「元小説家の独り言」

メディカルト

元小説家の独り言

本当に思い出すのですら恐ろしい、記憶の一片なんですけれども、

みなさんは興味ありますか……?


ええ、きっとあるとも。

だってあなたは私と同族、人の不幸で愉悦を覚えているのだから。





これは高校時代の私の話。

私が「小説家になろう」「カクヨム」などweb小説の沼に嵌りだした頃のこと。


あるクリエイターに心惹かれ、人を楽しませることができるエンターテイナーのような人物になりたいと憧れていた。

その影響で、私は身近にあった「小説」に目をつけた。


「そうだ、小説書いてみよう」

気軽に発言するべき内容ではない。だが、なぜか私にはできるような気がしていた。

そう、『気がしていた』だ。


当然、物語を書くということは簡単なことではなく、何度も何度も試行錯誤し、やっとできた作品。それが私の黒歴史の元凶となったもの。


「単なる物語」で済ませればよかったものの、何を血迷ったのか実親に読ませる流れになっていた。実親曰く、「初めてにしては物語として成立してるから上出来」だと。

確かに、実際に読んでもらって感想をもらうといった機会は中々ないので貴重な機会だと私は考えている。しかし、その感想の捉え方に問題があった。


当時の私は、『内容』を褒められた判定として受け取っており、その高揚した気分で自信満々にweb小説サイトに掲載した。(現在は非公開)

そして、せっかくならと思いカクヨム甲子園に応募し、見事惨敗。


これが悪夢の始まりだった。


念のため、当時の文章レベルを説明すると、その三年後の私が読むと、顔をマグマのように沸騰させてパソコンを正拳突きしかねないレベルの酷さ。

……これだけでどれだけ酷いかということは理解できただろう。



きたる学校行事の日。私の組では劇を行うことになっており、物語制作担当として役を全うすることとなった。ここでも狂った衝動を抑えられなかったのか、自身の制作した物語でやりたいとかいう馬鹿げた発言をした。普通の作品ならまだ許せるが、ド素人の作品などたかが知れている。だが、当時の私はよほど自信があったのだろう。

一度読み返してみろ。私は当時の私に怒鳴りつけてやりたい。


そして、当時気にしていなかった、私の作品を読んだときの他人の表情。


この話の進行役だったクラスメイトの女子に読まれたのは記憶に残っているが、もはやその人の表情は目に浮かぶように想像できる。

それはきっと「苦笑い」「愛想笑い」の類だったのだと。もしくは無表情。

できれば表情の変化があるだけ前者であってほしいと思っているが、実質的に一緒だ。


その時の私は、夢見ていたエンターテイナーというよりも誰かに踊らされている道化師そのものだった。


結局、有名な童話から引用するといった形になり無難にこなしたが、私の行動すべてが悪手中の悪手だった。


私もまだ学生、とにかくなんでもやろう精神で挑戦を心掛けるようにしてきた。

結果論から言うと、後悔はしていない。



そんな私に一つの転機があった。「小説家になろう」での小バズりだ。

黒歴史の元凶は四桁PV数すら夢のまた夢といった中、今までのラノベを読んだ経験則から新たに生み出した作品は不思議なほどに伸びに伸び、六桁PVにまで到達していた。それも一週間近くで。

当時の私も、頭の中ではクエスチョンマークが大量に沸いていただろう。だが、「伸びた=実力がある」と勝手に断定している脳内では、もはや無敵状態だった。


胸を張って「自分は小説家だ」と思えた唯一の瞬間だった。


しかし、悲劇というべきことが起きた。それは、私自身が正気に戻ってしまったことだ。


「何が悲劇なんだ」そう思った人は少なくないだろう。だが、私にとっては死活問題なのだ。それまでの私は、他人がどう思おうが私の勝手だろう、知ったことか。そんな反骨精神を持ち合わせていた。

しかし、いつの間にか、人の目を気にするようになっていた。これで大丈夫だろうか、誰かに貶められないだろうか。そんな日々に苛まれるようになり筆を置いてしまった。


ネット上で自分の作品がたくさんの人に読まれている、次の作品を心待ちにしてくれている人がいる。その事実だけで私は嬉しかった。


だけど、今の私にはもう書けない。一度筆を置いてしまったから。



なんて、そんなことをつらつら書きましたが、稀に筆をとってみたりしています。



今ではもう笑い話にできるほどの内容です。


これは過去の清算として、記しておきます。

それはもう、「格」が違う黒歴史ですから。どれだけ大量の黒歴史を生めど、これを超える黒歴史はきっとありません。だからこそ、私は実質的に無敵なのです。


そういえば、仲の良かった高校時代のクラスメイトと飲みに行ってきました。

そこで、どうやら私が参加していなかった同窓会で、心無い人が私の作品をその読んだクラスメイトと私のラブストーリー(笑)に改変していたらしいです。


これを万一心当たりのある人が読んでいるなら、一度自分のとった行動を鑑みてほしい。

私は人に読まれるために作品を創った。その感想をどう述べようがその人の自由です。


けれども、その作品を改変して肴にするのはお門違いです。

どれだけ駄作だったとしても、間違いなく私が生んだものなのです。

誰かを悦ばせるために、私の子を使わないでください。

お願いします、本当に悔い改めてください。


どうかこの想いが届きますように。



あぁ、でも私の作品が面白かったという布教は歓迎なのでぜひお願いします。

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