第36話 ……浮気?
「は、恥ずかしいのっ」
「え?」
「改めて翔吾くんと付き合えたって思ったらくっつくのが恥ずかしくなっちゃったの!」
………今更?
朱里さんは今まで散々スキンシップを取ってきた。
それこそ本当に付き合ってる人でもこんなにベタベタするものなのか?って疑問に思うくらいには偽装カップル時代にくっついていた。
なのに今更恥ずかしいと言われてもあまりピンとこなかったのである。
「うーん……なんで?」
「なんでって言われても……なんか恥ずかしいんだもん……」
そうやって自分の手で顔を隠す朱里さんの耳は朱に染まっていて嘘をついているようには見えない。
どうやら本当に恥ずかしいらしい。
「えーっと……じゃあ今日はできるだけ接触しないようにしとく?時間が経って慣れてくれば恥ずかしい気持ちも収まってくるかもしれないし」
「それは……やだ。翔吾くんとせっかく付き合えたんだからイチャイチャしたいんだもん……」
「えぇ………」
触るのは恥ずかしくて無理、だけどイチャイチャしたいって一体どうしろというのだろうか。
俺は内心頭を抱えるもずっとこうしているわけにも行かないので朱里さんの手を驚かせないようにゆっくり優しくとった。
「し、翔吾くん?」
「とりあえず学校に行こう。嫌だったら離してくれていいから」
朱里さんは顔をさっと赤くして自分の荷物を持って立ち上がる。
そして少し熱のこもった視線を向けてきた。
「嫌なわけないよ……ありがとう、翔吾くん」
「これくらいは朱里さんの彼氏としてできなくちゃって思ったんだ。たくさん甘やかせって言われてるしこれくらいはお礼を言われるまでもないよ」
それに俺も朱里さんと手をつなげて嬉しいんだから何も問題ない。
朱里さんは相変わらず少し恥ずかしそうな顔をしていたけどその表情にはどこか嬉しさがにじんでいるようにも見え繋がれた手はしっかりと握られていた。
◇◆◇
「えっと……本当に手をつないだままでいいの?」
「いいの!翔吾くんは私のものってみんなに見せつけなくちゃいけないから!」
教室に手を繋いだまま入るという朱里さんに俺は思わず聞き返すが朱里さんからはとても力強い返事が帰ってきた。
俺を狙ってる人なんていないと思うけどなぁ、とは思うもののそれを言ったら朱里さんがむくれそうなので黙っておく。
「ほら!入ろ!」
「わっ!ちょっとそんなに引っ張らなくても……!」
朱里さんに軽く引っ張られて教室に入る。
偽装カップル初日にもこんなことがあったなぁ、と内心どうでもいいことを思いつつされるがままになっていた。
あのときと違うのは今は嫉妬の視線だけでなく女子や一部の男子から生暖かい目を向けられること。
嫉妬の視線よりは良いけどちょっと居心地が悪い。
「あら、おはよう2人とも」
「ああ、おはよう。高窪さん」
教室に入るとたまたま近くにいたらしい高窪さんが挨拶してくれる。
高窪さんは最初微笑ましい表情をしていたが俺の隣にいる朱里さんを見て少し驚いた表情になる。
「あ、朱里?どうしたの?顔真っ赤だけど体調でも悪い?」
ラブコメの鈍感系主人公みたいなことを言うんだ、と思いつつ俺も釣られて見てみたら朱里さんは今日一番真っ赤になっていた。
頬や耳は上気し目は潤んでいる。
なんというか……高窪さんが心配になるのもわかる赤さだった。
「ふぇっ!?だ、大丈夫だよ!わ、私今日も元気だし翔吾くんとラブラブだから!」
「ちょっ!?朱里さん!?」
朱里さんがいきなり腕に抱きついてきた。
さっきまであんなに恥ずかしがってたのにいきなりこんな飛ばして大丈夫かと思って朱里さんの顔を見ると目をくるくる回して見るからにテンパっていた。
「ちょっと朱里!本当に大丈夫!?」
「だ、大丈夫だもん!私は翔吾くんの彼女だからくっついてるだけだもん!」
場がめちゃくちゃなカオスになってきた。
高窪さんが俺をちょいちょいと手招きしてきたので朱里さんを腕にくっつけたまま耳を近づける。
(い、一体朱里はどうしちゃったの?)
うん、疑問はごもっとも。
ただ全部バカ正直に話してしまうと朱里さんとの偽装カップルの話もしなくてはならなくなってしまう。
だからどうしたものかと一瞬頭を悩ませたが嘘を言っても(主に俺が)ボロを出す気しかしなかったので一部伏せながら本当のことを話すことにした。
(ふと我に帰ったらしく俺とくっつくのが恥ずかしくなっちゃたみたい。今朝からこの調子なんだ)
(そ、そんなことあるものなの?)
(俺も初めてのことだしなんとも……)
とりあえずは理解してくれたらしく高窪さんは一つ頷く。
そして内緒話を終えると朱里さんの目から光が消えていた。
この威圧感……まずい!
「あ、あの……朱里さん……?」
「……浮気?」
「浮気じゃないって!高窪さんは朱里さんのこと心配して俺に聞いてただけだから!」
「……本当?」
朱里さんの質問の標的が変わると高窪さんは少し涙目になりながら首をブンブンと縦に振る。
すると誤解は無事に解けたらしく朱里さんの目に光が戻った。
そしてぷくっと頬を膨らませて俺の腕をホールドする力を強める。
「もう、私ももっと構ってよ……」
「ご、ごめん。でも俺が好きなのは朱里さんだけだから……」
「翔吾くん……!大好き!」
「わっ!」
朱里さんが嬉しそうに笑いながら抱きついてきて頬にキスをしてくる。
そして俺は我に帰った。
ここは教室のど真ん中だと。
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新作の準備もありますのでのんびり更新させていただきます。
気長に待っていただけるとすごく嬉しいです。
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