第3話 屍王と不死者存在と不死身蜘蛛

「クレア、此処か?」

『そうだ。人を攫っている不死者が此の場におるだろう。この気配は……人を食らっておるな。それも生きたまま。食らわんくても生きていけるじゃろうに』


不死者は食事を食べる必要は無い。それが不死者と人間、生を生きる者か捨てた者かの違いだ。それでも、自身の愉悦の為に生ある者を殺し、食う者が一定数居るのが事実。本当に大変なんだろうな、と思いながら背後に飛ぶ。


直虎が元々居た場には、貫通を特化させている透明な糸が刺さっている。魔術による魔力探知を発動し、糸を飛ばしてきた不死者の場所の把握を完了した。魔力探知の魔術に続いて、貫通光弾の魔術を使用する。


糸と魔術の光弾が衝突し、爆発するが、直虎に対しての糸の攻撃は終わらない。捕獲、斬撃、粘着、刺突。色々な特徴を持った糸が直虎を追いかける。クレアと共に造った刀で向かってくる糸を切り裂く。しかし、それでも攻撃は終わらない。上限は無いのか、と思ってしまう量。


『このままでは不利であるぞ?』

(知ってる。だから、鬼ごっこでもするつもりさ)


クレアの言葉にそう返した後、周囲に有る木々を利用して糸から離れていく。何メートル離れても追尾してくる糸に、ある確信が心の中に宿る。この糸は使用者の可能な領域まで追尾するモノであろう。気配からして、蜘蛛型の不死者だ。


瞳が八つあれば、千里眼発動可能な数が人間と比べれば一気に広がる。それで差が埋まるか、と言われれば否であるが。死術を刀に使用し、森の範囲全てに斬撃を一斉に降らせ、糸を全て切り裂く。とは言っても、この斬撃は一度の斬撃である為、もう一度糸を発動されれば、先程と同じく追尾をされるだろう。


けれど、問題は存在していない。


C'est le これはdeuxième mouvement二手目さ


直虎は周囲の風を揺らし、移動する。不死者としての、屍としての身体能力を使用して。刀が、藍色の夜に混ざっている蜘蛛に触れ、脚の一本が切り飛ばす。


蜘蛛は驚きながらも、糸を発動しようとするが、発動ができていない。どうして、と言わんばかりの困惑に顔が染まっている。けれども、直虎は待たない。蜘蛛は、追い詰められていく。不死者としての再生力を利用して逆転を持ち込もうとも、以前ペースは直虎の物だ。この場、この空間は、直虎が今支配している。


どれだけ回復しようとも、再生をしようとも、相手は、直虎は不死者である。それも普通では無く、次期王なのだ。再生をしていようが、その前のダメージ量に戻す事など、この蜘蛛相手なら赤子の手を捻るように可能だ。


「なるほど、漸く理解したか。自身の魔力回路に斬撃を入れられている事が」


糸の生成、放射は魔力回路を使用するもの。一つだけなら時間を掛ければ可能であろうが、両方使おうとするから不可能なのだ。それに気づいた蜘蛛は時間を掛けて糸の工程を通した後、直虎が所持していた剣を奪い取った……が、無問題no problemである。


直虎の拳が、蜘蛛の頭部に直撃する。巨大な脳を揺らす程のダメージに、つい後ろによろめいてしまう。それを直虎が見逃す筈も無く、死術を込めたストレートパンチを放つ。来る道筋が分かりやすい拳。通常の状態の蜘蛛ならば余裕で避けられる速度の拳。威力に特化し過ぎた拳。


拳と蜘蛛の体が激突をする。


ドゴォォォォン!


あまりに強力な打撃。夜の森に響く炸裂音と蜘蛛の背後にある木々が殆ど折れている光景から、どれだけ強力な打撃だったのかが分かるだろう。この一撃で蜘蛛を葬れると思っていたのだが……見当違いだったようだ。


蜘蛛は仕留めきれず、驚いている直虎の隙を取り、腹に尖った脚を突き刺す。八つのウチの三つが突き刺さったが、直様脚を退かして反撃をする。……いや、反撃をしようとした、の方が正しいのだろう。


体を動かそうとしたのだが、動かない。体中に麻痺毒が巡ってしまっているかのように。体に起こっている異変はそれだけでは無い。脚を突き刺された時から吐き気、頭痛、腹痛という三種の痛みに加え、聴覚という五感の一つを遮断させる毒もあるのだろう。


反撃の一手を起こそうと魔力と死力を練ろうとし、途中まで上手く練れていた。は。突如として、魔力、死力を使用する為の回路が使えなくなる。回路の故障は一時的な物であるのだが……この故障は毒によって齎された事だった。腹を見てみれば、四本目の脚が突き刺さっている。


一つの脚に纏っている毒の種類は二つあり、一つは麻痺毒のような特殊毒。もう一つは瞬時にダメージを与えたり、毒を蓄積させて遅延ダメージを与える通常毒。今回蜘蛛が使用した毒はもう一つの通常毒、毒を蓄積させて一斉に開放する通常毒である。


花びらのような、小さい赤い液体がポタ、ポタ、と地面に落下し、付着する。ソレは鼻や口から流れ出てくる。口と鼻から出てくる液体が血液であると理解するのに、時間はあまり掛からなかった。不死者で無ければ即死するダメージ……とは言っても、直虎程度の格であれば、限界は近い。肉体が、では無く、精神が、だ。


(難易度ノーマルかと思ったら、ルナティックじゃねえか……!)

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屍王を宿した人間〜神と出会わず転生しましたが、怪物が心に住んでいるのでオケ〜 鋼音 鉄@高校生 @HAGANENOKOKORONINARITAI

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