第33話 2人の始まりは

告白が無事、成功して朱里さんと彼氏彼女の関係になった。

そして今は──


「翔吾くんの腕の中、すっごく安心する……」


俺の足の間に入り込み俺の腕の中にすっぽりと収まっていた。

いわゆるバックハグの形でソファーに座っている。

朱里さんの温もりがダイレクトに伝わってきてドキドキする。

今までもスキンシップはあったけど流石にここまで密着度の高いものは無かった。

これも関係が先に進んだ証だろう。


「それはよかったよ。さっきは中々顔見せてくれなくてすごく不安になったんだから」


「う……それを言うのはなしでしょ。変な顔を翔吾くんに見られたくなかったの」


もうすっかり落ち着いてさっきからずっと甘えてきている。

まあ甘えてくれるのは嬉しいし甘やかすつもりではあるけども。


「あ、そうだ。翔吾くん、少しお話があるの」


そう言って朱里さんはモゾモゾと動いて俺の腕の中から抜け出した。

さっきの告白のときのように俺の隣に腰をかける。

さっきと違うのは俺達の間の隙間はなくぴっとりとくっついているということ。


「話ってなに?」


「私が翔吾くんを好きになった理由だよ。ほら、告白したらお話するって約束してたでしょ?」


確かにそんな約束もしていた。

朱里さんと結ばれたのが嬉しくて舞い上がってすっかり忘れていた。

言われてみれば気になるかもしれない。

あのときはおしゃれにも全然気を使っていなかったし運動もダメ、勉強もそこそこという目立たない陰キャ男子だった俺を朱里さんはどうして好きになったのだろうか。


「すごく聞きたい。教えてくれるんでしょ?」


「もちろん。ずっとお話したかったけど黙ってたもの」


朱里さんは一つ呼吸を置き、俺の手をぎゅっと握る。

その表情には告白のときのような不安はなかったけど少しの緊張が混じっていた。

そんな緊張するような特別なエピソードなんてあったっけ?

俺はラブコメ漫画の王道と言えるナンパから助けた、みたいなことも一切やってないけども。


「実はね……」


「うん……」


「多分翔吾くんは気づいてないと思うけど私達が初めて会ったのは高校生じゃないの」


「え!?」


俺と朱里さんの初対面が……高校じゃない?

もう一度過去の記憶を漁ってみるけどそんな記憶は本当に存在していない。

俺の記憶力が悪いだけかもしれないけど朱里さんみたいな美人を忘れるなんて考えられない。


「そ、それって一体いつ……?」


「翔吾くんはね、いじめられていた私を助けてくれたの」


「朱里さんが……いじめられていた?」


「うん……私の昔の名前は、本条ほんじょう朱里。覚えて……ない?」


「本条……朱里……!?」


その名前には聞き覚えがあった。

俺が小学校低学年の頃、仲が良かった女子の名前と全く同じ。

あの女の子が……朱里さん……!?


「ほ、本当に本条朱里さんなの……?え?でもだって姿も性格も名前も……」


「あはは、覚えてはくれてたみたいだね。まああの頃から随分見た目も変わったし気づくのは難しかったかもね」


俺の記憶にある本条さんはすごく大人しい子で前髪で目が隠れてしまっていた少し地味めな女の子。

気弱な性格で男の子数人に詰め寄られていたところを俺がなんとか仲裁しそこから仲良くなったのだ。

2年生の終わりくらいに親の都合で転校してしまってからそれっきりになってしまっていたのだが……

でもどうしても本条さんと朱里さんの姿が結びつかない。


「ちゃんと順を追って説明するね」


「う、うん」


「まずは名字について話しちゃったほうがいいかな。私の家って元々母子家庭でね、私が中学校に入学するくらいのときに再婚したの」


「あ……それで名字が高垣になったのか……」


本条さんが母子家庭だったのは知っている。

よくお母さんがいなくて寂しいと言っていてよく暇を潰すためによく一緒に公園で遊んでいたのだ。

それに再婚したのなら名字が変わったのも説明がつく。


「私って一人暮らしでしょ?年頃の女の子が義理のお父さんと住むのは嫌かもしれないってお義父さんが提案してくれたの。だからこんな学校から近いところで一人暮らししてるんだ」


それでセキュリティーがしっかりしているこのマンションに住んでいるのか……

流石に中学校から一人暮らしはさせられなくても朱里さんはしっかりしているから高校生のうちから許可が出たのかもしれない。

朱里さんの表情や提案されたって言ってるくらいだし義父との関係は悪くはないみたいだけど。


「ほ、本当にそうなんだ……なんだか信じられないくらい出来すぎてるな……」


「あ、そうだ。翔吾くんから昔初めて貰ったプレゼントもまだ持ってるよ。ちょっとまっててね」


そう言って朱里さんは自分の部屋に消えていく。

数十秒ほど経った時、朱里さんの手には一つの子供用のおもちゃが握られていた。


「それって……」


「覚えてない?夜寂しいって私が言った時翔吾くんがくれたんだよ」


その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に一つの記憶が駆け巡る。


『夜……一人ぼっちで寂しいよ……』


『うーん……そうだ!これあげる!これを僕だと思ってよ!そうしたらひとりじゃないでしょ?』


『え……?でもこれ前にすっごく大切なおもちゃだってしょうごくんが……』


『いいんだ!あかりちゃんが寂しくないことのほうが大切だから!』


『……ありがとう。しょうごくん』


そのおもちゃは、前この家に泊まらせてもらったときに見たもの。

そして俺が過去に本条さんにあげたものと全く同じだった──


─────────────────────────

この構想は連載開始前から練ってました笑

二話で翔吾が言っていた仲の良かった女の子、とか?

他にも色々散りばめた……はず!

伏線とか慣れないことしたのでわかりづらかったかもですね笑

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