未来図書館~盗作ラノベ作家のやり直し~

時守ナガト

◆盗作ラノベ作家のやり直し

「未来図書館……本当にあったのか」


 ラノベ学校の生徒・川合ソウタは、人気アニメーターがインタビューで語っていた未来図書館なるものの存在を信じてはなかった。


 だが、ある時そのアニメーターのいう通りに空きスペースを目指して歩いていたら、遠くにそれらしき建物が見えたので、まさかと思いながらもやって来た。


 中に入るとそこは図書館というよりも、喫茶店といった雰囲気だった。

 いくつものテーブル席と椅子、客はだれもおらず奥のカウンターには、うさ耳を付けた女性がいた。


「はいはい、ご主人様~お一人ですか?」

「あの、ここ図書館なんだよな?」


「はいはい、そうですよ。私は司書のリサです」


 司書というよりは、メイド喫茶のメイドウェイトレスにしか見えなかった。

 それはともかく噂が本当ならアレが出来る。


「川合ソウタ名義のラノベはあるか?」

「奥にありますよー」


 気が付くと、奥には大きな図書館とでもいうべき書棚の列があった。


「取って来ましょうかー? 司書なので」

「ああ、頼む」


 奥へと引っ込んだリサは、しばらして戻って来た。


「はい、これですー」


 そこには全12巻のライトノベル『無限世界の調停放棄者バランスブレイカー』があった。


「おお」


 ソウタは喜んだ。

 ライトノベルで12巻続くと言えば、結構なヒット作だ。


 だが、ふと思った。


「1作だけか?」

現在いまはそうです」


「そうか……のちのち追加されるのか?」

「それはお客様の行動次第でございます」


「貸し出しは出来ませんので、読むなら館内でお願いしますね」


 リサは言って奥に引っ込んでしまった。


 しめた、とソウタは思った。


 ソウタのやりたかった事とは、


「自分の小説をパクっても盗作なんて言われないしな、俺って頭いい!」


 せっせと、スマホにストーリーの要点だけ箇条書きにしてメモして行った。


 全12巻である、一日ではとても読み切れない。


「なあ、ここは明日も来られるのか?」


 未来の本が手に入る場所なんて、どう考えてもフツーじゃない謎空間だ。


大丈夫ですよ」


 リサの言いようが気になったが、ソウタは明日も来る事にして帰宅した。


 家に帰ったソウタは、早速スマホのメモを見ながらパソコンに小説を打ち込んで行く。


 タイトルはもちろん未来の自分の著作『無限世界の調停放棄者バランスブレイカー』。


 初日はスタートダッシュという事で、1巻の中盤の盛り上がる部分まで書き終えて就寝した。


 翌日、目が覚めて昨夜公開した自作をチェックして驚いた。


 ★が300以上入っている!


「はははっ、なんだよこれっ! すげえぞ!!」


 以来、ソウタは未来図書館に通い詰めた。


 シリーズを読み終える頃、未来の自分が書いているのか、自然と次シリーズが入荷された。


 最新作『女魔王カノジョボク代理戦争バトリアゲーム』を小説投稿サイトにアップした時、それは起こった。


 コメント欄が荒れたのだ。


 まとめると、某作品に似ている、という物だ。

 悪い物だと、パクリ、盗作などというコメントも来た。


「なんだよこれっ!?」


 ワナビスレをのぞいてみると、専用スレが立てられパクリの検証がなされていた。

 そしてそれは最新作だけでなく、過去のシリーズ作品にも及んでいた。


「なんだよ、なんで自分の作品が他人のパクリになるんだよっ!!」


 ソウタは、お門違いの文句を言いに未来図書館を訪れた。


 そこは、喫茶店の様な内装から一変し、普通の図書館のように変貌していた。

 そして、かつていたリサはもういなかった。


「ソウタさまですね? 私は司書のミヤコと申します」


 そこには長い黒髪の女性が立っていた。


「リサって子はどこに行ったんだよ」

「……あの子はもういません」


「は?」

「貴方がつぶしたのです……という存在を」


「貴方は盗作に手を染めなければ、ひとかどのラノベ作家になるはずでした」


 ミヤコは、告げた。

 リサは、ソウタの作品に登場するキャラクターと。


「ですが、貴方は盗作に手を染め未来は変わりました」

「……なんっだよ」


 ソウタは、絶望にその身を締め付けられる思いがした。

 自然と涙があふれた。


「創作の創でソウタ、名前が泣いてましてよ?」

「うるさいっ!」


 ソウタは、未来図書館を飛び出して走った。

 人にぶつかっても止まらずに走る。


 信号も無視して走った。

 記憶にある一番高いマンションの階段を上り、屋上へ出た。


「はぁはぁ、くそぅ! なんでこんな事になるんだよっ!!」


 ソウタは、絶望していた。

 もう絶対、プロになれない。


 最初は、自分が感動した物語を見て得た様な、希望を誰かに与えたかった……ただそれだけのはずだったのに。


「なんでこんな事になったんだよっ!」


 分かり切っている、盗作らくをしたからだ。

 盗作する奴なんてサイテーだ。


 死ねばいいとさえ思っていた。


 死――そう死ねばいい。死ぬしかない、死ね、死ね、死ねよお前。


「死ねよ! 過去の俺、ちゃんとした世界線に俺を戻せよ!!」


 分かっている、もうどうにも出来ない事を。


「うおぉあぁあああああああああああああああああああああ!!」


 ソウタは、屋上から飛び降りた。


 ドンッ


 鈍い音と同時に息が詰まった。


 痛みはない、ただ首の後ろがしびれている感覚がある。

 おそらく首の骨が折れている。


 苦しい……ただ苦しい。


(俺、死ぬんだ……)


 意識が遠のいて行った。


◆◆◆


「なんでだよっ!!」


 ソウタは目を覚ました。


(夢……? じゃないか)


 ノートパソコンを立ち上げ自分の専用スレを開くとそのpartは16まで進んでいた。


「俺は川合創太……41才」


 未来が見えるなんてまやかしだ。

 過去は変えられない。


 世界線なんてない。

一人一人の人間が、悩み・苦しみ・生きた結果――それが未来だ。


「……書くか」


 ソウタは、また動き出した。


 自分の愛すべきキャラクター・リサにまた会うために。




END

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