愚鈍な男の話



一つ、ここで愚鈍な俺の話をしよう。



俺は昔から変な女に付き纏われることが多々あった。


両親が言うには顔が良くて無口だった親父も似たようなものだったらしい。


そんな親父に生写しの俺もそう言うやつに好かれるようになるだろうと、両親は幼い頃から心配していたそうだ。


小学生の頃に隣の席になっただけの女子がいたんだが、そいつが落とした消しゴムを拾っただけで両思いだと噂された。


他にも、掃除当番の時に一緒になっただけの女子にほうきを手渡しただけでプロポーズしたと後日噂になっていた。


体育の時に組体操をする際に手を繋いだ女子とは永遠の愛を誓ったと噂されていたし、俺の小学生ライフは散々な思い出ばかりだった。


中学生になり、周りが一層色づき始めたことにより俺は危機感を覚えた。


なるべく目を合わさない 話しかけない 不用意に触れない 女子に近づかない


その四つを徹底した。何が起こるかわからなかったからだ。


そんな中、ただ俺の隣の家に住んでるからと言う理由だけでいじめられている子がいるという噂を耳に挟んだ。

流石にそれはかわいそうだろうと思い先生達に進言する事にした。それからいじめは止んだらしいのでその時はホッとした事を覚えている。




大学生になり、俺はひたすら勉学に励んだ。やりたい仕事があったからだ。


その頃になると、告白などはされるが、変な妄想を撒き散らすような女は少なくなり俺はひどく感激していた。

ただ、彼女がいて卒業後に結婚するらしいと言う噂だけは絶えず流れていたが、告白の量も減った事だし害がなかったので放っておいた。



大学卒業とともに両親が父方の祖母の介護で隣の市に移り住む事になった。

だが、家には母方の祖母が元気で生活していたので俺の生活はそこまで変化はなかった。


ただ、食事が前よりも薄味になった。祖母の体に合わせた味付けだからそれも仕方がない。


それから俺は仕事を覚え、仕事を任されるようになり、とても充実した毎日を送っていた。

週に何度か近所の女性がゴミ袋をついでに出してくれたり挨拶をしてくれたりしてなんだか気分がよかった。

何もかもがうまく言っているような気がした。



そんな頃に祖母が急に亡くなった。玄関先で転けたのだろう、頭をぶつけて亡くなっていたのだ。

ものすごい悲しみの中、ふと、これからの俺の生活はどうなるのかと少し不安になった。



一人で一軒家に住むのはなかなか寂しいものはあったが、その頃に大きなプロジェクトを任された事により、家では食べて寝るだけになった。考える暇もないほどに忙しかった。


いつの間にか家が綺麗になっていたり、冷蔵庫に作り置きが定期的に入るようになった。

やはり持つべきものは家族だな、親の介護もあるのにありがたいと思いながら少し味の濃い肉じゃがを口に入れた。



それから少し経ったある日、他県で暮らしていた姉貴からラインがきた。どうやら数日前から両親と暮らしているようだ。


やはり老老介護?とやらは難しかったようだ。その時に『これからは自分で頑張るから、もうサポートはいらない、ほんと助かった。ありがとう』とラインをした。


仕事の休憩時間がきてラインを見るとおかしなことが書いてあった。


俺の両親はここ数年俺が住んでいる家には入っていないと言うのだ。


それを聞いた俺の背筋は凍りついた。




「俺は一体誰の料理を食べ、誰が家事をしている家に住んでいたのだ?」と。




それからは会社に事情を説明し、警察署へと駆け込み、事情を説明して家へと向かった。


警察と一緒に家に帰った俺は目を疑った。少し前までゴミを出したりしてくれた女性が我が物顔で家にいたんだ。


右手にはお玉を持ち、帰ってきた俺に向かって笑顔でこう言ったんだ。




「あら、あなた。今日は早いのね?息子もきっと喜ぶわ」と。




何を言っているのか全くわからない。


俺が連れてきた警察達も「奥さんと息子さんですかー、いいですねー」などと言っていた。



俺が一人の刑事さんを玄関まで連れて行き、俺は知らない女だと言うと、刑事さんの顔色がみるみるうちに悪くなり、家の中へと急いで入っていった。



俺の妻だと言う女は刑事さんに事情を聞かせてくださいと言われるが、ご飯の支度があるのでと言ってなかなか出ていかなかった。


俺は早く視界から消えて欲しかったので『いいから早く行け』と話しかけてしまった。


その瞬間に女性は頬を染め、恍惚とした表情をしながら俺を見て『じゃあ、行ってきます。早く帰って来るから待っててね』と、言ったのだ。



きもちわるい、きもちわるい、なんだあの女は。一体何を考えてるんだ?



女はパトカーにのる直前、背負っていた何かを警察に渡し何かを伝えた後消えていった。


受け取った警察官はそれを見て、一瞬硬直した後に俺をチラリと見たが、何も言わずに違う警察官にそれを持っていった。

何が入っていたのか少し気になったが、どうせろくでもないものだ。



その後、女は警察署で取り調べを受けている間に俺と刑事さんで家の中を調べて回った。

俺の知らないうちに2階の1つの部屋があの女の部屋になっていた。


いつからそうなっていたかはわからない。胃の中が気持ち悪い。


調理途中だったモノと冷蔵庫のモノは警察官が持って行ってくれた。

鍋も包丁も全て要らないからそのまま破棄してくれと伝えた。そんな気持ちが悪いものはいらない。



両親と姉が駆けつけてくれた。ひどく顔色の悪い俺を見て、どうしたのかと刑事さんに話を聞いたあと酷く絶句していた。






あれから俺は姉貴達と一緒に住むことにした。あの家が怖かったからだ。携帯も変え、あれだけやりがいのあった職場も変えた。


日に日に痩せていく俺を見て両親は酷く悲しそうな顔をしたが、仕方がないと思う。


俺はあれから冷蔵庫にある料理が食べれなくなったし、家から出ることも出来ず部屋でできる仕事をしている。


少しでも部屋から出たりした後に部屋に入る時は、全て確認してからじゃないと落ち着かなくなった。


俺が一体何をしたというんだ?



ネットでは何故か俺への誹謗中傷もあった。思わせぶりな態度を取ったんだろうと友達だと思ってたヤツに言われたりもした



俺が一体何をしたというんだ?なにが悪かったんだ???どうしろというんだ??




今日も俺は、トイレに行って帰ってくるだけで精神が疲弊するというのに。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

容疑者はストーカー。息子は人形~この世は奇々怪々~ 猫崎ルナ @honohono07

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ