屍王を宿した人間〜神と出会わず転生しましたが、怪物が心に住んでいるのでオケ〜

鋼音 鉄@高校生

第1話 屍王と不死身存在の邂逅

「ん……ねみぃ」


女性よりも何段階か低く鈍い声。それは確かに腐生直虎ふせいなおと自身のモノであった。眠いと抗っている瞳を開ければ、暗闇で瞳に溢れていた。直虎の記憶の中には、此処までの暗闇は見た事が無い。目を瞑ったのか、と思う程に暗黒だ。


それでも何か、と思い記憶の深層領域を探してみれば、大学二年生の後輩に包丁で刺されたのを思い出した。そして意識が闇に堕ち、目覚めたのが此処である。死語の世界なのかと思いはしたが、それにしては暗すぎる。いや、正確には何も無さ過ぎる、だ。


直虎以外の者がこの暗闇空間に存在している様子は無い。死した者が生ある者に転生をする輪廻の輪も見当たらない。ならば、と何も無い地獄を思い浮かべる。人間、何か刺激が無くては感情らしい感情が浮かばない。


どんな答えを考えても、それが正解かを教えてくれる者など居ない。分かっているのに、思考をするという愚かな選択を続けてしまっている。


『此処はお主の心の真相領域であり、儂との共通領域である』

「真相領域に共通領域……?それってどういう……めっちゃ異形」


此の暗闇世界は直虎の真相領域であり、共通領域であると教えてくれた者の姿は異形そのもの。深緑色の角に死を感じさせる黒と紫の肌。そしてドロドロと体は溶けており、見ただけで人とは全く違う歪な生物を理解させる。


しかし、直虎には不思議と嫌悪感は無い。恐怖感は無い。その逆、仲間意識が目覚めている。どうして、という疑問を抱いていれば、その疑問に知ってかどうか、異形は口を開く。


『一つ、言っておこう。お主は儂に仲間意識が目覚めているだろう。それはお主が死して転生し、

天性の屍に成ったからだ』

「天性の屍?」

『うむ、本来屍とは力ある人間が死す事で死の象徴たる屍に変化する。しかしお主は力があった訳でも無い。お主にあったのは天性の屍となる資格がある魂。そしてその資格ある魂が資格ある体に転生した事で天性の屍となった。だから、安心するが良い。自我などは無かった。乗っ取りという事では無い』


魂が体に移った、その言葉で乗っ取ってしまったのか、と思ったが、この屍は元々自我など無かったと説明をしてくれた。この説明があるお陰で直虎は遠慮なく生を進む事ができる。いや、生まれた時から死の象徴である直虎は、素直に生きていると言えるかは怪しい所ではあるのだが。












真相領域に住まう異形であり、屍王であるクレア__直虎命名__と数ヶ月の間話していたのだが、飽きてしまった。話す話題が存在していないのだ。楽しい思い出、苦しい思い出を話すのは数ヶ月で事足りる。しかし、現世へと顕現できるのは最低でも喋る事ができる体になってからだ。


クレアにその事を話せば、呆れたようにため息を吐く。


「暇、か。儂にはよう分からんな。何もする事が無い時は意識を飛ばしておれば解決する」

「そりゃあクレアはそれで良いかもしれないけど、屍初心者である俺としてはキツイのよ」

「ふむ、確かにそれは一理あるな。……すまんが儂にはナオトの暇を潰すのは鍛錬くらいしか思いつかん。まあ、不死者としての力を自覚させるには丁度ええか。立て、ナオト。殺さない程度に殺してやろう」


『殺さない程度に殺してやろう』という言葉にナオトの頬からはツーと冷や汗が流れてしまう。暇つぶしとして何か無いか、と頼んだのは直虎の方なのではあるのだが、今からでも断りたくなってしまった。けれど、クレアは今更逃がしてくれるとは思えないので、着いていくのだが。


クレアの鍛錬が開始されてから三分が経った頃だろうか。直虎の内心の鍛錬印象としては『地獄』が一番合っているだろう。屍という人間を軽く何百も飛んでしまっている超越した不死生物であるが故に、死んでいるであろう重傷も治っていく。故意による再生では無く、意思関係無く発動する自動再生なのは呪いなのだろうか。


そんな事を頭で思考していれば、屍が得意としている死術をクレアから放たれ、上半身が吹き飛ばされる。少しはゆっくりとできねえかなあ、と考えていれば自動で上半身が再生される。再生をされると言っても、痛みはある。出来ればもう少し攻撃の手を緩めて欲しい所だ。


体力や内包しているエネルギーもそろそろ限界が来てしまう……と言いたい所なのだが、天性の屍として生まれて来たのが理由か、体力は有り余っている。ならば痛みは、という話にしたい所。けれど三分間で途轍も無く死にかけたせいか、痛みへの耐性が尋常では無いくらいに存在しているのだ。


トホホ、と避ける事もできぬ自分が惨めに感じてしまい、つい口から出てしまう。しかし、瞬時に意識を切り替える。こんな事を言ってたら隙を突かれて死術を撃ち込まれてしまう、と。けれど、遅かったようだ。直虎の周囲に何千もの死術が展開されている。流石に不味い。気持ち悪いくらいまで再生力がある直虎と言えども、これは不味い。


両手を地面に付け、死術を発動させる。今使用可能な並大抵な死術では、この理不尽なまでの大量で威力が激烈なクレアの死術を止める事はできない。しかし、だ。体の欠損という犠牲を出せば、効果が桁違いに跳ね上がる。クレアの死術を防ぐ事ができるのだ。


両腕を溶かし、溶けて出て来た物質は大きく広がっていき、向かって来る死術を防御する。発動した死術で死術を受け止めた後、一度死術の発射は終える。けれど、これは第一段階である。クレアの死術は何段階もの発射がある。第二段階、第三段階、第四段階、第五段階。今回は第五段階だけであったが、クレアならば更なる段階も可能であろう。


展開していた死術を解き、直虎が安堵の息を吐いていれば、クレアからのストレートパンチが飛んできた。


「へぶぅっ!?」

「まだ敵が居るのに気を抜くとは何事だ。お主は不死者であるからまだ良いが、強者の中には不死属性を貫通する者もおる」

「すみません……」

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