エピローグ

 セレネの言っていることを理解できなかった。

 お姉ちゃんが患っている『災禍の息吹』の治療に必要な素材は揃っていない。一番入手が困難な素材を入手する方法がなく、その代用品である鏡像の欠片も手に入れ損ねたから。

 なのに、その素材がなくても治療薬が作れる……?


「セレネ、それは本当なの?」

「本当よ。と言っても、治療薬とは少し違うかもしれないけれど」

「……どういう意味?」

「本来の治療薬にある効能は二つ。一つは、魔力に蝕まれた身体を癒やす効能。そしてもう一つは、身体が魔力に蝕まれないように耐性を上げる効能よ。そして、足りない素材は、耐性を上げる効果を得るものなの」

「……ええ、知っているわ」


 そして相手の能力や姿をコピーする、鏡像のアルモルフから得られる鏡像の欠片には、対象の魔力を自分の身体に馴染ませる効果がある。

 これによって、自分の魔力に蝕まれることを防ぐのだ。


「……もしかして、文献にあった素材以外にも、耐性を上げる方法が見つかったの?」

「残念ながら、それは見つかっていないわ。ただ、魔力を抑制する方法なら見つけたわ」

「――あっ。もしかして……」

「ええ。魔力を抑制するクスリを飲み続ければ、魔力に身体が蝕まれることはないでしょ」


 リミッターが外れた魔力に耐えられる身体を作るのではなく、クスリでリミッターを掛けるという方法。それなら、たしかに身体がダメージを負うことはなくなる。


「デメリットは、クスリを飲み続ける限り、魔術師としては弱体化してしまうことね」

「それなら問題ないわ。少なくとも、いまよりはずっといい! ありがとう、セレネ!」


 感極まってセレネに抱きついた。


「ちょ、リディア! 恥ずかしいから!」


 ぐいっと引き剥がされる。


「ご、ごめん。その、すごく嬉しくて……っ」

「……喜んでくれたのなら、苦労して探した甲斐があったわね」


 セレネが苦笑する。


「ちなみに、お姉ちゃんはどれくらいで目覚めさせられる?」

「そうね……一ヶ月後くらい、かしら」


 一ヶ月か……と、少し考える。

 アンビヴァレント・ステイシスを掛け直すのはお姉ちゃんの負担になる。それでもソフィアから引き継ぐつもりでいたのは、年単位で使うことになると思っていたからだ。


「ソフィア、あと一ヶ月ほどだけお願いしてもいいかしら?」

「ええ、もちろんです! この期に剣術も鍛えようと思っていたので問題ありません」

「……えぇ? それ、本気だったの?」

「もちろんですよ。私が目指すのはお姉様ですから!」


 ぶんぶんと木剣を振るソフィアを見てなんとも言えない気持ちになる。

 でも、きっと悪い変化じゃないはずだ。お姉ちゃんを助けるめどは付いたし、セオドール生徒会長やその仲間も救うことが出来た。

 もちろん、まだまだ不安な要素だってたくさんある。

 だけど、それでも、私はこれからも悲劇のストーリーを否定し続ける。

 

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