第9話「恋敵実験(ライバルとうじょう)」

「あなた、澤井誠一よね?」


 金髪巻き毛で碧眼の気の強そうな女の子が、夏期講習の帰り道のぼくの前に立ちはだかった。


「え?そうだけど……誰?」


「私の事知らないの!?信じられない!」


 金髪の巻き毛をファサっとかき上げて、腕を組む。


 残念ながら腕に乗るほどの胸は無いようだ。


「そ、そういわれても、どっかで会ったっけ?」


「学年主席の安倍川マリアよ!」


「はぁ……」


 そいえば他クラスに金髪の綺麗な女子がいたのを見たことがあるな。あんまり興味がないから気にしたことは無かったけど安倍川さんっていうのか。


「あなた、どうして夏期講習に来ないのよ!」


「???言ってる意味が分からないんだけど」


「週一でしか来てないじゃない。普段も塾には通ってないみたいだし」


「え?苦手科目だけ受ければ十分じゃない?」


「そんなのでよくも私から二回も一位の座をとれたわね!」


 ぼくは中学校の定期テストでだいたい上位十位以内をウロウロしていた。気が乗らないときは下がるし、気が乗ると時折一位を取る時もあった。


 一年生の時は2回ほど一位を取ったことがある。安倍川さんはどうやらいつも一位を取っているらしい。すごいな。


「個人情報じゃん……どうやって知ったんだよ」


 うちの学校は順位の公開はしていない。個人の順位は本人しか知らされないはずだ。


 安倍川さんとやらはマジでどうやって知ったんだ?


「そんなことはどうだっていいのよ!あなた普段あんまり勉強してるように見えないのにどうして普段から塾に通ってる私から一位を取れるのよ。今回だって二位だったみたいじゃない!」


「ちょ、ちょっと待って!マジで意味わかんないんだけど!」


「何かズルでもしてるんじゃないの!?」


「言いがかりがヒドイ!」


 ズル……というか不正をしてるのはそっちじゃないのか?非公開の他人の順位を知ってるあたり。


「普段どんな勉強をしてるのか、私に教えなさい」


「別に普通だよ。予習復習適当にやるくらいだよ。あとはテスト前にちょっと復習するくらい?」


「そんなわけないじゃない!」


「理不尽!!……マジでその程度しかやってないんだってば……」


「ぐぬぬ!」


 いやいや、ぐぬぬとか言われても。


「それにあなた、あの加藤晶と付き合ってるらしいじゃない」


「え!?か、加藤さんとはそういう関係じゃないよ」


「嘘よ!じゃなきゃどうしてそんなに親し気なのよ」


「ぼくが聞きたいよ……」


 ぼく達が塾近くで言い合っていると、周りの生徒たちがザワザワと集まり始めた。


「お嬢様」


「何よセバスチャン!」


 安倍川さんが後ろから呼びかけられ振り向いた先には、セバスチャンと呼ばれたいかにも執事です!といった格好の妙齢の女性が立っていた。


 うおっ!胸がはちきれんばかりにデカい。ブラウスがぱっつんぱっつんだ。


「そろそろ次のご予定の時間です」


「……仕方ないわね。澤井誠一、今度はこちらから連絡するからその時は話を聞かせなさい!」


「え!?ちょ!」


「それでは澤井様、この場は失礼させていただきます。私の自己紹介はまたいずれ改めて」


「あ、はい」


 安倍川さんとセバスチャンさん?は路上パーキングに止めてあった高級車に乗って去っていった。


「なんなんだよ、一体……」


 こちらから連絡するって言ってたけど、どうやって?

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ぼくたちに大人の恋はむずかしい 天露らいむ @amatsuyulime

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