蒼い三角槍
@bigboss3
第1話
その日の雨は硫酸だった。そして、降る場所は決まっていた。僕はいつものように短波無線とネットワークを使って警報を出した。
「ただいま、濃硫酸雨警報が発令されました。付近の皆さんはただちに避難してください」
僕は車の中に備え付けてある通信機を片手に、近くの都市に避難勧告を行った。
その通信を受けた人々は一目散に避難を始める。
そして、僕もまた余裕の表情で車を避難用のドームに包まれた都市にハンドルを切る。
僕が余裕を持って、中に入ろうとしていると暴走したトラックが突っ込んできて、次々に人をはねていくのが見えた。
トラックは僕の乗るAE86のミリ単位の合間を縫って突入したかと思うとそのまま横田をしになって、中から大量の液体メタンを放出された。
「あ、ここにいるとどっちみち死ぬな」
直感的かつ冷静に判断した僕はさらにこのドームに備え付けてある地下道に向かった。
そして予想したとおり、煙があがり、火の手が上がったかと思うと、大火災を起こし始めた。
メタンは一気に発火したかと思うと瞬く間に出入り口に炎の壁を作って、避難してくる人々を文字通りシャットアウト。
事態に気がついて消防用の無人機や硫酸などの有害な液体に耐えるように作られた防護服に身を包む消防官達がもうすぐ近づいてくる濃硫酸のタイフーンに追い詰められる避難者のために決死の退路を作ろうとする。
炎の向こうでは迫り来る死の恐怖に絶叫の雄叫びが聞こえてくる。
そんな悲鳴に対して僕はいつものように聞き流して、地下道に降りていった。
中は車が二車線通れるぐらいに広くその中にはこのドームを支配する権力者とその家族に、二重の意味で避難をした列車に紛れた避難民が怯えた様子で嵐が過ぎ去る事、そしてこの地下壕が解けて硫酸が流れ込まないことを願っていた。
その地下壕の中を僕は人をはねたり引いたりしないように、慎重に走らせていく。
「この辺で良いだろう」
僕は車を赤色の車の横に止める。その車はどうやら同業者のようで後部座席に無線機と天気用の解析機が積まれていた。
「あら、久しぶりねミエル君」
「なんだ、このトレノ、ハルスのだったのか」
僕たちはこの再会に喜んだ。僕とハルスはこの仕事をする前に硫酸の水たまりにダイブして、二人そろって一度死んだ仲だ。
やがて、謎の救急部隊によって救助されたのちに元のからだとは比べものにならないくらいに改造治療された。
そして、文字通りのゼロからのやり直しで仕事をしている。
「ずいぶん、きれいねあなたの2ドアレビンは」
「三ドアの赤トレノに比べたら、大分やられたよ」
僕らは互いの車の事を冗談を交えながら会話を弾ましていく。
この二台は自動車博物館で文字通り埃にまみれた状態で見つかり、それを仕事用の車として使っている。
むかし流行った『頭文字D』によって神格化されたせいもあったが、持ち前の仕事の真面目で正確な予報もあって、伝説の予報士にして生ける運び屋とも言われている。
そして、案の定中に入った避難民は一人また一人と僕たちの車に興味を持って撮影を始めた。
「すごい、お前達が伝説の予報士コンビのハルスとミエルか?」
「コンビとは間違った認識ですね。私達はライバルで同業者ですよ」
「そうだって、別に組んでいるわけじゃないですよ」
僕たちがそう言って話している傍らで、入っていた出入り口の外からこの世の物とは思えぬ雄叫びが反響して僕たち避難者の耳に入ってきた。
それはまさに地獄に落ちた者の雄叫びにも聞こえた。
それに聞くに堪えなかったらしく子供は泣きわめき、大人の女性は耳を塞ぎ、男は恐怖で顔をこわばらせていた。
一方の僕とミエルは平常心を保とうとしたが、心臓が口から吹き出そうなくらいのバクバク感を感じずにはいられなかった。
「あの、二人とも大丈夫ですか?」
「えっ、だ、大丈夫ですよ」
「す、すこし,聞くに堪えない音が聞こえたと思っていたから」
「確かに、あそこから聞こえる声はこの世のもではないからな」
親子と一緒に来た太った中年親父は冷や汗を出しながら、強がりを言っていた。
その中年親父に対して避難者達は全員白い目をして見つめていた。
「あなたはどこかのお偉いさん?」
「あ、ああ、このドームの知事をやっている者だ。近々引っ越すつもりだよ」
「嘘つけ、夜逃げをするに決まっている」
あっという間にゴミや汚物やらを知事とその家族に投げつけた。しかも迷惑なことに俺たちにも飛び火して,大切なトレノとレビンが汚れと傷にへこみでひどい見た目になってしまった。
最初はなあなあで止めていた僕達も徐々に頭にきてしまって、思わず二人そろって握りこぶしを作り始めた。
「もう我慢の限界よ」
「そうだね、少し躾が必要だね」
僕たちがそう言うと、腰に巻いていたガンホルダーから未登録のゴーストガンを取りだしてそれを店に向けて引き金を引いた。
トンネル内で爆竹の破裂のような音が鳴り、みんな驚いて物投げをやめた。
そして僕らの怒りの矛先は避難民から汚らしい格好をした知事に進路変更をした。
持っていた銃をその男に突きつけて「あっちに歩け」と指示した。
知事は思わず護衛を呼ぼうとしたがそれをミエルに銃口を突きつけられて黙るように促された。
勿論、正当防衛みたいなやむを得ない事情で殺しはしない。ただし、死んだ方がましな行動もしなくはないのだが。
そう言って僕らは遠くの方に知事と家族を追いやると、ミエルに彼らを呼ぶように言った。
「すぐ呼ぶから待っててね」
彼女は走り出して、さっき物を投げた人々を呼びに行った。
「わ、私をどうするつもりだ?」
「大丈夫ですよ。僕らはなにもしません。ただ、物を投げつけた人たちはどうするかですね」
その直後にさっきの避難民達が続々とやってきて、知事とその家族を囲んだ。
手にはさっき投げつけた物と同等の物が握られていて、いつでも再開する準備を待っていた。
「みなさーん、私達の車を傷めたことは、修理代をもらうことでながしますから、物投げはここで続きをしてくださーい」
その子供のように無邪気で明るいお姉さんのふりをする彼女に、僕以外のみんなは震えあがり、一斉に物投げを再開した。
知事と家族は悲鳴と命乞いを僕らに求めたがそこまでする義理はなかったため、二人そろってこの場を後にした。
一番の心配は僕たちの商売道具であるハチロクのことだった。戻ってみると見た目は散々な物で,汚物にまみれ、所々ひっかき傷だらけで、阿下喜の果てにひどい悪臭を漂わせていた。
「ひええ、こりゃだめだ」
「これじゃ、商売ができないわよ」
僕たちが鼻を押さえて手袋をした手で恐る恐る触ろうとしていると、自分たちが来ている服に水滴のような物が落ちたのを感じた。
服を見ると煙を上げて、服に穴が開いていたのがわかり、まさかと思って上を見上げてみると、さっき撃った銃弾の穴から、硫酸がポツポツと落ち始めるのがわかった。
僕らは顔をゆがませながら、そのくさい僕らの愛車をまた別の場所に移動させることになった。
車内部は2シーターで後部座席と荷物入れの方は水を始めとした様々な雨のデータの入った機材とデジタルアナログ両方の無線機が中に入れられていた。
仲居用に蒸し暑かったがエアコンなんかつけると悲惨な目に遭うことはわかっていたため,我慢して来た道と逆方向に向かって、ハンドルを握るのだった。
どれだけ立っただろう。この地下施設の中ではまるで、時が止まっているかのような感覚に陥っている。
時計はあるのだがそれでも見たところ、四八時間は経っているように思えた。
僕はあまりに暇だったため隣のミエルに無線を使って雑談してみることにした。
「ねえ、もうそろそろ出てもいい頃じゃないか?」
「何を車の外に?」
「違うよ、この地下施設だよ。予報だとあと一時間したら濃硫酸の嵐は過ぎる頃だと思うよ」
「でも,見たでしょ。さっきの火災。あの状況で安全を確認ができるかなんて命がけの業になるのよ」
「そうだね。この嵐が終わらないことにはどうにもならないのにな」
外でくさい匂いを嗅ぎたくなかった僕らはバッテリーの持ち時間を気にしながらも楽しい会話を始めていた。
「そういえば、私達が生まれ変わったのもこの濃硫酸の台風が過ぎ去った後なのよね」
「うん、あの頃は今みたいに不細工と言うよりも地味なオタクのような顔つきだったし、当時はやりの生まれ変わり物にはまっていたからね」
「で、嵐が過ぎて馬鹿を起こして、全て転んだあげく硫酸の湖に突っ込んで皮膚は焼けただれて、醜くなったのよね」
「でもそこから一気に変わったんだよ。両手足は骨を折られて伸ばされて、顔は整形されて、人工皮膚の移植までされて、そのついでに戸籍まで買えたのだから文字通りの第二の人生が送れると思ったら、今のご時世ね」
「いろんな嵐が起きてこの世界は最悪なときと最高の時の差が激しくなったよね」
僕たちがそんな話をしていると、一人の子供が必死にドアを叩いてきた。
心の中で「汚い手でさわるな」と言いながらドアを開けて服が汚れないように出てきた。
「なんだ、どうしたんだ?」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。嵐が過ぎたよ」
「え? 本当に?」
いっしょに出てきたミエルが驚いた様子で少年に話しかける。
「うん、なんかわからないけど、さっき外に出てたおじさん達がしばらくしても生きていたから、収まったらしいよ」
百聞は一見にしかずだ。僕らは「君たちはここにいて、確認してくる」と二人で外の様子を確認しに行った。
出入り口付近では「外に出るべきだ」とか、「いや、あの事故でドームが壊れたんだ、危ないから逝くべきでない」の意見で真っ二つになり、激しくもめていた。
僕らが人をかき分けて、中の様子を確認しにドアの取っ手に手を伸ばす。
「な、何をやっている。勝手に開けては」
「心配しないでください。僕たちは予報士です。予報が正しければ嵐は2時間前に過ぎているはずです」
勿論これは嘘で実際は後5時間は待たないといけない。でも、予報が外れることもあるため、確認をしなくてはいけない。
「何かあったら、閉めてくださいね」
「言われなくてもわかっている」
僕達は意を決して扉の外を開いた。最初に目にしたのは背中焼けただれて、その状態で瀕死になりながらも、子供を守った夫婦の姿だった。
「お、おい、大丈夫か?」
「・・・・・・ああ、なんとかな」
「嵐の方はどうなりましたか?」
「低気圧に変わったみたいよ」
「それはよかったわ。早くこの人達を手当てして」
僕らは他の避難民と協力して彼らを中に入れた。背中の皮は剥げ落ち、緊急を要する女体ではあったが、そんなことなど気にすることもなく、彼らを中に入れて応急処置のための医務室に送った。
その間に、僕らは外で何がおきていたのか確認しに出てみると、凄まじい嬢挙に変わっているのが見て取れた。
壊れた出入り口を中心に、建物は言葉通りに溶けていた。ビルは随的のような物でアマ後がクレーターのようになり、どこもかしこも溶けて骨組みだけになっていた。
そして、人がいたところは、骨だけになっていたことは良いことで、ひどい物では、倒れたところ人の形となって残っている物もあった。
そして、出入り口付近は人の骨と、骨組みだけになった消防車とトラックに焼け焦げた地面と壁だけが残されていた。
「この様子だと、消火までに嵐がやってきて、たくさんの被害が出たんだな」
「でも、これだけの骨だと生き残った人もいるのじゃない」
そう言われて建物を見てみると、都市の被害は、右半分だけになっていて、左側の方は触れたところはあれど、建物としてしっかりしていた。
ドームは三分の一が崩れ落ちていたが、再建は可能な範囲だった。
僕らはすぐに知らせるために元来た道を逆に戻って「詣でても良いですよ」と伝えに行くと何やらもめているのがわかった。
「どうしたのです」
「いや、知事とさっきの大けがした家族を巡っていざこざがおきているのだ」
「またですか?」
「全くだよ。最もどっちもどっちでひどい怪我を負っていてね。どっちを優先するかで知事は強く出て、避難民は数出物を言わせると言った状態だ」
「それで知事は自分が偉いのだから自分が優先だと言っているのね」
「いや、その知事の子供がぶつけられた石で昏倒したらしくて。まあ息子を思う父親としてはそっちを助けてほしいと願うのがまっとうな考えだろう」
「仕方が無いね、嵐が収まったようだし、どっちかを私達のハチロクの助手席に乗せなさい。それでここの病院に入院させる。最も機能していたらの話だけど」
そう言って僕たちは地下施設の中に入りことの後始末をしにいった。
濃硫酸の嵐が過ぎ去って5時間が経った。このドームの中央病院では硫酸の雨で大やけどを負った市民や避難者が詰めかけて、怪我の治療を求めていた。
話し合いと殴り合いを半ダース繰り返して知事の子供を病院まで送り届けることで納得して、折り合いが着いたが。一緒について行った市長との言い争いもひどい物で、思わず銃を突きつけて外の放り出そうとしたほどだった。
それでもなんとか運び終えた僕らだったが、そのひどい見た目に鼻をつままれて、洗浄するように病院に言いつけられた。
運悪く洗浄施設が硫酸の雨で溶けてしまったため、生き残った消防車の水で洗浄する羽目になってしまった。
「それにしても臭いな」
「消臭剤が必要になるわね」
僕らはそう口々に話していると、秘書のような人物がやってきて、僕たちにお願いがあると言ってきた。
「住みません。ハルスさん、ミエルさん、実はここの知事の代行としてお願いに上がりました」
その言葉を聞いたらすぐに何か察しがついた。僕たちの返答はすぐに返すことができた。
「「お断りします」」
「まだ何も言っていませんが?」
「言っていなくてもわかります」
「依頼は知事の家族と高級品を私達の車に載せて夜逃げをしたいと言うことでしょう」
それを聞いた代理人の男は顔を真っ青にして「なんでわかったのですか?」と聞いてきたがそれには答えず、この依頼を推敲できない理由を話した。
「私達の本業は予報士です。運び屋家業はあくまで副業です。それと家族と呼吸品を乗せたら明らかに乗れないのは見て取れます」
「それもう一つ。これから僕らは別の町の予報に行かなくてはいけません。この車の板金と洗浄が済んだらすぐに出かけます」
僕らはそう言って、男を追い返すと、外観が無残になった愛車を見にやってきた。汚れは消防官達の仕事外の洗車できれいになっていた。
問題はへこみや傷の方だった。小さな傷やへこみが至るとこにできていて、その姿に僕らは思わず涙が出そうになった。
「大丈夫だ。泣くことはない。すぐに我々の修理工場で直そう」
「でも、我々の車はもう半世紀以上の国宝品です。世界中探しても、このへこみを直せる職人は一〇〇人もいないはずです」
「心配するな、我々の工場は全てAIと自動制御でミクロン単位の修理から部品の複製までできる。今の時代はそれぐらい当たり前だ」
「部品の交換はタブレットのマニュアルや動画でなんとかできますけど、板金なんて可能なの?」
「信じてないだろ。でも、できるのさ。昔の板金屋が拒否する鉄の腐食修理だって、コーヒー代ぐらいで簡単に直せるのだからな」
消防官達はホースを中にしまうと「うちの消防署まで来てくれ」と言って、彼らは酸で穴が開いた消防車に乗り込んだ。
僕らも仕方が無くその消防車の中に乗り込んで消防署に向かったのだった。
二時間後、僕らの乗る伝説の車は文字通りの製造当時のままになっていた。ちょっと下へこみも万単位かかっていたのが、最新技術で0が四つ消えて消費税程度の値段で物の見事に平らになった。
しかも、最近さびてきたなと言う所もAIの計算で腐食がフレームまでひろがっているとの診断だった。
そしてフレームを3Dプリンターで複製して錆部分をレーザーでカット、そのまま溶接で移植して、修理完了した。
おまけにエンジンも3Dプリンターと機械計測などの最新かつ高品質で尚且つ精密な技術力トイ人間のそれを遙かにしのいだ技術力で21世紀の失われたテクノロジーである内燃式20バルブエンジンをレース用に耐えうるほどの物に変えてしまった。
しかし、今はそんなことを待っている場合ではなかった。次の予報を出さなくてはならないためにきれいになった車の機材を消防署の中で調べ始める。
上空の衛星では雲の動きをつぶさに調べているが大昔の水の雲を調べる物ではなく、その組成を詳しく調べて、どこにどの雨が降るのか調べる
「今日は、この場所にメタンの雨」
「こっちは、文字通りの鉄の雨」
パソコンで確認した僕らはすぐにデータ化してその近辺での雨の情報をデータにして通信情報の送信する準備をする。
「お、仕事やっているな」
消防官達が硫酸でやけどして包帯を巻いた体でやってくる。彼らは中に入れなくて立ち往生してしまった生き残りのようだ。
「大変だっただろう」
「折角、予報を出したのに避難もできなかったのよね」
「ああ、ひどかった。滝のような硫酸の雨で人々が次々苦しみながら死んでいく姿が今でも目に浮かんでトラウマになりそうだ」
それに続けて知事に対する憎しみも口にして、腕を震わせた。
「それも、これもここの豚知事のせいだ。あいつが真っ先に逃げ出して避難命令も出さずに先に家族と逃げやがって」
「まあ、それに関しては自業自得だと思うわ。私達が他人行儀的に扱っていなかったら今頃私も車もボロボロにされていたわよ」
その点に関して言えば僕たちも身代わりがよくしたたかなのだ。基本僕らは正当な理由が無い限り問題ごとには徹底的に距離を置くようにしている。
単刀直入に言ってしまえば善人では無いというのが答えだ。勿論同情の言葉などをかけた上での話であるが。
「それで、聞いておきたいんだけど、濃硫酸の台風でこのドームはどのくらいの被害が出たんだ」
「えっと、確認ができた限りでは死者五四〇人、硫酸やけどや暴動の滝に受けたけが人を含めると三四〇〇人ぐらいだ」
「正確な数を確認できていないの?」
「何しろ、硫酸雨の濃度が金星並みだったから、肉どころか骨すら残らずに溶けてなくなってしまった人が多くて、その上戸籍の入ったサーバーが嵐で壊れてシステムの復旧に二ヶ月かかるって行政の発表があった」
「そりゃ大変だ。システムが壊れたんじゃ身元確認も大変だろうね」
「そりゃ、市民に取り付けてあるタグも部外者とかが多くて、このざまだから」
僕たちがおしゃべりしながら車と予報のための天気図を作っていると、どこからか見たこともない男が子供が一人はいりそうなキャリーバックを持って、消防車の中には蹴込んで来た。
「予報士のミエルとハルスだね?」
「そうだけど,あなたは誰ですか?」
「私は行政の職員のものです。タグで確認してください」
男に言われたことを確認してタグの身分を確認してみると確かにここの職員であることが確認できた。
「実は、行政にとって重要な荷物を運んでくださいませんか。確か、副業として運び屋もやっていると聞いていますから」
怪しい、こういう案件は大体が後ろめたい何かを隠している場合が多いのだ。こういう場合は断るか知らぬが仏で黙って渡すかの二者択一が普通だ、僕らすぐに前者取ることにした。
「すみませんが、いまここから先のメタンの湖の雨予報をメタン湖の町に知らせなくちゃいけないので」
「いえ、絶対に引き受けてください。これには人の命に関わることなのです。お願いです、これをどこでも良いですからこのドームから可能な限り離して開けてください」
おかしなこと言うな。爆弾でも入っているとでも言うのか? 一体、どうしてそこまでして僕たちに食らいつくのか、それがわかない。
「受けてみたらどうだ。何か困っているようだし。どうせ、メタンの湖に行く予定なのだろう」
「ええ、それと、山沿いの炭素雨が降る山間部の労働者達にも伝えておかないといけない」
「なら丁度良いです。これを安全なところまでついたら開けて処分してくださいお願いします」
「前金は現ナマか金で払ってもらえますか?」
「はい、依頼主から,金も一緒に運んできたと言っています」
「どこにあるの?」
すると、依頼主はケースを少し削り始めた所、ケースの塗装が外れて、中に純金があらわになった。
「なるほど、ケースの形にして支払いをしたという訳か」
「ええ、近くの金の雨が降る地域で生成した特別物です」
「まさか、ここだけ金で後は別の材質でできているなんて悪太鼓とはないですよね」
「どうぞ,ご確認ください」
僕らは所々削ってそれが欣快なかの確認をはかった。
結果は全てが純金でできていることが確認された。しかも依頼主の言うとおりで成分はここから離れた、純金の雨が降る山沿いの成分が認められた。
「確認した、運び屋としての依頼を受けましょう」
「ありがとうございます」
その人物は涙ながらに僕らの手を握って、お礼を言った。一体何が彼をそうさせているのかはわからないが、兎に角うれしいようだった。
僕らは直ったばかりのハチロクの荷物スペースに強引に押し込んで、再び後部のハッチを閉め直した。
そして丁度よく雨の予報が完成したことを伝えるアラームが鳴った。
「えーと何々、あさっての晩から翌朝にかけてメタンの雨が小降りで降ると」
それは、湖で潤う町の人たちからすれば喜ばしくない報告だった。僕らはすぐに出発の準備に取りかかり、バイオ燃料を消防署備え付けのタンクから金のコイン一枚と引き換えで購入する。
「それじゃ、楽しましたよ」
「ああ、できるだけ遠くに運んで開けてくださいね、何度も言うようですが」
そう言ってオロオロしながら男は走って行政区に戻っていった。
丁度、燃料が満タンになったと職員が僕らに伝えてくれた。僕らはすぐに車に乗り込んで、このドームから離れるためにエンジンをかけて消防署を後にした。
町の間には市民達が暴徒に変化して、死に殴り込みをかけていた。建物の警備システムは全て機能しておらず、火災の煙を上げていた。
そんな状況など僕らは気にもとめることはしなかった。避難指示を出すための情報を流したのにもかかわらず保身に走った彼らが悪いとわかっていたためだ。僕らはそんな因果応報の事態を無視して、次の目的地である。世界で三番目のメタンの湖であるスキュレリアメタン湖にアクセルとハンドルを使って向かった。
ドームを離れて一二時間が経過した。かなりの距離を進んでは来たがいつまで経っても荒涼とした大地ばかりだった。
メーターを見ると調度オイルの補充の距離を少し過ぎたことを知らしていた。
僕はすぐに無線機を取ってミエルに連絡を入れた。
「もう、オイルをたさなきゃいけない距離になったよ」
「こっちはとうの昔に超えているわ。もうそろそろついてもいいコロなんだけど」
僕らが会話していると町のような影が見えたのがわかった。僕らはすぐに寄り道の準備を始めて、車を進ませた。
その町は僕らが目指していた、中規模のメタン採掘都市だったが何か活気がなかった。いつもならタンク車を南陵もつないだトラックや列車がひっきりなしに走っているはずなのだが、今回は一両も見なかった。
代わりに出稼ぎに出る人間が貨車を急ごしらえさせて乗せている列車が三両編成で走っているだけだった。
「どうしたのかしら」
「見たらわかるだろう。メタンの雨が降らないから町を出て行ってるんだ」
僕が言ったとおりで本来な広大なメタンをたたえる湖が今ではかなり干上がっているのが見て取れた。
僕らは無線機を取り上げると、雨の予報を町全体に広めた。
「あさっての夕方から翌朝にかけてスキュレリアメタン湖にメタンの雨が降ります。降水確率は68%です」
僕らが無線機で町に知らせると、待ちの人間達は安堵の顔をするのがわかった。彼らも予約恵というか一攫千金の雨が降ることを喜んでいるみたいだった。
僕らが一〇分ぐらい無線機で雨の予報をし終えると僕らは近くの整備工場でオイルの交換を行う準備をした。
普段は主にタンクローリーの修理や整備に大荒輪になっているのだが、ここ最近のメタンの枯渇ならぬ日照り続きで、開店休業状態だった。
そのため、半世紀を超えたクラシックカー二台がやってきたときには目を輝かせて、最高級オイルを売りつけようと様々な手で売り込みをかけてきた。
僕らはそれを易々とかわして、普通よりちょっと良いくらいのオイルでことを納めてオイル交換を始めた。
「ねえ、そろそろ例の荷物をここで開封しない?」
「そうだね、もうだいぶ距離は知ったことだし、ここいらへんで中身を確認しようか」
僕らはトランクとハッチバックの扉を開けて中にある中身の開封を始める準備をする。
鍵は南京錠という飾りにもならない鍵を外して、二人で同時に開ける準備を始める。
「「いっせいのせ」」
僕たちが同時に中を開けた旬か僕らは思わず腰を抜かした。
その中に入っていたのは一四歳くらいの子供が二人うずくまる形で、入っていた。それはあたかも誘拐の為に入れられているかのようだった。
僕らはこの事態に思わず顔を青くしてしまい、この車から距離を離すことにした。
「おい、どうする?」
「見たところ、仮死状態にされているようだけど、この町に蘇生させられるほどの病院施設は無いわよ。蘇生薬でもあれば別だけど」
僕らは一呼吸して、あの子供にどこか見覚えがあるような気がしたため彼女にもう一度言ってみないかと誘った。
「そういえば、そうね。ひょっとしたら蘇生薬もあるかもしれない」
僕らは急いでオイル交換中の車に戻ると作業員達がざわついているのがわかった。作業員をどかして、僕らは菌でできたケースの中に何か無いか調べ始めた。すぐに蘇生薬らしきアンプルと注射器が出てきた。
「これじゃない。ほらご丁寧に注射の仕方と置き手紙があるわ」
「おお、多分この二人の家族の者に違いない。取り合えす、この二人を蘇生させないと」
僕らはまず、彼らをパックから出して、首に注射器を使って薬を注入した。
そして、心臓を動かすために心臓マッサージをして、薬を体全体に巡らせた。その効果は絶大でもの五分もしないうちに二人の子供は息を吹き返した。
「あ、あれ、ここはどこ?」
「あ、お兄さん達。地下施設で脅した」
「やっぱり、知事の子供達だったのね。通りで見覚えがあるはずだったのよ」
「でも、君たちはどうしてこの中に?」
「それはこっちが聞きたいよ。父さんや母さんはどこにいるんだ?」
全く訳がわからなかった。たぶんこの子達を逃がすために押しつけられたことは容易に想像がついたが、なぜ,俺たちの押しつけられたのだろう。
ふと、どこからかラジオの音が聞こえてくるのがわかった。僕らはなにげもなしにそのラジオのする方向に向かった。
それは、整備士達が持っていた鉱石ラジオという原始的な物だった。
「姉、おじさん達は何でネットワークでニュースを見たりないの?」
「あ? ああ、今は日照り続きでね。ネット区に払う金がないんだ。その点この鉱石ラジオというラジオは便利だぞ。何せ石さえ手に入れば電気なしで情報を手に入れられるのだから」
整備員の言葉など聞かずに僕らはニュースの内容に注目した。
『ニュースです。ドームの避難指示を怠った知事に対し裁判所は石打ちよる死刑判決が下されて即日執行されました。また、現在行方不明になっている知事の子息の消息も探っているとのことです』
予想はしていたが、これは子供達には聞かせたくなかった。でも、聞かせなくてはならない。家族がどうなっていたか亜誰もが知りたいところだった。
「パパ・・・・・・」
「辛いだろうね。まあ、一部に私の責任があるのだけれど」
「これからどうすればいいの」
それはこっちが聞きたい。こんな子供のおもりなんてさすがの俺たちも論外だ。でもなんとかしないといけない。
「あ、いい考えがある」
「何だ、一体?」
「この子を、私達の助手にするのはどうかしら? 内もかも別人にして」
「昔の僕らみたいに? まあ,確かに元金はここにあるから良いけど」
子供達の方は何が何だかわからない様子だったが、今後、彼らが狙われることを考えると、戸籍も体も何もかも別人にした方が良いのは確かだった。
「ねえ、君たち。僕らの予報士としての手伝いをしてくれないか? 別人になって」
「え、でも僕らにできるかな」
「だって学校にも出たこともないのに」
「大丈夫よ、通信の教育機関があるからそこで学べば良い。ただ、今の君じゃすぐにボロが出るからある場所に行かないといけない」
「ある場所って言うのは?」
「それは詳しくは聞かない方が良いよ」
そう話していると予報よりも早くメタンの雨が降り始めた。それを見た整備員達は恵みの雨だとして小躍りして喜び合うのだった。
二日後、僕たちはとある場所にたどり着いた。ここはミエルが予報をながしていた、炭素系の雨が降る地域。ここでは主に石炭やダイヤにブタンといった鉱物が世界各地に輸出される。
そして、そのおかげでここの空は朝日か夕日みたいに赤茶色でスモッグがかかっていた。
そして、町に至っては凄まじいほどに活気が誇っていたが、僕らが来たのはどこぞの闇医者と戸籍販売員達だった。
「お二人とも、お久しぶりです」
「ええ、あなたも元気そうで何よりです」
「早速だけど、あの子に合う戸籍はありますか」
そう言われると戸籍販売員はパソコンを取り出して、何魔物戸籍データを調べ始めて彼らに会いそうな物を選び始める。
「これはどうでしょうか?」
「これは格好良いし、彼らも気に入りそうですね」
「でも,一応本にも確認しておかないと」
「そうです、まずは手術台に寝かされている彼らに確認しないと」
そう言って販売員はすぐに身元手術前の確認のためにきた医師にデータを送り、この戸籍で問題が無いか確認してみた。
「はい・・・・・・はい・・・・・・、問題が無いと言うことですねわかりました」
「大丈夫だった?」
「はい、彼らはこれでいいとのことです」
「じゃあ、これで買います」
「了解しました」
そう言って僕らはこの戸籍二つをインゴットに買えたトランクの金で支払った。
販売員はそれが純金なの感で確認した。歯形がついたため本物であることを認め、契約は成立した。
「それでは、私はこれで失礼します」
販売員が茶色の空がまぶしい町に傘を差して出て行った。
僕らはすぐに止み医者に連絡を入れて、整形手術を始めるよう伝える。手術とは言っても成長期の子供にやると体に負担がかかるために成長促進剤の投与と顔の整形だけにした。
「手術をライブで見ますか?」
闇医者の質問に僕らは彼らを別人にする責任があるため「見ます」と一言同時に言った。
タブレットの映像には裸にされて寝かされる二人のかわいい兄妹がチューブを体につけて、整形用の手術医師がそれを終わるのを待っていった。
早速二人の体内成長促進剤が体内に注入されて、彼らの体を18才くらいにする。
二人の幼さが残る体も顔も本来は四年分を四〇分に短縮して大きくした。顔も童顔だった顔も大人びてきた。
次に顔の整形の開始した。顔は新しく買った戸籍を元にした。その戸籍のヌシは元地下アイドルの男女で、薬物中毒で死体ごと処理されたことを良いことに行方不明として扱われたのをマーケットで手に入れた。
闇医者は手慣れた手つきで顔の整形に取りかかる。それはあたかもピアノを弾くかのような慣れた手つきで二人の顔は写真のイケメンと清純派気取ったアイドルに変わっていくのだった。
一週間経った。その間に僕らはツ今週の予報を立てていた。今回は石炭混じりのダイヤモンドの氷が降ると予測になった。
炭素が何らかの理由で圧縮されて炭素が結晶化したのが原因である。
町は外出禁止令が出て、バラックに住んでいる労働者は避難用のシェルターに入り、建物中にいる高給取りは頑丈に作られた建物で嵐が過ぎるのを待っていた。
そんな中で僕らは二人の生まれ変わった姿を確認するために四人で同席した。
「じゃあ、包帯を解いて。その後、鏡で自分を確認してみて」
僕らの言葉を耳にした二人は包帯を解いて、僕らが持っていた鏡を使って今の自分を確認した。
「え、これが僕?」
「これが私?」
二人は驚いているみたいだった。それもそのはずだ。一週間前まで坊ちゃんおじょうさんだったのがアイドルみたいな顔に変わっているのだから。
「ジュンにルナもこれから僕の助手として頑張ってもらうよ」
「「ジュン、ルナ?」」
「あなたたち新しい名前と戸籍よ。これからは生まれ変わって生きてもらうわ」
「でも、パパが言ってたけど付け焼き刃の戸籍偽装はすぐにばれるっていっていたよ」
「大丈夫、本物の戸籍を買っておいたから、ちょっとやそっとじゃばれないわ」
そう言って身分証と戸籍のデータをかあれらに手渡しで渡した。
丁度そのときさっきまで降り注いでいた石炭混じりのダイヤの霰は止んで、再び花果茶色の空がひろがっていた。
「丁度晴れたみたいだし、退院祝いに見てみない私達の車」
「知ってるよ、パパが大好きだった頭文字Dで言うレース漫画に出てくる車でしょ」
「そのようだね。詳しくは知らないけど」
僕らは二人一組になって彼らを抱き起こして外の車を見せに行くのだった。
あれから二年経った。僕らは今でも様々な雨が降る嵐を観測している。助手が二人ついたことでだいぶましにはなっているが、それでも命がけで忙しいことには変わりない。
それでも年に一回は彼らの誕生日に再会している。そして、この世界の降る雨の原因についても。
世界は恵みと厄災の雨によって運命が決まるのだから。
了
蒼い三角槍 @bigboss3
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