第38話 次の彼らは、もっと上手くやるでしょう

 もはや、開いた口が塞がらない第二王子。


 俺に切っ先を向けていた1人は、そのまま突いてくるも――


「ぐっ!? 何だ……。あ、足が?」


 踏み込むはずだった足は、床に吸いついたままだ。


 釣られたように見たギャラリーは、衣川きぬがわイリナが大剣で地面に描いていた線が光っていることに気づく。


「な、何だ、これは!?」

「まさか!」


 外にも、力強く光っている線がある。


 聖フィステール王国の全体に描かせた、勇者召喚の儀式だ。


 今回は、それを逆流させるがな?


 ここで、第二王子のエルドゥアン・ヴィルケ・フィステールが叫ぶ。


「き、貴様ら! 何をする気だ!?」


 紫に光っている大剣アルキュミアを肩にのせているイリナは、事もなげに言う。


「え? あなたに教えてもらった勇者召喚で帰るの!」


「それは、聖遺物がなければ……」


 途中で、外まで光っている線により、感づく。


「まさか!」

「この王国を丸ごと対象にすれば、可能だろ?」


 俺は、つつみ夏夜かや松永まつなが瑠香るかが到着したのを見ながら、第二王子に説明した。


「よ、よせっ! そんなことをすれば、王国だけではなく、貴様らのディエヌス帝国とて無事では済まぬ! 異なる世界とつながったことで滅ぶぞ!? は、話し合おう――」

「よく考えたらさ? 俺、ここでロクな目に遭っていないのよ……。どーでもいいわ」


「……は?」


 第二王子がポカンと口を開けている間に、パンッと発動させた。


 凄まじい奔流が吹き荒れて、周りが見えなくなる。

 同時に、魂消るような悲鳴が重なった。


 本能的に、俺たちを召喚した世界そのものが軋み、業火に焼かれるような滅びを感じる。


「終わるときは、いつだって突然さ……。そういう日もある」


 しみじみと独白している間にも、世界は消えていく。


 大地が裂けていき、下から吹き上げる炎や、何もない空間から流れ込んでくる名状しがたい色が覆い尽くしていく。


 気づけば、現代日本に立っていた。


「おー! 久しぶりだ!」

「やっぱり、文明が一番♪」


 明るい声のイリナに対して、女子2人は乾いた笑いだけ。


 東羽とうは高等学校へ行ってみれば、すぐに警察を呼ばれての連行。

 からの、1回目の帰還で馴染みのある研究所へ。


 担当した刑事は、すげー形相で渋っていたが、それだけ。

 ドンマイ!


 核戦争が始まっても大丈夫そうなシェルターの奥へ収監されて、部屋のスピーカーによる尋問が続く。


『なるほど……。あなた方は、また異世界へ行っていたと?』


 新作のスナックを食べているイリナは、肯定する。


「そうだよ! 信じるかどうかは、ご自由に」


『衣川さんが言っていた、以前に戻した生徒たちですが……。そちらの証言とも一致していますから』


 気になった俺は、質問する。


「そいつらは? 無理に答えろとは、言わないけど」


『……こちらに帰還しました。精神に異常をきたしたか、周りに敬遠されて引き篭もりというケースもありますね』


 しょんぼりしたイリナが、息を吐いた。


「そっか……。あの世界にいたほうが……滅ぼしちゃったか!」

『こちらでは控えていただけると、ありがたいです』


 気を取り直した、スピーカーからの声。


『お二人は、今後どうしたいですか?』


「しばらく、ゆっくりするよ! 高校の通信教育は受けられないか?」

「私も!」


『……教材と動画による授業を受けて、課題の提出で良ければ』


 1週間にわたった尋問は、どうやら終わったようだ。


 周りを見れば、窓がないことを除けば、バカンスの別荘のよう。


 俺たちがいる場所も、広いリビングダイニング。


 タブレットで食事を選んでいたイリナは、顔を上げる。


「あの2人……。大丈夫かな?」

「問題ないと思う」



 ◇



 堤夏夜と松永瑠香は、女子大生になっていた。


 クラス召喚から、早くも数年。


 当初はマスコミとネットのどちらも騒がしかったが、半年もたてば、ほぼ沈静化。


 2人は、合コンに行くために準備していた。


「さー! 彼氏を見つけるぞ!」

「……あの事件のせいで、散々でしたね?」


 着飾った私服で歩く、女子2人。


「ほとぼりが冷めるまで、数年もかかった!」

「戻ってきたクラスメイトの一部も、しつこかったですし」


 研究所のエージェントだった2人は、同じ経験をした奴らと連絡せず、会わなかった。


 その時に、ピーピーピーと甲高い電子音。


 ピタリと立ち止まる、女子2人。


「出てよ、夏夜ちゃん?」

「出たくないです……」


 しかし、周りに見られたことで、小さな端末を取り出す。


 小さな液晶に並んでいた文字や数字は――


「あの2人も、出てきたかあー!」

「私たち、彼らと人生を共にするんでしょうね」


 地団太を踏む瑠香に、達観した様子の夏夜。


 ため息をつきながら、合コン会場とは違う場所へ歩き出す。


「もう、西坂にしざかくんでいいんじゃないかな?」

「……カレーがないから、ハヤシライスにするみたいに言われても」


 夏夜のツッコミに、瑠香が言い返す。


「女に生まれて、男を知らずに死ぬつもり? どうせ、逃げられないのだし!」

「イリナさんに殺されそうですが……。まあ、それも人生ですか」


 どこまでが冗談かは、さておき。


 この女子大生2人が、再び命の危険になることは確か。


 西坂一司ひとしのハーレムパーティーになるかは、また別の話……。



 ~Fin~

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2回目の異世界召喚~世界を滅ぼせる男女は旅をする~ 初雪空 @GINGO

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