第6話  森の主 ヤ=テ=ベオ

森の深層に入ってからずっと何かに見られているような視線を感じる。ここが深層と呼ばれている理由は木々が高く生い茂る森林の奥地という理由と、ここに入って誰も帰ってこれなかったことから、後戻りのできない‘深い場所‘という意味でそう呼ばれるようになった。


俺は魔物ながらその数十キロ先から感じる強力な視線に旋律を感じた。魔物だから、下手には他の魔物には攻撃されないと思っていたが、ここら辺では魔物の死体が全く見当たらない。表層では凶暴な魔獣と多数戦ったがここは何かが違う。単純に魔獣の数が少ないのか、それとも…


刹那、右斜め上後ろから魔力の膨張を感じたと気づくよりも早く俺の脊髄は条件反射で敵の奇襲を躱した。


ドシュッ!


音の方へ目を向けると地面を突き刺す木のツタの様な物が視線に入った。危なかった。それの見た目は金属よりも弱弱しい木であったが先の方に魔力が集中していて、自分への果てしない殺意を感じる。こいつは今までの魔物と違って明確な意思を持っている可能性が高い。


淡い期待を抱えながら、追撃を防ぐ。  


ズン!


大地が揺れる。


突如として樹木の間から現れたのは、全身にツタを巻いた単眼の巨人だった。巨人だ。ゴブリンでもなく巨人だ。目が1つのを見ると俗に言うサイクロプスというやつか?


「ゴアーーー!」


森全体が揺れるような衝撃波が轟く。木々が荒ぎ見えない魔力の壁が俺を襲った。コイツ強い。声だけで木々を吹き飛ばすなんて。そう思いながら鑑定した俺を絶望が襲った。


******************


種族 サイクロプス

名前 なし

level 5


圧倒的なパワーと魔力を持つ巨人の一種。腕の一振りで巨大な岩をも砕く。巨人種の皮膚は並みの金属より硬く、体力と食欲は底知れない。


******************


なんだと!?


これで5レべだと!


どうなっているんだ?! チートではないか。 それに並みの金属が通らないなら金属である俺はどうなんだろうか。


攻撃に入る前に鑑定していてよかったと過去の自分を褒めた。


こい! トレニーアックス!


俺が手を変形されて取り出した得物はいつも使っている魔力を帯びた斧だ。こいつは手に持つと何でもかんでも魔力のそうで傷つけていく。だから‘横暴‘という名前を付けた。


「ハア!」


ガキンッ!


やはりか、硬いな。マンティコアの事を思い出す。さてどうやって倒そうか。火を使って窒息させようか、それとも目をつぶそうか…


ロックバレット!


ブスッ


「グオーー!」


よし、痛がっているぞ。


「グフッ!」


目が見えないからと油断していた俺の体は奴のこん棒によって叩きはらわれた。


何が起きた? 確かに目はつぶしたはずだが…

それもそのはず奴は叩き払われた俺に向かって走ってくる。


ロックウォール×5!


ズシン! ズシン! ズシン! ズシンズシン!


予想はしていたがロックウォールは紙屑のように破られていく。


ならば炎はどうだ!


「ッーヒューー…」


ドオオオオオオオン!


まじか…


当たりが焼け野原になるまで魔力を使った俺の‘火炎放射‘を受けても奴は立っている。ところどころ皮膚は焼けただれていたが、健在だ。

さてどうしようか。そう焦りが出てきていたが、サイクロプスの様子がおかしい。何もいないところに向かってこん棒を乱雑に振るっていた。頭がおかしくなったのか?それとも俺の攻撃が効いたのか…


よし、これなら楽に倒せるな。


ランドリクファクション!


これは土魔法第四階位の中でとく魔力の精密な操作が必要とされる魔法だ。名前からもわかる通り、地面を液状化させる。液状化するには堆積した層を構成している岩などが振動などによって崩れ、ほぼ同じ大きさの砂になる必要がある。今使う技は地面の石などを砕かずに土魔法で細かな砂に変化させる物だ。そのため全て同じ大きさの粒にしないと相手は沈んでくれない。


「グワッ! グア! アアアアーー!」


突如として自分の体が半分ほど沈んだサイクロプスは驚いているようだ。本来はそれほど早く沈まないが、巨人はなんせ巨大で体重が数十トン単位あるからだ。

目に見える速度で沈んでいく巨人を見て少し哀れに思った。奴は目が見えいないから目の前が真っ暗だろうに、それで段々と水のようなものに体が包まれているのだから。 皆も想像してほしい。水中で潜っている時にいきなり目が見えなくなったらかなり混乱するだろう。それどころか、恐怖で必死に暴れまわるだろう。


頭が見えなくなったところで奴の息が絶えるまで液状化し続けた。


ピコン!


レベルアップの通知音だ。やつは死んだな。

しかしどういうわけなのか、俺が直接手を出さずに経験値が入ってきた。液状化は俺が放った魔法として認識されているのか? ますますこの世界の仕組みがわからなくなってきた。


南北山脈に行こうと、深層を歩いていると緑のツタに覆われた、魔獣が集団で襲ってくる。だがどれも巨体を持っているので、ランドリクファクションを放ったが死なかった。どういうわけだ? こいつらは空気を吸わないのか? それともこの世界では空気を吸う魔獣の方が珍しいのか…


首がほぼないけど首を捻っていると頭に思いついたのは奴らが種を問わずツタに覆われていることだった。あれは何なのだろうか。サイクロプスは炎でツタがなくなったところで窒息した。それにツタが炎で焼き飛ぶと同時に目が見えなくなったのだ。やはりツタと奴らは別の生物なのか…?


目も見えないはずなのにツタがあると俺の位置を把握してきた。寄生の類なのか?奴らの動きは何というか最初からギコチなかったと思っていたが自身の脳で行動していなかったのか? だがそうするとこの森に他にも寄生しているやつらがいる可能性が高い…


「そういうことか!」


遂にわかったかもしれない。魔獣が大量にいるのに死体を見ない理由は奴らはすでに死んでいるということだ。そして奴らは寄生者に操られている。それならばギコチない動きも理解できる。


液状化を止め、土魔法で地面を隔て身動きの取れない死体たちに炎を撒き、再び生き埋めにする。まるで俺が始皇帝みたいだ。安らかに眠れ…


ピコン!


いっきに4レべも上がった。


しかしどうしたものか…、こ奴らは永遠にわいてくるな…

数十匹は倒したかと思うとすぐに増援が来た。やはり、寄生種だから親玉のような奴がいるのか? 口を砲台に変化させ、当たり一面に炎を撒く。


段々出現する速度が速くなってきている。きりがないな、早くこの森林を突破しなければ。 


身体強化!


逃走するように走り始めると魔獣は俺の後をついてきた。俺は今気づいたのだ。この森全体が波のように俺を中心に波紋を立てている。目に映るすべての木々に亀裂が走る。木々が割れたと思ったら、木だと思ったものが魔物だったのだ。その全てがツタに覆われており、寄生種だということがわかる。アグド大森林の深層はただ深い森ではなく、寄生種の狩場だったかもしれない。


南北山脈が青く見えてくるほど東に走っていると、奇妙な野原にでた。周りはサイクロプスの身長の3倍はあろうかとするほどの高く暗い木々で囲まれている。その小さな野原には一面に花が、木々がなく唯一中心に妙な雰囲気を放つ年寿の効いた茶色の木が一本周りの木々に守られるような形で鎮座していた。


追ってきた魔獣どもの気配が全くない。この空間はいったい何なのだろうか…


「よく来た、矮小なる者よ。」


声が聞こえる。これは神と出会ったときの真っ白な空間で聞いた声とは違いその声は年寿の効いた木から聞こえた。

重圧感がする。レベルは向こうの方が圧倒的に高いだろう。


鑑定!


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名前 なし

種族 ヤ=テ=ベオ

level 899


森林の守護者。人食い植物。世界樹の血筋を持つ者。鑑定のレベルが低いため解析できません…


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レベル899…。

圧倒的だ。今の俺が10000人いても勝てないだろう。だが寄生種の親玉はコイツなのか?それに、人食い植物ってなんだよ。


「矮小なるものよ我を探るか…。」

「っ!」

「まあ、そう恐れなくてもよい。敵対する意思はない。少し話し合おう。」


危なかった。鑑定されたことをどうやって知ったんだ。俺は鑑定されたことがないからわからないが力の差があると自然にわかる物なのか?


「なぜ、この地に足を踏み入れた?」

「南北山脈を越えるためにここを通らなければいけなかったからだ。」

「ふむ。あの山脈か…。」

「よかろう。私が送ってやる。」

「え?!」

「貴様は人間ではないし我とても友好的であろう。」

「まってください。あなたはなぜ最初俺の事を魔獣で襲ったんですか?」

「それはすまなかった。わしもこの地の全てを制御できぬのじゃ。」

「ではなぜここにいるんですか?」

「それか、それは教えられない。とにかくされ。」

「そうですか。」

「転移させるぞ。そこに立っておれ。」

「転移?」


物質を転移させるということか?それも意思をもった生命体をか?量子テレポーテーション? ???


次の瞬間俺の足元に複雑な魔法陣が出現し、あたりが光に包まれたと思ったら山脈のふもとに立っていた。

なんだったんだ?あの植物は?とても友好的だったが人間の嫌っているよに感じたが…

あと、俺も転移魔法が使えるようになりたいな。これはかなり便利だ。移動がすぐにはかどる。



アツアツしい日照りが照らす山脈を歩いていると俺の陰がいきなり大きくなったような気がした。いや、それは俺の陰ではなく、別の存在の陰だった。

なんだあれは? 鳥? ドラゴン? いや巨大な鳥の群れだ。

奴らは上空で獲物を探るかのように俺の周りを周回している。


鑑定!


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名前 なし

種族 テンペストイーグル

level 45


巨大な鷲。非常に強力な爪と嘴を使って得物を狩る。高度の高い山脈地帯に生息している。混乱や嵐を呼ぶとされており、その姿をはっきり見ると襲ってくる。


******************


嵐を呼ぶ鷲か…

おっ! 今目が合ったぞ!


目があった瞬間奴らは速度をあげ、急降下してきた。


ふん! ロックウォール!


ガキン!


この岩の壁は俺がサイクロプスたちに破られて編み出したものだ。ダイヤモンドのような等しい小さな構造を連鎖させた構造をしており硬く、魔力の燃費に優れるが頭の中で一時的に想像しないと繰り出せないものだ。


お前には俺の経験値になってもらう!


ファイヤー!


「「ギェェーー!」」


そして飛び立つ前にロックウォールを改変して鳥かごのような構造物を出現させる。

ふん。もう鳥かごの中の鼠だな。自慢の羽は意味がないな。

じゃあさようなら。


火力を上げると奴らの羽は燃え尽きて地面に墜落していく。


ピコン!


嵐をよぶ鳥と呼ばれているには弱かったな。俺が強いのか?


風向きが変わった。何かが近づいてくる。俺は慌てて近くの洞窟に隠れる。

上空に積乱雲が立ち込めて巨大な鳥の陰が雷に打たれて雲に映る。

なぜテンペストイーグルがあんなに弱かったのか。あれは雛だったのだ。雲が先ほどの雛たちのようにここを中心に渦を巻いている。


遂に成体の姿を拝むことができた。

その体は暗い暗雲のように灰色で、羽は雲を覆いかぶすほど巨大だ。まさに嵐を呼ぶ鳥だ。


鑑定!


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名前 なし

種族 テンペストイーグル

level 789

    ・

    ・

    ・

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789越え!

相変わらず勝てそうにない。この山脈でこれまで見た中で一番高いのは67レべだった。


「ピギャーー!」


奴は無残に焼き尽きた自らの子供たちの死体を見て叫んだ。そして、水銀の様な液体が両目から滴った。


奴は涙を名がしている。奴には感情があるのか?

俺のなかでなんとも言えない感情が広がった。

いや仕方なかった。先に襲ってきたのは向こうだったんだ。俺は自分を守るために殺したんだ。正当防衛のはずだ。


しかし、雛たちの遺骸のそばに立っている悲しみに暮れた親鳥を照らす小さな光の柱を見続けて感情的になってしまう。


「ピギャーー!」


ドーン! ゴロゴロゴロ


怒りだろうか。当然の怒りだ。奴の咆哮と共に白銀のいかづちが轟いた。雲がどんどん膨れ上がっていく。それは空を全て埋め尽くしてしまうと氷のように冷たい雨を降らせた。それと共にところどころでは雷鳴がなり嵐が吹き荒れる。


やばいな。

怒らせてはいけない奴を怒らせてしまったかもしれない。

この巨大な積乱雲は空全体を覆っている。アグド大森林の一部をも覆いかぶせているだろう。

自ら引き起こしたこの事態を収拾しようとも今の俺には何もできなかった。行けばたちまち殺されるだろう。多分俺に雛の匂いがついていると思う。

そして、子供らの遺骸を優しく爪で掴み空のかなたに去っていく親鳥をただ傍観するしかなかった。

この嵐は一週間ほど続きそうだな。


俺は改めて自分の弱さに胸を突き動かされた。自分で起こした事態をも収拾できなかった。





ある山の頂付近にて…


なんだこの胸騒ぎは…?


そうかわが同胞が起こっているのか。しかしこれほど怒ったことは今までになかったぞ。

久しぶりに会ってみるか…




例の事件から3週間後…


ルーは砂漠を歩いていた。果てしもなく広がっている荒廃した草原を。

この三週間ルーは南北山脈で何度も魔獣と戦ってきた。そして、もう少しで三度目の進化をしようとしていた。

あのような魔獣はあれ以降合っていない。あれの雛にあったのが不運だったのか幸運だったのか今はまだわからない。ただ幸運だったのは親鳥に自分の存在が見つからなかったということだ。


しかし、その予想とは裏ばらに親鳥にとってルーは矮小すぎる存在だった。存在を察知していたが今はただ悲しみを紛らわせたいと望んでいるだけだった。


「よし、この辺かな。」


旅の期限はあと5週間だった。


「クカカカカ、」

「またお前らか。」


ルーは幸運にも敵対的な意思しか持っていない魔物と何度もこの砂漠で鉢合わせした。ゴブリンの亜種や、オーガ、砂漠のワームや一番会ったのが魔物の動く死体だった。

死体だからといって、大森林の主とは違う。ここで生きている魔物を殺すと種族関係なくアンデットになるのだ。

そう考えるとこれはただの自然現象ととらえてよいのかもしれない。


ファイヤー!


死に座られる者たちは俺の炎で火葬されていく。砂漠だから乾燥していて、とても燃えやすい。


ググググン!


突如大地が揺れた。この振動はサンドワームなのか?それにしては揺れが大きい。この揺れを動かすにはどれほどの巨大が必要なのか。


ドドドン


砂から出てきたのは巨大な蠍だった。死体ではなく生きていた。


「なんだあれは? デカすぎやしないのか?」


鑑定!


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名前 なし

種族 ギガントデザートスコーピオン

level 125


砂漠の狩り人。デザートスコーピオンの上位種。サンドワームの天敵。その体を覆うよりは砂の中で移動しやすくするために凹凸が少なく、また僅かな振動をも感知する高度な器官を持っている。


******************


レベルは俺より高いが勝てないわけではない。お前には俺の進化への踏み台になってもらう!


「キシャー!」

「ハア!」


その巨大な毒針はさらに強化したロックウォールに阻まれた。そしてとても慣れた動きで、尾に深い切れ込みを入れる。


「悪いなもうお前と似た奴と何度か戦ったことがあるんだ。」

それもそのはずこいつは再生能力が低い代わりに防御力が高いだけで大本はマンティコアと変わらない。


「ふん!」


ガキン!


「ピシャー!」


尾が落ちた。鈍い音をたてて胴体からずれ落ちた。あとはハサミの様な前足だけだ。


ルーは蠍の姿を初めて見た時から、焦りは感じなかった。なぜなら、ここは砂の上だからだ。相手も砂の扱いには慣れているが。土魔法を使うものにとって砂漠は絶好の闘技場だった。水魔法を使うものが海の上で無敵になるように小さく砕かれた砂が無尽蔵に存在する砂漠では、平原などよりも簡単に土魔法を行使することができる。砂を魔法で想像するよりももともとある砂を操る方が簡単だからだ。


「そのハサミは危険だからしまってくれ。」


蠍が砂の中に逃げ込もうとした岩の地面に阻まれた。


「じゃあな!」


ザクン!


動けない蠍は無慈悲な鉄槌にその鋼鉄の頭を地面につける形でこうべをたれた。


ピコン!


レベルが満たされました。


進化することができます。


進化先を選んでください。


「ふむふむ。進化先は…」


************************************


3日から7日以内に更新します。









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転生したら野生のゴーレムだった All MY SL0NE 被岸への橋掛け 青いワシ @BlueEagle25

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