第7話「受け継いだもの」
ビリビリとした感覚が皮膚を這って、思わず飛び起きた。
振り下ろされる刃を避け、なんとか体制を立て直す。
「気づき起きたのは褒めよう、ただそれは分読みの延命に過ぎないがね」
男が立っていた、ガンマン風の爺さんだ。
爺さんのランプが夜の森を照らしている。
「リアさん!この人いつのまに……!?」
「メイカさんこの人は!」
夜番をしていたメイカさんに問いかけた。
どうやら居眠りをしていたわけでもなさそうだが、メイカさんもかなり慌てているようだ。
「分かりません!今突然現れました!」
突然に現れた。
一体何者かは分からないが、確実に命を狙ってきているのは分かる。剣は寝ていた場所に置いてきてしまった、武器を持っていないのはまずい。
「な、ぃっ!?」
突然、後ろから太ももを突き刺すような痛みに襲われた。突き刺すように、と言うより実際に尖った枝のようなものに突き刺されている。
「森に入るのを待っていのさ、
次の瞬間には突き刺さった枝は、まるで塵のようになって消えてしまった。
どうやら、この枝の槍は時間が経過すると消えてしまうらしい。
「メイカさん、こっちに近づかないでください」
下手したら2人まとめて、突き刺されゲームオーバーになってしまう。
それだけは避けなくてはならない。
「
「それは死ぬっ!」
その言葉を聞いた僕は咄嗟に【視界渡り】を使って、離れた場所に移動した。
慌てたせいで中途半端な距離しか移動できなかったが、枝の槍を避けるには十分だった。
「んっぐぁっ…」
「心臓を狙ったんだがな」
【視界渡り】を使うと頭の処理が追いつかず、数秒の隙が発生してしまう。そこを狙われて、肩に槍を刺されてしまった。
「爆発しろ!」
そう木に宣告をしてみるが、効果がなかったと感覚でわかる。
【
「植物も、生き物か……」
メイカさんに、剣を取って貰いたいが下手に動けば狙われることは必須。
【視界渡り】を使って取りに行くのも手だが、この爺さんは僕が武器を持っていないことに気づいているし野ざらしで置いてある剣の場所も把握しているはずだ。
剣を取りに行くために【視界渡り】を使って、その隙を狙われたら次こそ致命傷を負いかねない。
「これでも!くらえ!もう!おりゃりゃ!」
メイカさんがカバンの中から取り出したものを、四方八方に投げた。
いくつか、爺さんに直撃するものの効果はなさそうだ。
「投げるならせめて当てろ、キャッチボール下手だろお前」
「あなた、正確な急所を狙うには口に出して命令しないといけないみたいですね、先程から私に能力を使わないのは、視界に入れないとろくに操作ができないから、では?」
爺さんがメイカさんの方へと振り返る、それを見た彼女は爺さんに確かめるようにして話し始めた。
メイカさんの話が正しいなら、爺さんを僕とメイカさんが挟むようにして対峙しているのこの状況なら2人まとめて倒されることはないはずだ。
メイカさんが後ろから切りかかる……のは距離がありすぎて難しい。
「……ん?」
そして爺さんは、周りの木の異変に気づいたようだ。
視線だけを回して、周辺の木々が枯れていることを確認する。
「ウルワリウ茸、張り付いた木の栄養分を瞬く間に奪い枯らせるキノコです」
先程メイカさんがポーチから物をめちゃくちゃに投げていたのは、そういった作戦があったかららしい。
「枯れ木でも関係ないのさ、俺の
「えっ」
メイカさんから、とんでもなく間抜けな声が漏れた。
そして気づいた僕は、声を張り上げた。
「攻撃は当たらない!」
「いや、当たるぞ、枯れ木でも精度は同じさ、命令すれば当たるし、しなくても体のどこかには当たるさ」
戦いが長期に渡るほどキツイのはこちら側だ。肩と太ももが燃えるような感覚に襲われていて、正直立っているのもようやくの状態だ。
「……いけるはず」
スキルをもう一度確認してみる。
【死神条約】攻撃の意志を持って相手を攻撃した時、必ず致命傷へと至らせるもの。
これを信じるなら、攻撃の手段は問わないはずだ。
僕は【視界渡り】を使って爺さんのすぐ近くまで移動する。移動する前にはとにかく蹴ることだけを考えた。移動したら蹴る、とにかく足を振って蹴るんだと。
「いっだぁっ!?」
「ぐふ…ぁっ!!」
僕は【視界渡り】で爺さんの目の前に出たと同時に、身体が勝手に動くように爺さんを蹴り飛ばした。僕の足もかなり痛んだが。
そして何より、思惑通り蹴りだけで爺さんの身体へかなりのダメージを負わせることができたようだ。
しかしながら、確かに放っておけば死に至る致命傷ではあるかもしれないが、まだ死が確定したような傷じゃない。
「リアさん!」
爺さんが倒れたとほぼ同時に、メイカさんが剣を取って投げてくれた。
僕はそれを受け取って、鞘から剣を抜く。
「……何故こんなことをしたのか、教えてくれたら、命までは取らない」
僕としても、人を殺したくはない。
自分の命を狙ってきた人間でも、殺人は殺人だ。
「つ、リーピアー……ズ、あたまをつらぬけ」
爺さんがそう呟いた。
まさかこの期に及んでまだ一矢報いるつもりだったとは思わず、油断していた僕は反応が間に合わなかった。
「枯れ木は死んでるから、能力の対象内か……よかった」
生えた槍は全て僕に当たらないように、木から伸びていた。
僕は枝が消えるのを待ってから、爺さんに剣を振り下ろした。今度は、即死の致命傷になったらしい。
「……知り合いじゃないんですよね」
「分からない、もしかしたら、知り合いなのかもしれない」
お互いに無事を確認して、メイカさんに応急手当をしてもらった後のこと。
転がっている死体の顔を覗き込みながら、そんな会話を交わした。
「……なにか調べたいなら、情報源になりそうなものは持っていった方がいいですよ」
何かを察したらしいメイカさんは僕にそ言うと、その場から離れて行こうとした。
その背中に僕は問いかける。
「この死体から漁るの……?」
「それは任せますよ、ご自由に」
ルウのことを知るために、なにか手がかりが見つかるかもしれない。
そう考えた僕は、爺さんの懐を探った。
そして、ひとつ目を引くものを見つけた。
「これは……」
蝶の羽が生えた人魚の絵が赤く描かれている、タグのようなものを拾った。一応ほかに、なにか手がかりになるようなものを探したが特に掴めず。
死体は埋葬しておいた。
だけど不思議だった。
人を殺して、死体を漁っているのに不思議と手を下す前より罪悪感を感じなくなったのだ。
それは相手が自分を殺そうとしてきた人物だったからなのか。
またはこの身体が人殺しを慣れているからなのか。
それとも、僕の中身が人間よりも魔物に近いものになってしまっているからなのか。
「やあ、失礼」
「え?」
聞こえてきたのは不快な低い声、僕は素っ頓狂な声とともに振り返った。
引き継ぐ君の異世界譚。 猫又 黒白 @Dasoku1231
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