タイトルの長い遺言 SAC2024参加短編

母の遺書が何かのタイトルみたいだった件 SAC2024参加作品

私は奴隷。１４歳の女の子。母と二人暮らしだ。

私を守り育ててくれた母は、いま死の床にいる。

奴隷というのは劣悪な環境で労働を求められる。

私がこの年まで曲りなりにも生きてこられたのは母のおかげだ。

私には母を治すための薬なんか買えるわけもない。自らの生まれを何度呪ったことか。

　増える人口のもと、低下する労働力を補填する為に、それまで善政を敷いていたはずの国王は突然『奴隷制度』を取り入れる事にしたそうだ。

　そして、制度が取り入れられて２０年の歳月が流れた。

　はじめは理不尽な制度に怒り、悲しんでいた民衆も慣れてしまっていた。いや、正確には納得してしまった。なぜなら、制度の導入により国は持ち直したのである。

　けれど、私はふざけるな、と思う。

　私は奴隷だ。生まれた時から奴隷だった。私には、何の機会も与えられずに、ただ親が奴隷だったから、という理由だけで奴隷にされてしまった。

私の行動は制限されており、自由に動くことなどできない。

母は、一か月ほど前に倒れ、高熱を発してそのまま死ぬかと思われたが、何とか生き延びた。しかし、それからも動くことは出来ず、私だけが労働に出ていた。

その後私も高熱を発したが、何とか生き延びて今に至る。

今にも死にそうな母は、失われそうな意識のもとで、私に、紙の束を渡してきた。

「ケイ。これを読んで。あとはあなたに任せるから。」

母はそう言って、また意識を失った。

まだ死んではいない。でもいつまで持つかもわからない。

母の遺言書だろう。

私は逸る気持ちを抑えながら、紙束を開いた。

タイトルがついている。

「奴隷少女が成りあがるゲーム世界に転生したのに、転生先が寿命１か月の主人公の母だったので、とりあえず覚えている限りのゲーム攻略の手段を書き留め、娘の幸せを祈ることにした。」

何これ？　タイトルからして何なんだか。

中身を開く。

「愛するケイちゃんへ。

あなたがこれを読んでいるということは、私はすでに死んでいるか、あるいは死の間近でしょう。

あなたに世界の真理を伝えます。信じるかどうかはあなた次第です。」

死の床で嘘をつく理由がない。とりあえず読み進める。

「先日の高熱の時、私は突然気づきました。　私は別の世界から転生してきた者で、またこの世界は、もとの世界でヒットしたゲームの世界なのです。」

母がほかの世界から転生？ゲームの世界？　とりあえず読み進める。

「この世界は、私がプレイしていたゲーム『奴隷少女はチート覚醒して成りあがる』というゲームの世界なのです。　

あるゲーム会社が、ストーリーと錬金術テクニック重視の一般ゲームで大コケし、起死回生を狙って、その世界の設定を流用して有名絵師と声優を投入し、チープな物語で、登場するイケメン男子の尊さと女の子の可愛さだけで一発逆転を狙った乙女ゲームなのです。」

コメントしにくい。

「私が転生前の記憶を取り戻したのは、先日高熱を発した時でした。私はたぶん１か月の命しかない。その間に私が覚えているゲームの設定や攻略方法をすべて書き出しました。

ゲーム自体はほとんどイージーモードなので、私の指示通りにアイテムを回収してレベリングし、正しいセリフを言えば、きっとあなたは必ず下剋上できるでしょう。あなたの幸運を祈っています。」

その後は、どうしたら家をぬけられるとか、どこで誰に何と話しかけろとか、どこに何が隠してある、とか多くの情報が記されている。

そして私のチート能力の覚醒は１５歳の誕生日に起きるという。その日は明日だ。

チート能力を発揮して動いていくうち母は死ぬが、その悲しみを乗り越えて主人公は進み、新たな能力を覚醒させるらしい。

そして最後には王子と結ばれ、国王を退位させた上で女王になる。王妃ではなく女王だ。

イケメンで優しい王子は私を王にすることで奴隷制の完全廃止を宣言させることにしたのだ。

そして女王の近衛にはイケメン攻略対象が控えることになり、愛と権力と金と名声を得てめでたしめでたし、というお話だそうだ。

何というチープなストーリーだろうか。でもこんなのが売れたのか！と突っ込みたくなる。

ただ、私は小躍りした。

「やった！これでポーションが作れる！」

実は私も転生者。世の中で数少ない幻のゲーム「錬金乙女のイケメン攻略大作戦」の廃課金ゲーマーだった。私が覚醒したのは、母が熱を出したあとだ。、私も熱を出し、そして覚醒した。

錬金乙女のゲームのことは隅まで知り尽くしており、設定世界が同じであるため、自由に外出さえできれば、この近所で薬草を採取しポーションを作ることができる。

ノーマルポーションで母の命を永らえさせながら、レベリングし、上級ポーションやエリクサーを作れるようになれば、母を救える。

ついでに母のラノベのようなタイトルの攻略マニュアルもあるので、奴隷解放も女王になることも可能だ。

私はわくわくしてきた。とっととすべてを終わらせて回顧録でも書こう。

タイトルは

「奴隷少女ですが、極めた錬金術と母からもらったチートマニュアルで成り上がり、母を救いつつ逆ハールートで世界征服しましたけど何か？」とでもしよう。

（完）

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こちらは、シノミヤ　マナさんのアイディア蝶を使用した

ＳＡＣ　シノミヤ・アバンダンドアイディア・コンテスト　の参加作品です。

シノミヤさんのアイディア帳はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16818093074605440391

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特に短編の場合、大体が一期一会です。

袖すりあうも他生の縁。

情けは人のためならず。

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…もちろん私が最初に幸せになるんですけどね（笑）。

二回ひねることで、何とか形になったのではないかと思います。

ちなみに、ケイは奴隷で発育不良のため、処〇です。