第6話 希望
「おかえり、旅行どうだった?」
「ただいま、楽しかったよ」
「そう、後でお土産リビングに持ってきてね。取り敢えず荷物置いてきたら?」
自分の部屋の扉を開け、自分の部屋に入る。
荷物を置いてベッドに倒れこんだ。
その瞬間、ここ数日間の疲れがどっと襲い掛かった。
でもなんだか悪い気分はしない。有意義な時間だったと思える。
段々と意識が遠のいていこうとしていた時に着信音が鳴り響く。祖父からだった。
応答ボタンを押す。
「もしもし? もう帰ってきたのか?」
「うん。丁度さっきね」
「そうか、それで、メモの場所には行ったのか?」
「うん。クロさんって子が日記の内容が書かれてる本を作ってくれたよ。それとポプラさんって人がお祖父様によろしくってさ」
「ポプラさん? いまポプラさんって言ったのか?」
祖父はポプラという名前に食いついてきた。
「うん、少し年老いてる男性だった」
「そうか……」
祖父は話すのをやめて少し考え事をしているようだった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。それより、手掛かりは貰ったんだろう? あとは自分で頑張るんだぞ。」
「うん。ありがとう。今度お土産持っていくね」
「わかった」
電話はツーツーと音を立てて途切れた。
さて……と。お土産を置きに行こう。
「おっはよー! 拓、久しぶりだな、半年ぶりか?」
肩に鈍い痛みが走る。
「痛っ! 加減考えろよ! そんな時間経ってねえだろ、精々一二ヶ月だぞ」
「そうかそうか、悪いな」と笑い話にでもしそうに見知ったような、懐かしいような顔が話しかけてきた。
夏休みも終わり、学校生活がリスタートを切った。課題は旅行前に終わらせておいたので去年とは違って、昨日は眠ることができた
旅行から帰ってきて、度々記憶書物を開いてはいるが、まだ雫さんの新しい日記は追加されていない。
「拓は夏休み何やったん? この俺様は野球に打ち込んでたぞ」
「そうか、総磨は野球部のエースだもんな。俺は静岡に旅行行ったぞ」
「静岡? また変なとこに行くんだな。夏だから長野とかに涼みにいけばええのに」
「どうでもいいじゃんか、そんなことは」
「まぁそれもそうだな......ん? なんだそれ」
総磨は俺のカバンの中を覗き込んだ。
まずい、こいつ、変なところで感がいいな。
僕は記憶書物を学校に持ってきていた。もし、なにか項目が増えたときに直ぐに対応できるように。
まぁ、別に家に帰った時に毎回確認すればよい話なのだが、何となく、肌身離さず持っていたいと思えた。
総磨はそのまま勝手にカバンの中を漁り、書物を取り出す。
「これ何?」と聞きながらページをパラパラと捲っていく。
もう言い逃れはできないな。
俺は四月一日からの出来事を事細かに話した。
そうしたら。
「お前、流石にアニメの見すぎだろ」
「ホントにその台詞使う奴いるんだな」
パラ読みを続けながら何か唸っている。
「やり取りを見てるこっちが恥ずかしくなるんだけど、何か面白そうだから、探すの手伝ってやるよ。拓は顔がいいくせに彼女一つ作りやしないからな」
「何だよそれ」
少し鼻につく言葉もあったものの、その話は正直、俺にとってはありがたい話だった。
日本の中から一人で一人の人間を見つけるのは骨が折れる。まだ、二人で探したほうが、一人よりは希望があると考えた。
「てか、さっきはあんなこと言ってたのに、信じてくれるのかよ」
「うーん、なんか、お前の話がほんとかどうかは分からないけど、これを作った人は結構な思いを込めて作ったんだろうなって思ってさ」
「なにそれ」
「うーん......言葉にできないけど。まぁ、そんなことはどうでもいいじゃねぇか」
言葉にできないという言葉を使って、何かはぐらかされてるみたいだな......。まぁいいか。
「よし、そうと決まれば俺も探してみるわ。桜のある病院だったか、骨が折れるなぁ」
そう言って総磨は自分の席に戻っていった。
そうやって僕はその時希望を見出したのだけれど、結局冬休みの気配が近づく十二月まで、その病院の特定には至らなかった。
四月一日噓日記 暁明夕 @akatsuki_minseki2585
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