ワンピースなんて着たことない!
土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)
未知の世界
ある日、ワタクシは出勤前に自分が着ているヒートテックの丈がずいぶんとだらしなく伸びていることに気がついた。まるでミニっぽいワンピースのようだった。まあ、別に穴が空いてるわけでもない。裾をズボンの中に入れておけば着用に問題はないだろう。ワタクシはそれをワイシャツの下に着て、そのまま仕事に出かけた。
深夜残業が終わった帰宅直前、腹の様子がおかしくなる。急な便意がワタクシを襲った。慌てて職場のすぐ近くのトイレに駆け込む。オフィスビルのトイレも深夜はガラガラだ。さっさと個室に入って、ズボンとパンツを下ろし、便座に腰掛けて用を済ませた。よし、間に合った。
ねとっ
見るとワタクシはワンピースのように伸びたヒートテックのシャツをたくしあげず、尻に引いたまま腰を下ろして用を足していた。
ハッキリ言おう。
ヒートテックの内側がワタクシ自身の排泄物まみれになっていたのだ。
なるほど、女性がスカートを着用した状態で用を足す場合はかなり大きくたくしあげるなり、予め脱がなくてはならないのだろう。丈が長いワンピースやドレスだとなおのこと大変そうだ。こんな経験でもしないとワタクシは理解できなかった。女性って大変だな。
要するに今回のワタクシの状況は無知からくる不幸な事故だ。女装生活者でもない限り男性であるワタクシが予想できる事柄ではない。これは避けようのない事故だ。
なにはともあれ、喫緊の課題はワタクシ自身の大変な状況を解決しなければならないことだ。具体的には排泄物にまみれたシャツ、コレを着たままでは帰れない。処分しないと。
ワタクシがプロレスラーのハルク・ホーガンのように怪力ならばシャツをビリビリと破けば良いのだろうが非力なワタクシには無理だ。普通に脱ぐしかない。
そう脱ぐしかない。まずはそうっとワイシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ避難させる。それから、身体をひねってヒートテックの裾の内側の排泄物をトイレットペーパーできるだけキレイに拭き取った。あとは脱ぐだけだ。だがそれが問題だ。
一応丁寧に拭き取ってみたものの、汚れた裾の部分を頭に触れさせるのは非常に嫌だ。自分のものとはいえ汚物を頭につけたくはない。
くそっ。こうなるんだったらむしろパンツの中で漏らした方が害が少なかった。
そう心の中でぼやきつつ身をくねらせて、どうにか頭に汚れた裾が触れないように脱いでいく。だが現実は無情だった。
ぴとっ
ひええええええええええええ! シャツが思い切り頭に密着したあああああああああっ! ウ▷コが頭についちゃうううううううっ!
ワタクシは心の中で絶叫した。
もうこうなったら注意も何もあったもんじゃない。大慌てでヒートテックを脱ぎ捨てる!
落ち着け、落ち着け。汚れたら洗うしかないじゃないか。
ふと目に止まったのがタイのトイレの個室には普通についているビデスプレー。レバーを握るとけっこう勢いよく水が出る。洗車くらいできそうな勢いだ。
コレはそもそも用を足したあと下腹部の下の洗浄に使うアイテムである。ぶっちゃけ自分で手に持って肛門周囲をジェット水流で洗い流すための言わば手動のウォシュレット。それなりの長さのステンレスのホースにつながっている。
これならしゃがめば頭に届くな。
是非もなし。
ワタクシは深夜のオフィスビルのトイレの個室で一人しゃがみ、ビデスプレーをシャワー代わりに洗髪してついでに身体も洗った。
シャワー後、ペーパータオルで全身と使用した個室の水気や汚れをそれはもうきっちりと拭きとった。仕上げに携帯していた消毒用アルコールをまるまる一瓶使って全身と個室にくまなくスプレーした。
ワタクシも個室も、むしろ使用前よりも清潔になった。トイレ掃除をすると気分がスッキリするというのは本当だと思った。ワタクシは陰徳を積めたのだろうか。
今回の教訓はだらしなく伸びたシャツは着ない方がいいってことだ。急ぎのとき困ったことになりかねない。
もう一つ、男性が女装しなければならなくなったときもスカート(特に丈が長いもの)の場合、かなりトイレが大変だと言うこともわかった。
男性諸君、気をつけような。
ワンピースなんて着たことない! 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori
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