第7話 真夏の夜の夢のはなし
日曜日の夜。
DSS2のシナリオパートをクリアしたぼくは、ゲームのやり過ぎからくる頭痛をこらえながら寝ていた。
「いっくん、いっくん!今日は何して遊ぶ?」
ショートカットの小さな男の子が僕の腕を抱くようにくっついて話しかけてきた。
久しぶりに見た、小さい頃の夢だ。
「今日はまいむちゃんのテレビあるからやだ」
まいむちゃんとは、Eテレで当時やってきたキッズ向け料理番組のメインキャラクターの女の子。番組名はクッキングアイドルなんちゃらかんちゃらって長い名前だったのでメインキャラのまいんちゃんと呼んでいた。
当時はけっこうな美少女がキャストになったとネットで話題になっていたらしい。
ぼく自身は子供にもわかりやすい料理の説明とクッキングの歌が好きで見ていたのだ。
「あっくんとはいつも遊ぶでしょ。今日はまいむちゃんの日だから」
「Eテレいつも再放送やるってママが言ってたし、今日はあっくんと遊んでよ」
この時の夢ってことは、あの時の夢か。
夢に出ているあっくんとは、いま思い出せば学区の境目で別々の小学校に通っていたのだと思う。道路を挟んだ近所に住んでいたのは知っていたのだが、小学校ではあっくんに会えずいつも放課後に家の近くの公園で遊んでいた。
お互いにいっくんあっくんと呼び合う程度には仲が良かった。たぶん一番仲が良い友達だった。
この日も帰宅途中の公園で待っていたあっくんにいつものように捕まったのだ。
「やだよ~、お父さんがリアタイ視聴はオタクの義務って言ってたもん」
「いっくんのイジワル!今日はあっくんと遊んでよ!」
「ん~、今日はまいむちゃんかなぁ」
「もういいよ!いっくんのバカ!」
「え~……じゃあ、うちに来て一緒にまいむちゃんみる?」
「……みる」
ということで、あっくんと連れ立ってぼくの家でまいんちゃんを見ることになった。
「あら、あっくんいらっしゃい。カルピス飲む?」
「いっくんのママ、こんにちは!カルピスいただきます!」
「あら~あっくんはいい子ねぇ!ちょっと濃い目に入れたげるわね」
「やたー!ありがとう!」
あっくんとぼくを出迎えたお母さんはリビングへと向かい、丁度姉さんも帰ってきた。
「お母さん、あたしにも頂戴」
「あら、お姉ちゃんお帰りなさい」
「おかえりなさい!お姉ちゃん!」
「あっくん来てたんだ。今日もかわいいねぇ」
「えへへ~、ありがとう」
あっくんは姉さんに撫でられて上機嫌にしている。
ぼくは自分の部屋にランドセルを置きに階段を上がっていった。
(いつまであっくんって呼ばせてんの?)
(おねーちゃんしー!しーっ!)
「お米を研ぐときゃ優しくね~♪リズムに乗ってちゃっちゃっちゃ♪」
ぼくはまいむちゃんと一緒に歌いながらテレビを見ていた。
あっくんはソファに座ってつまらなさそうにカルピスを啜っていて、その様子をダイニングから母さんと姉さんが眺めていた。
「ねぇ、いっくん。まいむちゃんのこと、好き?」
手の中でコップを弄びながらあっくんが訊く。
「好き!お料理って面白そうだよね。お母さんにも今度お料理教えてもらうんだ」
「お料理も好きなの?」
「実験みたいで好き!」
ちなみにこの頃のぼくのマイブームは知育菓子(ねるねるねるねとか)だった。
「……いっくんは、あっくんがまいむちゃんになったらもっと一緒に遊んでくれる?」
「あっくんはまいむちゃんになれないでしょ?違うもん」
「違わないもん!なれるもん!あっくんもまいむちゃんになれるもん!」
「無理だよ~。あっくん男の子でしょ?」
「~~~~~!!!!いっくんのバカーーーーー!!!あっくんまいむちゃんになるもん!!」
あっくんはそう言って家を飛び出していった。
((はぁ~~~~~~~~……))
姉さんと母さんは盛大にため息をついていた。
あっくんとはこの日に遊んだのが最後だった。
あれから一度も、あっくんとは会っていない。
父さん、母さん、姉さん三人から「「「一度謝りに行きなさい」」」と異口同音に言われ、あっくんの家まで行ったのだが、あっくんのお母さんから「しばらく会いたくないって言われちゃって……」と言われ、それからあっくんの家には行っていない。
その後たっちゃんと出会い今にいたる。
って超ざっくりじゃん!
と脳内でツッコミを入れた瞬間、目が覚めた。
さて、夏休み前最後の月曜日だ。
学校に行こう。
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