第60話

「俺の恩人が、また一人増えたな」


「駄目よ。そんな言葉をお兄様に聞かせたら、調子に乗るからやめておいた方がいいからね」


「そうだろうか?」と不思議がる彼が、真剣な顔になる。

「エメリーにお願いがあるのだが」


「何かしら。聞けることと聞けないことがあるわね」

「俺たち結婚しよう」


「ふふっ、それなら、喜んで受けるわ」

 そう答えたものの、ラングラン公爵家にはアリアという、超絶めんどうなブラコンの妹がいるのを思い出したため、一つ確認する。


「ちなみに結婚はいつ頃を考えているのかしら」


「明日でも!」

 彼が胸を張って言った。


「はぁ? 婚約期間五年で始まったのに、どうして結婚が明日になるのよ。いつも極端すぎるわ」


「俺は長年待ったからな、もう待てない」

 またしても真面目な口調である。


 ふざけているわけではないのだろう。

 だが、それを理解しつつも、同意し兼ねる私もキリリとした態度で告げた。


「いくら何でも明日は早すぎるわ。それなら結婚式があとになるじゃない。私の理想は──」


「理想は?」


「結婚式と入籍は一緒の日がいいもの」

 この要望では、さすがに明日は無理だろうと思ったが、にっこりと笑うレオナールがさらに上をいく。


「すでにウェディングドレスは用意してあるから、結婚式だけなら明日にでも挙げられるから、問題はないな」


「は⁉︎ いつから用意しているのよ……それ……」


「デザインなら問題ないぞ。毎年新しいのに買い替えているから、今流行のマーメイドドレスだし、時代遅れと馬鹿にされることはないけど」


「問題はそれじゃないから!」

「変だな、何が問題だと言うんだ? 今すぐ結婚したいという話は、両家の両親も賛成しているから気にしなくて良いんだぞ。明日から俺の部屋で一緒に過ごそう」

 にっこり笑って恐ろしいことを口にする。


 さすがにまだ、ラングラン公爵家で暮らす気にはなれない。

 口が達者なアリアが何を考えているのか恐怖でしかないのだ。ラングラン公爵家の屋敷での暮らしは、気が重い。


 毎日小姑にいびられる生活を強いられるのは、当面先まで勘弁願う。


 となればせめて、彼女の婚約が決まってから嫁ぎたいと目標を定め、攻防する。


「私の理想の結婚式をレオナールが準備してくれるまで駄目よ」


「エメリーの理想の結婚式かぁ──」

 宙を見上げるレオナールが、幸せそうな顔をする。


 困ったな。レオナールってばこれから張り切り出しそうだけど、理想の結婚式なんて追及されても、ちっとも分からないわよ……。

 はっきり言って理想の結婚式など存在しないんだもの。


 白いウェディングドレスを着て教会で誓いを立てる以外、他に何があるかしらと考えている次元の私だ。憧れるシチュエーションなんて一つもない。


 だけど、和解できないアリアとの同居を避けるべく、これから思いつく限り、理想の結婚式を並べ立てていこうと、こちらは鼻息を荒くする。


 動揺した私は、すぐに結婚しようと言った、彼のもう一つの理由は、ちっとも気づいていなかった──。


 そんな私は、記憶が戻ったと打ち明けたにもかかわらず、悪女への挑戦をこの先も続けるのであった──。 




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本作を、お読みいただきありがとうございます!

ここで、第一部完結となります!

毎日投稿に、お付き合いくださりありがとうございますᐡ ̳ᴗ ̫ ᴗ ̳ᐡ♡

途中、嬉しい感想もお寄せくださり、元気をいただきました!


ここまでの読了の証に、★★★を入れてくださると、やる気をみなぎらせ、この先もバシバシ書ける気がします♡

もちろん、なくても書くのですが……ちょっと言ってみたくて、言ってみました。

ブックマーク登録は、ぜひぜひぜひよろしくお願いします(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)。

この間に商業関係の作業を挟むため、次回の投稿は、時間があくので、こちらは心からのお願いになります。


すでにお読みになっている方もいるかと存じますが、記憶喪失モノは、自身2作目となります。

もしも、『ないない尽くしの聖女』を読んでいなければ、そちらもよろしくお願いします<(_ _)>

そちらは記憶を奪われた作品です.ᐟ.ᐟ.ᐟ

▼タイトル

記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から、なぜか溺愛されています!


改めまして、皆さまとの再会を願い、第一部完結。

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私にだけ冷たい 『最後の優良物件』 から、〖婚約者のふり〗を頼まれただけなのに、離してくれないので【記憶喪失のふり】をしたら、激甘に変わった公爵令息から 溺愛されてます。 瑞貴@10月15日『手違いの妻2』発売! @hauoli_muzu

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