第3話 その3
家庭の味。それは簡単な物から凝ったものがあるが、それぞれの家の味があると思う。カレーの味や肉じゃが。卵焼きに味噌汁。
それらは春夏秋冬、わたしたちの胃袋を満たす、暖かく、懐かしい、家庭料理です。
家では、よく、イカとワケギの味噌和えが食卓に出されていました。
そんなある日の出来事です。
その日も食卓に、それが出ました。
父がちゃぶ台の前に座り、姉はテレビを見なら着席している。わたしは好きな牛乳を飲みながら、母が食卓に並べるイカとワケギの味噌和えを流し見ました。
「またそれ。味噌とワキゲの味噌和え」
「………………」
んっ。皆が? はてなとなった。
そう、ワケギをワキゲと言ってしまったんです。
「間違えた」
羞恥に焦りながらもわたしは言い直します。親の前で、そんなことを言ったことはありません。
うちはテレビでキスシーンなんて出てくると、黙るような家庭でした。
わたしは、居た堪れなくなり、ゆっくりと言い直しました。
「間違い。ワ・キ・ゲ」
「!!」
「違う。ワキゲ。じゃなくて、ワ・キ・ゲ」
なぜでしょう。なんど言い直しても、ワキゲになってしまいます。めったに笑わない父が肩を振るわし「わっはは」と笑いました。姉も堪らず笑いました。母も目がなくなるほど細めて笑いました。
なぜ言えない。なぜか脳が混乱してしまう。
「ワキゲ、ワキゲ、ワキゲ(泣)」
言えない。どうしても言えない。ワケギ、なぜにそんな似た名にした。
そして、わたしは未だに口に出してワケギが言えないのです。
そして、そのとき決めたのです。この禁断の言葉は、二度と、口にしないと。どうしても口にするときは
「イカと味噌を和える、あの草」
草扱いすることにしたのです。
ワケギ、頼むで、名を変えてくれ。
そう思う今日このごろなのです。
小話でした。
ばっちいと黒歴史 甘月鈴音 @suzu96
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます