300リミットの激闘
なぜ流派に『歪』と名をつけたのか。
国綱はいつの日か、旭やレオノールにそう質問されたことがあった。なぜか、と言われて明確に言語化することは難しかったが、強いて言うならば、国綱の剣技がまだ未完成だからだろう。
完全ではない、頂に至らぬまま振るう剣技は、正しく『歪』というほかない。そんな中途半端な状態の剣技に、国綱は戒めとして『歪』の名をつけた。
そもそも、国綱の剣技に本当の意味での完成は訪れない。終わりなどない。果てなく続く剣の道。生きてその道を歩み続ける限り、完成などは訪れない。『無』の待つ剣の頂。いつかそこへ至るまでは――
「歪二刀流……」
国綱はダモクレスと似たような戦闘スタイルを得意とする。強化魔法、
しかし、国綱はダモクレスと違い攻撃魔法が使えないわけではない。完全に接近戦に特化したダモクレスとは少しスタイルの異なる、魔法も使いながらの近接戦。味方にも強化魔法を付与し、自身も中近距離を制する万能タイプだ。
二振りの刀を手にした国綱が
「”
二刀の刀による連撃。その攻撃の一つ一つが致命になりうる。加えて
「ソレ、ハ……モウ……キカナイ!」
それらを持ってしても、目の前に立ちはだかる
だが、その行動に今までのような一切の油断はない。
学習している。
(でも、そんなことはもう……知ってんだよ!)
だからこそ、その隙を突く。致命には至らずとも、
「歪二刀流、”
国綱が一瞬刀を鞘に納めたその時に、細工は施されていた。自力で倒せないような相手と出会った時のための保険。国綱の鞘にはある細工がしてある。刀を鞘に納めることによって、剣先に毒を仕込むことができるのだ。
「アルカロイド。植物毒の中でも一番の猛毒、トリカブトの毒を塗り込んである」
ガクンと、
「でも、お前は立ってくるだろう? 同じ轍は踏まないさ」
リミットは残り120。2分の時間を余らせて、国綱は
「……終わった」
だが――
「アハ……オマエ、ツヨクナイ……!」
悪夢は醒めはしない。いつまでも、その命を喰らうまで続く。国綱を覆うように、首のない
逃げ場がない。どう動いても避けきれなかった。巨大化した腕は確実に国綱を捉えている。後退しても巻き込まれる。間合いを詰めても同じことだ。上に飛んでも次の動きでやられる。
国綱は瞬時に思考を切り替える。どう足掻いても結果が変わらないなら、ただでは終わらせない。せめて間合いを詰めて、次で仕留める。徐々に迫ってくる両腕に挟まれて国綱が駆け出す。最低でもどちらかの脚は犠牲になるだろうと国綱は覚悟を決めた。
だが、国綱の予想は大きくハズれた。
「大地よ……命よ! 私に力を貸して!」
その言葉と共に、地面を割って木の根が盛り上がってくる。木の根は迫り来る
根をたどった先にある木は大木へと成長していた。大量の葉を落とし、周りの木々とは比べ物にならないほどの高さから国綱たちを見下ろしている。
大木によって月明かりが遮られる。声のする方へ国綱が目をやると、そこにいたのは――
「ヴェローニカ!?」
「お願いします、私も一緒に戦わせてください! 」
「ダメだ! 君はその力を使っちゃいけない!」
国綱はヴェローニカを制止するが、聞く耳を持たない。少し遠くで焔の制御を試みている旭も、ヴェローニカを止めるつもりはないようだった。
「やめるんだ! こいつは僕だけで倒す! 君は――」
「もう、守られるだけは嫌なんです!」
ヴェローニカの力の重要さを知っているからこそ、国綱は声を大にして止めようとする。だが、そんな国綱の言葉にヴェローニカは強く反発した。
「私は操り人形なんかじゃない! 守られるだけのお姫様でもないんです!」
「でも……危険だ! その力は!」
「私が!―― 私の人生を変えたいんです!」
ヴェローニカの覚悟に呼応するように、力は強くなっていく。ヴェローニカはエルフ種。妖精とも似た力を持つエルフは、森の自然と豊かさを司っている。高位のエルフには特殊な魔法が宿ることがある。その中でも、ヴェローニカに宿った魔法はエルフ種の持つ魔法は特別なものだった。
それは、単なる植物の操作のようにも見える、単純な魔法。あるいは、苗木を大木にすることも、逆に、千年生きた大木を一瞬で枯れさせることもできる。だが、ヴェローニカの魔法は植物に留まらなかった。大地を、川を、魔獣を。人間ですら、ヴェローニカの魔法の対象だ。
そして、ヴェローニカの魔法は決定された。それは植物の操作などではない。『生命を与え、奪う魔法』。その魔法の名を――
『命の魔法』
「お願いします、国綱。あなたと一緒に戦わせてください」
覚悟に満ちた表情でそういうヴェローニカの言葉に首を振ることができず、国綱は振り絞るように言った。
「……僕の後ろへ。サポートを頼む」
「――はい!」
激闘はまだ続く。リミットは残り60――
魔法世界の妖憑き Lilac @nako_115115
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔法世界の妖憑きの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます