第37話 荒療治
朱里さんと俺の様子が変わったことは一気に学校中の噂になった。
その内容は今まで甘々で砂糖だらけのバカップルだったのに今はなんか初々しさが出ている、というもの。
いくつか物申したい点はあるが教室だけでなく人の目のある場所はどうも居心地が悪くて昼休みとなった今は朱里さんと共に人気のない空き教室に来ていた。
「全くなんでこんなことで噂になるんだろうね」
「う……ごめんね、翔吾くん。私が恥ずかしがっちゃったから……」
「別に責めてないよ。ただみんな暇なんだなぁと思ってさ」
俺は苦笑しながら卵焼きを口にいれる。
相変わらず朱里さんが作った弁当は美味しくなぜ冷めているのにこんなに美味しくなるのか聞きたくなった。
まぁ教えてもらったところで俺みたいなド素人に作れるとは思わないが。
でも日頃の感謝を伝えるためにたまには俺が作るのもいいかもしれない。
「ねえ朱里さん。今度俺にも料理教えてくれないかな?」
「え?どうして?」
「あんまり朱里さんに迷惑をかけすぎちゃうのもよくないと思って俺も作れるようになったほうがいいのかなって」
「も、もしかして私の作る料理に飽きちゃった!?」
「え!?そんなことはないよ!?」
たまに朱里さんの思考は予想の斜め上をいくことがある。
今回もまさかそんなふうに思われるとは思ってなかった。
朱里さんの料理はすごく美味しいし手間暇かけて作ってくれてるんだから飽きたって言うなんて失礼にもほどがあるだろう。
それに俺は本心から朱里さんの料理が美味しいからずっと食べていられるって言えるし。
「じゃあどうして料理を……?」
「今は朱里さんがいつも俺のために料理を作ってくれてるでしょ?だからたまには俺が朱里さんのために料理を作りたいなって……。まあ俺の料理じゃお礼にならないかもしれないけど」
俺がそう言うとさっきまで不安げだった瞳がパァッと明るくなった。
そしてバッと俺の手を掴んだ。
「それいい!翔吾くんと料理してみたい!」
「あはは、弁当をお互いの分作ってくるのも楽しいかもしれないね」
「お菓子作りとかもどうかな?クッキーとか簡単に作れるよ!」
「それは楽しそうだね。やってみたいかも」
「じゃあ週末私の家で作ろうよ!道具なら揃ってるから!」
朱里さんが元気になってくれたのが嬉しくて思わず笑みが溢れると朱里さんは我に帰ったのかジワーッと顔が赤らんでいく。
そしてゆっくりと手を離した。
「ご、ごめん……つい興奮しちゃって……」
「付き合ってるし俺は朱里さんと手を繋げて嬉しいけど?」
「で、でもぉ……」
普通はこういうのは付き合う前にやることなのではないだろうか?
まあ初々しい朱里さんも可愛いので大歓迎ではあるが。
「まあまあ。これ食べて元気出して?」
「……それ一応私が作ったやつだよ?」
「俺がしたかったから。だめ?」
「………だめじゃない」
そう言って朱里さんは俺が差し出した卵焼きをパクリと食べる。
なんでこれは恥ずかしくないの?と聞きたいところだがいつもやってることだしわざわざ聞く必要も無いだろう。
朱里さんとイチャイチャできるのは嬉しいしね。
「……ねぇ翔吾くん。どうしたら恥ずかしくなくなるのかな……」
朱里さんが急にしょぼんとなって聞いてくる。
やはり朱里さんも似たようなことを考えたのかも知れない。
もっとくっつきたいって。
「うーん、前はずっとくっつけてたわけだしなぁ……。付き合う前はなんで大丈夫だったの?」
「……杏奈じゃなくてどうしても私に振り向いてほしかったんだもん……大好きだったから絶対に諦めたくなかったの……」
大好きというワードに心臓が跳ねる。
だが朱里さんは真剣に相談してくれてるんだと自分に言い聞かせ考える。
「……ちょっと荒療治かもしれないけど恥ずかしくなくなるまでスキンシップを取り続けてみるとか?」
俺がそう言うと落ち込んでいた朱里さんの顔ががばっと上がる。
「それいい!やろう!私がもう無理って言ってもずっと抱きしめてて!」
「え?それはそれで大丈夫なの?」
「大丈夫!翔吾くんに抱きしめられて本気で嫌がるなんて絶対にありえないもん!」
本当に大丈夫なのかと心配になる俺だったが当の本人はめちゃくちゃやる気みたいだ。
俺から提案したんだし朱里さんがやる気なら別にいいか。
俺は弁当箱と箸を横に置いた。
「それじゃあ失礼するね」
「ひゃっ!?」
俺は朱里さんを抱き寄せ自分の太ももの上に座らせる。
いわゆるバックハグみたいな感じで朱里さんの体温がしっかりと伝わってくる。
久しぶりのハグにとても温かくて嬉しい気持ちになった。
「だ、大胆だね……」
「そうかな?付き合う前の朱里さんのほうが大胆だったと思うけど?」
「あぅ……そ、それを言うのはなしで……」
俺達はそのままでいたがしばらくすると朱里さんがモゾモゾと動き始めた。
熱いとか苦しいとか何かあったのかな?
「どうしたの?朱里さん」
「い、いや……その……やっぱり恥ずかしくてもう無理かも……」
そう言われるといたずら心が芽生えるのが人間というもの。
俺はいい笑顔を朱里さんに向けた。
「もう無理って言っても治るまでは離さなくていいんだよね?」
「そ、それは……言葉の綾といいますか……」
「だめ。治るまでは絶対に離さないよ」
「も、もう無理!ドキドキしすぎてこれ以上は心臓が爆発しちゃう!」
「大丈夫。人間はそのくらいで死なないよ。もうちょっと頑張ろう?」
「翔吾くんが急にドSになっちゃった!?も、もう無理……!許して……!」
結局俺達は20分くらい抱き合っていた。
荒療治の甲斐あってか朱里さんも治ってスキンシップができるようになった。
めでたしめでたしと言いたいところだが朱里さんが拗ねてしまい機嫌を治すためにコンビニで朱里さんが好きなスイーツを買って一緒に食べた俺だった──
初恋のギャルに無慈悲に捨てられた俺、傷心していると学年で一番の美少女に拾われてお持ち帰りされた 砂乃一希 @brioche
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。初恋のギャルに無慈悲に捨てられた俺、傷心していると学年で一番の美少女に拾われてお持ち帰りされたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます