第6話「旅路」
「そういえば、名前を聞いていませんでしたね、あなたの名前は?」
「僕は……リアです」
彼女、メイカの質問に僕は一瞬迷ってから名前を口に出した。
僕はもうリアという名前を貰った。だけどこの身体は、きっとルウのものだ。自分が誰として生きていけばいいのか、まだ分からない。
「リアさんはこれからどうします?」
「……」
これからどうすればいいのか、僕には分からない。
『……任せたよ』あの時、確かに僕は彼女にそう言われた。だけど僕はまだこの体以外に、何を彼女から託されたのか分からない。
「私はこれからモンテタールに向かいます、朝になっても誰も来ないところを見ると、他の国にこの街の状況が伝わっていないようですから、この異常事態を早く伝えないと」
モンテタール。
たしか、そうだ。僕はルウとそこに向かおうとしていたんだ。
もしかしたら、そこに何か答えがあるのかもしれない。
「なにより、赤竜の死骸と、昨日に目撃した赤竜の数を照らし合わせると、死骸の数が足りないんです」
「赤竜がまだどこかで生きている……」
この街で起きたようなことが、もしかするとまた別のどこかで起きてしまうかもしれない。
生き残った赤竜がまた仲間を引き連れて、人々を襲うかもしれない。
「はい、ほかの街や国に被害が出る前に手を打つべきです、魔力系統の連絡機器も根こそぎガレキの下ですから、直接伝えに行くしかなさそうです」
あの時ルウが倒れてしまったのは、盗虫魔草の種のせいだった。そのことさえなければ、彼女だったら生き残ることなんて余裕だったはずだ。
例の種を提供したのは、恐らくあの飲食店の店主。
それに重なるように、赤竜の群れが街に襲い来る異常事態。
偶然にも店主が食中毒事件をルウに対して起こしてしまって、そして偶然にもその当日に赤竜が街に襲来した。
偶然に偶然が重なっただけの可能性。
もしくは誰かが、これら全てを計画したという可能性。
どちらも、信じ難い話だ。
とにかく、真実を知るにはルウのことをもっと知らなきゃならない。僕が何をするかは、それを知ってからだ。
「僕も、連れて行ってくれないかな」
「着いてきてくれるのなら、助かります、魔物との戦闘には自信がありませんから」
乾いた笑いを上げながら、メイカは携えていた剣を神妙な面持ちで撫でていた。
その姿を見て、僕もルウが使っていた剣を持っていることに気づいてその刃を覗き込んだ。
そこにはいつもと変わらないルウの姿があって、黒い瞳が僕を見つめていた。
「僕も、魔物と戦ったことはないよ」
「そうですか、でも、1人よりも心強いです」
そう言って笑ってくれた彼女に、微笑み返して。僕は今一度スキルを確認することにした。
もしかしたら、ルウが持っていたものを僕も使えるかもしれないと思ったのだ。
魔物性スキル。
【敵意感知】
スキル。
【死神条約】【視界渡り】【
スキルを確認すると、やはり知らないもの増えていた。
しかし本当にルウが持っていたスキルを僕が引き継いだのだとしたら、彼女は3つだけのスキルであの桁外れの強さを持っていたことになる。
【死神条約】攻撃の意志を持って相手を攻撃した時、必ず致命傷へと至らせるもの。
【視界渡り】自身の視界に映る場所に転移できるもの。
【
受け継いだのは、たったその3つだけのスキル。
しかし、あまりにも、強大な力を持っていた。
はたして、自分に使いこなせるのだろうか。
けれどその答えは、思ったよりも早く簡単に出たのであった。
「強いじゃないですか、魔物と戦ったことがないって言ってませんでしたっけ?」
街から出ると、ひたすら平坦な草原を歩いた。徐々に木々が増えていき、いつの間にやらあたりは草原から森林と呼ぶべき景色に。
そして茂みから現れた魔物を、僕は剣で呆気なく殺してしまった。
見た目は狼のような魔物だった。魔物に哺乳類だとかそういったくくりがあるのかはわからないけれども。
犬に近い見た目の生き物の命を、簡単に奪ってしまったのだ。
「……」
それにどうすれば早く疲れずに走れるかとか、どう剣を振るえば肉を切り裂けるかとか、そういった感覚を身体が覚えているようだった。
まるで見知ったゲームのボタン配置を自然と指や勘が覚えているように、身体に深く癖が刻み込まれている。
「どうかしました?」
「……なんでもない」
生き物の命を自分で奪ったのは、当たり前だがこれが初めてだった。
魔物を殺すことを体が覚えていても、殺すことに慣れていない僕は言いようのない罪悪感に襲われた。
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