第34話 過去があるからきっと変われる

「それは……」


あまりにも見覚えしか無いそのおもちゃ。

昔流行っていたから朱里さんも持っているんだろうと思っていたけどまさか俺があげたものだったなんて……


「えへへ、ずっと大切に持ってたの。翔吾くんが初めてくれたプレゼントだから……」


「そ、そっか……小さな頃の話だけど朱里さんの助けになれていたなら嬉しいな」


まさか本当に朱里さんが本条さんだったなんて……

ロクに話したことない状況だったのに告白してきた点もようやく合点がいった気がした。


「翔吾くんはね、私にたくさんのものをくれたんだよ」


「あはは……あのときの俺なんて朱里さんに話しかけたり遊びに誘うくらいしかできてなかったけどね。今思えばウザ絡みだったかも」


俺が苦笑しながたらそう言うと朱里さんはふるふると首を横に振る。

そして俺の両手をそっととった。


「翔吾くんはいつも私に優しくしてくれた。それにね、あのときの私にはただ自然体で遊びに誘ってくれるだけで、話しかけてくれるだけで本当に嬉しかったの。私はいつも翔吾くんに救われてた」


俺も……誰かの救いになれてたんだ……

朱里さんが落ち込んでた俺を拾って救ってくれたように。

そんな事実に心がぽかぽかと暖かくなってくる。


「だからね、今こうして翔吾くんとお付き合いできたのがすごく嬉しいの。ずっと……夢だったから」


「夢は少し大袈裟なんじゃない?」


「ううん、そんなことないよ。ほら、小学校の頃の私って根暗で地味だったでしょ?」


そう聞かれて俺は小学校の頃、よく本条さんと遊んでいたときのことを思い出す。

確かに話しかけても小さな声でしか答えてくれない子だったし遊んでいるときは笑顔を見たことはあまりなかった。


「なんというか……その……」


「ふふ。事実だから別に気にしなくていいんだよ」


「まあ……それが悪いとは言わないけど大人しい子ではあったと思う」


「でしょ?でも今の私って翔吾くんでも気付かないくらい性格も見た目も変わったの」


確かに今の朱里さんと本条さんは全く結びつかなかった。

だって今の朱里さんは学年一の美少女って言われるくらい顔が整っているし性格だって活発的で好奇心旺盛な様子を良く見せている。

その押しの強さに何度俺の心が揺らいだことか。

まあそんなところも可愛いんだけども。


「確かにそうだね。お転婆とまでは言わないけど朱里さんの家に来るようになって随分積極的だなぁとは思ったし」


「あ、あれは翔吾くんに対してだけだもん!……誰にだって甘えるわけじゃないし」


「あはは、それは光栄だね」


「もう!いじわる……」


「ごめんごめん。ほら、おいで」


俺が笑いながら手を広げると朱里さんは少しムスッとした顔をしながらも素直に俺の腕の中におさまる。

なんだかんだ甘えん坊だしこうして甘やかしていれば機嫌が直ってくることを今までの生活で知っている。


「むぅ……なんか翔吾くんが私を子供扱いしてる気がする……」


「え?甘やかされるの好きじゃないの?」


「うっ……好きだけどぉ……」


なにやら甘やかしては欲しいものの釈然としないものがあるらしい。

俺は苦笑しながら頭を撫でると体の力を抜いて身を委ねてきた。


「もう……話が変わっちゃったじゃん……えっと、あ、そうだ。引っ越して翔吾くんとお別れしたあとも頑張ろうって思えたの」


「俺は結構寂しかったなぁ……ずっと遊んでた友達が急にいなくなっちゃったわけだし」


「ふふ、それでね。それが恋だって気づいたのが小学校4年生くらいだったかな?」


早い……

やはり女子というのはおませなものなのだろうか。

そのときの俺なんて初恋のはの字もなかったぞ。

まあ高校で初恋を経験したくらいだったし俺は遅すぎるくらいなのかもしれないが。


「それから私は努力し始めたんだ〜。もう一度、もし翔吾くんに出会えたなら可愛いって言ってほしいなって、好きになってほしいって、その……思って……」


「そうだったんだ……」


目の前の最愛の彼女が自分のためだけに可愛くなろうとしてくれた。

そのことを知って嬉しくならない彼氏はいるのだろうか。

いや、そんな奴はいるはずがない。


「私だって変われたんだから翔吾くんも絶対に変われるって思ってたの。それに翔吾くんは自信がないだけでやればできる人だって知ってたからあのとき音取くんにも勝てるって言ったんだよ」


あのときやけに自信ありげな感じだったもんな。

自分も変われたから俺も変われる、か。

本当に色んな出来事が絡まり合って今があるんだと思うとなんだか感慨深い。


「ふふ、だから今こうして翔吾くんに抱きしめられてるのがすごく幸せ。私を選んでくれて、本当にありがとう」


「そんなの俺のセリフだよ。本来なら朱里さんは俺にとって高嶺の花なんだから。捨てられないように大切にするって約束する」


「ふふっ、そうだよ?だから、いーっぱい甘やかしてね?」


俺は笑いながらぎゅっと最愛の彼女を抱きしめた。

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