第2話 屍王と不死身存在と王の意味
パチ、パチ、とオセロの黒白の石を両者打っている音が暗闇世界の中に響く。優勢は打てば塗り替えられる。それは此方側、直虎も同じ事。塗られる事が無い角を取れば、クレアの顔は分かりやすく歪むのだが、瞬時に適格な石を打ってきて、直虎の側の顔が歪む事になった。
オセロの勝負の十二戦を始めてから九分程経った頃だろう。その時にはオセロの盤面が石で埋まっており、六割がクレアの黒石であり、四割が直虎の白石である。対戦の感謝を示して両者御礼をした後、クレアの様子を見れば
それに怒りが完全に立ってしまい、青筋を出す。怒りの念を込めて「ガルルルル!」と威嚇を口から発していれば、クレアは嘲笑をする。それに怒りの線が切れ、頬を力強く引っ張る。頬が長く引っ張られているクレアは不満そうな顔をした後、突き飛ばす。
戦闘に入ってしまえばクレアに勝てる筈など無く、体力切れまで体を消し飛ばされた。
「……日に日に体が人間離れしていってる気がする」
「ナオトの体は生まれた時から人間では無かろうに。まあ、ナオトの成長能力が高いのは認めよう。しかし、それは次期屍王なのだから、当たり前だ」
「そりゃそう……!?え、は?……次期屍王!?」
「む?言っておらなんたか?」
「言っておいた筈なんたがな」という呟きと共に発せられるクレアからの言葉。それは直虎を驚愕へと突き落とすのには十分であった。クレアから直虎に伝えられている事は天性の屍だ、という事だけである。屍の屍、次期屍王なのだとは言われていない。伝えられていない。
確かに一度与えられた技の対処は瞬時に
普通の屍__人間を超越している屍に普通もクソも無いが__と思ってきたいたのに屍王だと言われて頭を抱えたい感情に陥っていれば、ある疑問が浮かぶ。
「そういえばさ、屍王って何?屍は力を持った人が死して成る者だって聞いたけど」
「ふむ、確かに詳しく説明しておらんかったな。
屍王とはその名の通り、人間を超越した屍を統べる者、王である」
その程度の情報は、直虎でも予想していた。もっと情報は無いのか、という意思を込めて視線を送るが、クレアは口を開かない。一秒、二秒、三秒と時間が過ぎていく。何方も折れる事なく、両者の視線がぶつかり合う。衝突する。
ため息を吐いたのはクレアであった。
口を開き、説明をする。屍王とは一体何なのかを。
「屍王は抑止力だ。戦を止める為の暴力装置なんだよ」
「抑止力…?暴力装置…?なんでそんなのが」
「では、聞くがな、ナオト。屍が、不死者が全て善だと思えるか?」
感情がこもっていない、ただの冷たい言葉。その言葉が、直虎の心に突き刺さる。クレアが言った。屍とは、不死者とは力ある人間がある条件で域を超える事。それに悪、善などの条件は無い。強さを持てば、域を超える事ができる。
力を持つ者が少ない人でさえ、感情が暴走して仕舞えば大変な事になる。力を更に持つ不死者の感情が暴走をすれば、大事件になる事は間違いなしだ。世界に大打撃を与えるのは目に見えている。王の存在は大事なのだ、と聞いただけで理解が可能だ。しかし、直虎の瞳には水が溜まりそうになる。お前は道具として生まれて来たのだ、と言われた気がして。
「じゃあ、俺が生まれて来た意味はなんだったんだ?意味は無かったのか?道具として生まれて来た意味以外は……」
「生まれて来た意味が無い、じゃと?」
怒りの籠った声が、視線が直虎を貫く。感じた事が無い膨大な怒りに体がビクリと揺れる。その振動をキッカケとするように、クレアは一歩、一歩、一歩、と歩いて行く。急ぐ事なく、ゆっくりと歩いているが、体の節々からクレアの怒りが伝わってくる。
胸ぐらがクレアの手によって掴まれる。
「ふざけるな!儂と共に見ていただろ!貴様の今世の親が生まれたばかりの貴様を抱いて喜んでいたのを。…生まれて来た意味が無いのなら、貴様が儂と共に楽しんでいた事はどうだ!?もし意味が無いのなら、何故楽しめた。それにな、それは
儂への侮辱にあたるぞ。例え、抑止力という道具
として生まれて来たとしても!その先を生きるのは儂等道具の意志の問題だ!」
深く、深く直虎の心に突き刺さる。道具として生まれて来た事を嘆いている直虎にとって、道具として生まれて来ても、その先は意志の問題だ、と考えているクレア。酷く、酷く眩しく見えた。輝かしく見えてしまった。
「意志を捨てるでは無い。それでは、本当に道具と同じだぞ!」
涙が、地面へと落ちる。悲しみの、嘆きの涙では無い。苦しみの涙では無い。ただ、道具でも生きても良いと言われた気がした……嬉しみの涙である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます