第8話 一学期のおわり。

「今週末から夏休みだけど、お前ら気を抜くんじゃないぞ~!」


 週明け月曜日の放課後、ショートホームルームも終わり。週末には実験もなくレポートを書く必要もなかったので土曜から日曜の間はずっとゲームをして過ごしていた。


 おかげでDSS2のストーリーはばっちりクリアできたのだぜ!


 加藤さんとのLINEも「何してるの?」「ゲーム」「ウチもお仕事無ければ実験できたのにね」程度のやり取りしかしていない。


 夏休み中の課題は今週から渡されていて、いくつかはすでに貰っているから、今日からちょっとずつこなしてさっさと終わらせる予定。ゲームがひと段落したら一気に終わせるのだ!


「たっちゃ~ん」


 ぼくは教室の一番後ろのたっちゃんの席に歩み寄る。


「せーちゃん、どした?」


「DSS2とりあえずチュートリアル終わったぜー」


 やりこみ系ゲームは、シナリオクリアまでがチュートリアルというのは常識だ。


「おお~、そんじゃ夏休み中にマルチできるな!と言いたいところなんだが」


「夏休みの日程ってどうなってんの?」


「やーそれがさぁ、部活と試合以外はかーちゃんが夏期講習申し込みやがってさぁ、オレスポーツ推薦で高校行く予定なんだけどなぁ……」


「あー、ご愁傷様だなそりゃぁ。でもまぁ成績維持もある程度は必要だしなぁ」


「正論なんて聞きたくねぇよ~」


 そう言いながら机に突っ伏すたっちゃん。


「んなわけだから、とりま遊べそうなときにLINEするわ~」


「りょ。んじゃぼくもどうするかなぁ。一週間DSS2漬けの予定だったけどもう少しは勉強でもするかなぁ」


「優等生は違うねぇ」


「まぁ嫌いじゃないからな」


「せーちゃんは夏期講習うけるん?」


「ぼくは文系の苦手教科だけかな。理数系は得意だから。あ、でも全国学力テストは受ける予定だわ」


「夏休みにまでテストは受けたくないなぁ。そいや加藤さんとはどうなん?」


「どうって?」


「夏休みの予定だよ。いろいろとできるだろ?」


「それな~」


「乗り気じゃないじゃん。いやなん?」


「嫌なわけないじゃん、でもなんでぼくなんだろって……」


「なんでってそりゃお前、気付いてないんか?」


 気付くって、何かあるのか?


「ちょ、ちょ、ちょっと澤井くん!」


 加藤さんが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「さ、澤井くんの夏休みの予定教えてよ!」


「うお、びっくりした」 


 たっちゃんとの間に割り込んで、たっちゃんの机の脚をガンガンと蹴っている。 


「夏休みの予定か~。週一で夏期講習あるくらい。あとはお盆にじーちゃんかなぁ」


「そ、そうなんだ。なら暇なときにウチとも遊ぼうよ!あと宿題教えて!お仕事あって宿題大変なんだ……」


「べ、別にいいけど」


「マジで!?やったー!それじゃお盆明けたら連絡する!ウチもそのくらいから時間取れるから!」


「うん、わかったよ」


 ぴょんこぴょんこと跳ねながら加藤さんはさっきまで話していた女子グループの方に戻っていき「きゃー」と抑え気味の歓声が女子グループから上がっていた。


「加藤さん頑張ってんな」とたっちゃん。


「芸能界で仕事してるってすごいよなぁ」


「そういう意味じゃないんだけどな」とたっちゃんが小さい声で呟いていたのだが、ぼくにはよく分からなかった。


 そんなこんなで特に何事もなく一学期は終わり、夏休みが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る