人生で何より大きな幸せだったわ」
雛もまた、深い感慨に浸りながら微笑んでいる。そんな二人を見守るように、エヴァの体から小さな電子音が奏でられる。その音色は蛍の光のように会場に舞い、人々の心を包み込んでいく。
「あなたと一緒にいると、いつも心が安らぐわ。まるで、トランス・マキナみたい」
マーガレットがエヴァに語りかける。その言葉に、エヴァは微笑んだ。
「マキナって何?」
隣りにいた子供が、不思議そうに尋ねる。
「マキナというのはね、機械という意味なの。でもエヴァは、特別な機械。人の心を癒やし、希望へと導いてくれるトランス誘導マシーンなのよ」
マーガレットが優しく説明すると、子供の瞳が輝いた。
「僕も、エヴァさんみたいになりたいな!」
その言葉に、エヴァはにっこりと微笑む。
「あなたは、あなたのままで素敵よ。私たちは皆、一人一人が特別な存在なの」
エヴァの言葉は、人間とアンドロイドの垣根を越えて、子供の心に響いた。
列席者の中には、レオンとソルの姿もあった。そしてイモータルから解放されたアンドロイドたちは、今では雛の活動に欠かせない戦力となっている。
会場の一角をみると、小さな子供とアンドロイドが手を繋いで座っていた。子供の友人であるそのアンドロイドは、まるで人間の子供と見分けがつかない。二人は時折顔を見合わせては、無邪気な笑顔を交わしている。
その微笑ましい光景は、雛の目にも飛び込んでくる。人間とアンドロイドが自然と寄り添う姿。それは、雛たちが目指してきた共生社会の理想そのものだった。
「お二人の絆は、私たちに大きな希望をくれました。心から祝福します」
レオンの言葉に、マーガレットもソルも心から同意する。
「これから先の道のりは、決して平坦ではないかもしれない。それでも、あなたと一緒なら乗り越えていける」
雛は誓いのキスを交わしながら、エヴァにそっと語りかける。
「ええ、どんな困難も二人で乗り越えましょう。そしていつか、人間とアンドロイドが真に理解し合える世界を実現するのよ」
エヴァの瞳には、揺るぎない決意の炎が宿っている。
式の最中、雛はふと思い出していた。意識移植を受けた少女の姿を。今、彼女は新しい体を得て、自由に歩み、走り、笑っている。家族に愛され、友人に囲まれながら、自分らしく生きている。
あの子の未来が、私たちの希望だと、雛は心の中で呟いた。意識のデジタル化は、諸刃の剣だ。悪用すれば、脅威にもなりかねない。だからこそ、技術の行く先を、人々の幸せにつなげなければならない。雛はそう固く心に誓っていた。
「みんな、私たちの戦いはまだ始まったばかり。でも必ず、人とアンドロイドが心を通わせ合える世界を作ろう」
雛が呼びかけると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。子供とアンドロイドも、小さな手を精一杯叩いている。その姿に、雛は確かな手応えを感じずにはいられなかった。
こうして、雛とエヴァの新たな一歩が始まった。しかし、それはゴールではない。本当の意味での共生の実現のために、彼女たちの戦いは続くのだ。科学の発展と、魂のあり方。その狭間で、雛は人々の幸せを求め続ける。そんな雛の横で、エヴァもまた誓いを立てていた。
「この手で掴んだかけがえのない絆を、何があっても守り抜く…」
未来へと続く長い道のりの先に、きっとエヴァと雛の理想とする世界が待っているはずだ。人間とアンドロイドが、自由に手を取り合える、誰もが幸せに生きられる世界が。子供とアンドロイドの笑顔が、その希望に満ちた未来を雄弁に物語っている。共生社会の種は、確実に芽吹き始めていたのだ。
二人はこれからも歩み続ける。愛する者たちと共に、新しい時代を切り拓くために。
星空の下、雛とエヴァは再び口づけを交わした。エヴァの体から再び電子音が奏でられる。まるで二人の幸せを祝福するかのように、その音色は夜空まで響き渡った。
人とアンドロイドの融和を象徴するエヴァの存在。彼女こそが、人々の心を癒やし、希望へと導く特別なトランス誘導マシーンなのだ。
【完】
トランス・マキナ たきせあきひこ @puzzlepocket
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