第35話 今更……?

朝、なんとも言えない高揚感と共に目が覚める。

その理由は寝起きの頭でもわかっていた。


(朱里さんと本当の意味で付き合って初めての登校日……!何かが変わるわけじゃないけど会えるだけで嬉しいよな……!)


何か行事があるわけでもデートの約束を取り付けているわけでもない。

それでもただの登校だったとしても朱里さんに会えるのが嬉しかった。

いつも通り、というよりも少し早めに準備をしいつもより身だしなみに気を使う。

そして意気揚々と家を出て電車に揺られていた。


電車を降りいつもの待ち合わせ場所に行くともう朱里さんが立っていた。

朱里さんは来るのがいつも早くて毎回待たせてしまっていて申し訳ないけど朱里さんが早く来ているのも俺と早く会いたいから、だと信じたい。

俺は少し下を見つめてソワソワしている朱里さんに近づく。


「おはよう、朱里さん」


「ひゃわっ!?」


驚かせるつもりはなかったのだが朱里さんは小さく飛び上がって驚いた。

罪悪感が襲ってきて俺は朱里さんに謝る。


「お、驚かせちゃってごめん……」


「う、ううん!私がぼーっとしてたのが悪いから!こっちこそごめんね……」


朱里さんは申し訳無さそうに形の整った眉尻を下げる。

このままいくとお互い謝り続けて終りが見えないことを知っているので俺達はお互いその謝罪で水に流す。


「改めて、おはよう。朱里さん」


「おはよう、翔吾くん!」


さっきと打って変わって朱里さんは最高の笑顔を見せてくれる。

あぁ……朝からこの笑顔が見れたら今日一日は頑張れそうだなぁ……


「よし、じゃあ学校行こっか」


「うん!」


俺達は並んで歩き出す。

が……


「え、えーっと……なんでそんなに遠いの……?」


朱里さんとの距離がすごかった。

いつもなら無理矢理にでも腕を組んだりしてくるのに今日は隣どころか人2人分くらい間が空いている。

少し、というかかなり寂しい。


「………ソンナコトナイヨ?」


「そんなことある!絶対遠いじゃんか!」


なんか急に片言になったけどこれは遠い。

いつもの朱里さんの距離感を知っている者が見れば異常だと言うレベルかもしれない。

さっきも少しぼーっとしてたみたいだし何かあったんだろうか……


「は………!?まさか俺と付き合ったのを後悔してきたとか!?」


「えっ!?」


「何か俺に非があったなら謝るしもうしないって約束する。だから1日で別れるというのはちょっと勘弁してくれ……!」


色々努力もして結ばれたのにもう別れるなんて流石にトラウマものだ。

今だからわかるが杏奈以上に朱里さんにベタ惚れしているのにフラれたら立ち直れない自信がある。

朱里さんがこうなってしまったということは俺に非があった考えるのが自然。

今はとにかく謝ることしかできない。


「ち、違うの!私は翔吾くんが大好きだから別れたくなんてないよ!あ………」


今は登校する生徒が最も多い時間帯であり電車通学の人はほとんどの人がこの道を通っているわけで。

今の朱里さんの言葉は叫んでいるような大きさ、もとい完全に叫んでいたわけで一斉に視線がこちらへと向いた。

そのことに気づいた朱里さんは顔どころか耳や首筋まで真っ赤にして目をぐるぐる回していた。


「あ、あぅ……」


「だ、大丈夫!?」


盛大すぎる自爆。

朱里さんは涙目、というか半泣きになりながら俺の後ろに隠れる。

とはいえあんなことを叫んでからこんなことをすれば完全に逆効果なわけでヒソヒソとこちらを見ていたり黄色い声を上げている女子たちもいた。


「え、えーっと……朱里さん?復活できそう?」


「わ、私ったらなんてことを……あんな大勢の前で……うぅ……恥ずかしい」


まだダメそうだった。

俺は人の少ない公園まで朱里さんを連れていきベンチに座らせる。

時間にかなりの余裕を持っていつも登校しているのでちょっとくらい寄り道しようが遅刻することはない。

俺は自販機で水を買い朱里さんに手渡した。


「ほら、これ飲んで」


「あ、お金……」


「これくらい気にしないで。ゆっくりでいいから飲んで落ち着こ?」


「うん……」


朱里さんがペットボトルの蓋を開け水を飲み始める。

喉がコクコクと動いているのが妙に艶かしくて思わず目をそらしてしまう。


「ぷはぁ……ありがとう。少し落ち着いたかも」


「それはよかった。でも今日はどうしていつもと少し違う様子だったの?もし悩みとかあるなら遠慮なく相談してほしいな」


俺がそう言うと朱里さんは少し困ったような顔をして迷っている。

言いたくないことであれば言わなくて良い。

でもそうでなければできるだけ教えてほしいの彼氏心でありなんとか朱里さんの力になりたいのだ。


「わかった。じゃあお話するね」


「うん」


「かなり深刻な問題なんだけど……」


深刻な問題だという前置き。

自然と緊張感が高まっていくのがわかった。

朱里さんが息を一つ吸う。


「は、恥ずかしいのっ」


「え?」


「改めて翔吾くんと付き合えたって思ったらくっつくのが恥ずかしくなっちゃったの!」


朱里さんの自白に俺は思った。

今更……?

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