凍てる白銀、銃剣と共に

碧天

一年目

「よう」



 椅子の上へ投げかけた声は、彼女の思考を意識水面上へと引き上げた。



「その様子は部屋のドアが開くのを待っている様に見受けられるな」


「....」



 人形のように押し黙る女性。俺の社会的好感度を誤解されないために言っておくが、彼女とは初対面だ。決して知り合いにガン無視されている訳ではない。



「前はどこに行ってたんだ?」


「....私は」



 そうして問うこと二言目、ようやく彼女は小さく顔を上げて―――



「慣れ合う為に軍にいる訳じゃない。用が無いなら話しかけないでくれ」



―――棘のある言葉を返し、俺をめ付けた。

 顔を上げたことで、初めてその素顔が露わになる。窓から射す陽光を反射させるグレイシャルヘアに、光を宿さないくすんだ碧眼。その対比は、どこが神々しくて。俺は思わず、言葉を失ってしまった。



「あ、あーすまん。気分を害したなら謝るよ」


「....」



 不機嫌な態度を隠そうともせず、彼女は腕を組む。マズったな....と頭をポリポリと掻いていると



「ドヴァーテンだ」


「ん?」


「私が前にいたのは、ドヴァーテンだ」



ぶっきらぼうに、答えが帰ってきた。



「ドヴァーテンっつーと包囲戦があったとこか。あそこは結構激しかったって上官様から....」


「失礼しました」



不機嫌ながらも俺に答えてくれたことがうれしくて、さらに話を続けようとする。だがそこまで口にした時、前の執務室から人が出てきてしまった。



「やべ、もう行かねぇと」



襟を正し、別れを告げる。



またな・・・




報告が終わり部屋を出たときには、彼女はもう居なかった。




◇ ◆ ◇ ◆




「また、か......」



ふ、と一息笑みを漏らす。笑ったのなんて、何ヶ月ぶりだろうか。



「軍兵がそれを口にするのが、どれ程罪深いことか......分かっているか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

凍てる白銀、銃剣と共に 碧天 @hekiten

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ