第6話 歴史モノで差別用語はNG?
こんにちは!坂口です。
今回は歴史モノを書く人全員、もれなく悩んでる話題。「差別用語」です!
これはね……本当に困りますよね。
わたしは以前、鎌倉時代のお話「曽我兄弟」を書いていた時、編集さんに言われました。
「ここに『狂気の沙汰』って言葉がありますよね。『狂気』はダメです。差別用語だから」
「ええ……?」
「狂気」はダメ?でも他の箇所で「狂ったように泣き叫んだ」とか「狂喜して」とかは何も言われないんですよ?
「狂気の沙汰」は実際に狂ってる状態を言ってるんじゃなくって、「常軌を逸した行動」という意味なんですから、「狂ったように泣き叫んだ」の「狂ったように」と同じじゃないですか。「狂気の沙汰」がダメで「狂ったように」がOKって、何が違うのか分からない……。
いえ、それは置いといてですね。わたしが一番良くないと思うのは、
「これは鎌倉時代だってこと考えてる?」
ってことです!
こないだ、手塚治虫作品の「奇子」という作品がkindleで出てたので読んでみたのですが、実に驚きましたね。差別用語が根こそぎ削られてました。
「俺の家は狂人の一家だ!」
が、
「俺の家は変だ!」
に変えられてたり、
「うん、奇子、狂人になったの」
が、
「うん、奇子、気い狂ったの」
になってたり……。(狂人がダメで、気い狂ったはOKって、なぜ?)
作者がもう故人になってるからって、やりたい放題……。こんなの許されるのか?ってくらい変えてます。
この「奇子」という作品、舞台は昭和二十年代の農村地帯。遠慮もへったくれもない、差別しまくりの旧家の狂気を描いたものです。その因習に対して、登場人物たちが「俺の家は腐ってる!」「もうこんな家、おしまいだ!」と声を上げていくというストーリーなのに……。その「因習に対してNOと言う」という内容をまるっきり無視して、上っ面の正義感だけで「これは差別用語だから」と、セリフをカットしていいのでしょうか?!
それに、現在は「差別用語」って一括りにされてしまっていますが、「当時の雰囲気を生々しく伝える言葉」っていうのが、差別用語の中にはたくさんあると思うんですよ。
例えばちょっと昔の本を開いて見れば、片目の伊達政宗が周りの大名たちに
「ちぇッ!目っかちめ!」
と言われていたり、全盲の按摩(あんま)さんがエラそーな侍に
「ええい、そこをどけ!どめくらめ!」
と蹴とばされてたり……。
「こんな差別が平然とまかり通っていた」という事実を記すこと。その時代のリアルを描くことも、歴史モノの、一つの大事な側面ではないでしょうか?当時の「風潮」を描くということです。
想像してみてください、エラそーな大名や侍が、軽蔑してる相手のことを「目の不自由な人」だなんて、わざわざ気を使って言いますか?そんなの絶対おかしいですよ。
別に差別を助長するために書いてるんじゃなくて、その時代背景を踏まえて書いているんだって、読めばちゃんと分かるはずです。
もちろん、学校だの職場だのと、公的な場で差別用語は使っちゃいけません。ですが、文学作品というジャンルは、別に考えるべきじゃないでしょうか?
差別を肯定する意味で書いてるんじゃないって、きちんと読めば分かるはず!いいかげん、江戸時代や鎌倉時代までさかのぼって言葉狩りをするのはやめるべきです!
歴史作家もラクじゃない 坂口 螢火 @uehara4869
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