第42話 遺留分侵害請求だ!
少しだけ、時は遡る。
弁護士さんたちの主張のラリーが始まったころ、私もただ指をくわえてラリーを見ていたというわけではない。
年が明けてすぐのころ、以前にも話は出ていたのだけれど、私は、智子さんと同じように遺留分侵害請求を一応しておくことにした。
遺留分侵害請求というのは、遺言書の内容に関係なく相続人がもらえる部分を請求することで、私の場合、自分の法定相続分の半分、つまり、十蔵さんの財産の8分の1にあたるお金をもらえる権利を主張する、ということらしい。何度も工藤君に説明してもらったので、さすがに覚えちゃった。
請求には締切があって、相続を知ったときから1年以内にやらなくてはいけないらしい。私は去年の2月に家庭裁判所からの書類で相続のことを知ったので、今年の2月の何日かが締切だ。そんなわけで、1月中には済ませてしまおうということに。
手続き自体は簡単だった。
工藤君に書類のひな型をネットで探してもらって、工藤君のパソコンでちょちょいといじってもらって、プリントアウトして、ハンコを押す。
これを、清志さん宛と武雄さん宛の2種類作って郵便局で送れば終わり。
ちょっと変わったことといえば、この郵便局で送るというところ。なんでもこういう法律関係の請求書は配達証明付き内容証明郵便っていう書留で送るものらしい。
工藤君の説明によると、これで送っておけば、郵便が届いてることとその内容を郵便局が証明してくれるので、「届いていません」と反論されずに済むのだそうな。
いや、郵便物が届いたか届いてないかなんてことまで争いになるものなの?と思わなくもないのだけれど、やったことのないものだし、せっかくの機会なので、その配達証明付き内容証明郵便というので出すことにする。
まず、郵便局に行く前に送る書類をコピーして、同じものを三通用意する。相手に送るものと、こちらの控えと、郵便局で保管するものになるんだそうな。
そうそう、送る書類の形式が決まっていて、20文字かける26文字、だったかな?決まった文字数で書類を作らなくてはならないそう。出来上がりとしては、やや余白が大きい感じだ。ただ、この辺りはひな型を用意してくれた工藤君にお任せだったので、文字数はもしかしたら違うかも。
そして、ここまでの準備が出来たら、郵便局に持ち込んで、窓口の人に、配達証明付き内容証明郵便で、とお願いすれば出来上がり。
……なのだけれど、申し込んだ後、郵便局の人が書類のチェックをするので結構待たされる。工藤君も配達証明付き内容証明郵便を送るのは初めてのことらしくて、郵便局の人がチェックするのをカウンター越しに興味深そうに観察してた。チェックが終わると控え用の一通に、内容証明で発送したよ、という文言のスタンプを押して返してくれる。これで発送は完了だ。
それから、ちょっと驚いたのが料金。一通あたり1000円以上かかる。清志さん宛と武雄さん宛の二通合計で3000円くらい。大きなレターパックでも500円くらいなのになかなかだ。やっぱり証明というのが大きいのかな。
発送してから数日後、郵便局から配達したよという内容のはがきが届いた。これで遺留分侵害請求をしたことの証拠はバッチリだ。やったね。
とまあ、それはそうとして、遺留分侵害請求の効果について、この間に少し動きがあった。
いや、8分の1がもらえる、という法律の話は動かないのだけれど、何の8分の1なのか、という話は簡単ではないみたい。
以前に武雄さんが検認の手続で言っていたところによれば、十蔵さんの遺産は20億円くらい、という話だった。智子さんの主張でも、やっぱり20億円という話が出てくる。
そんなわけで、20億円の8分の1だとすると、遺留分は2億5000万円だと思っていたのだけれど、弁護士さんたちの主張のラリーで改めて出てきた話としては、ちょっと違った金額になるみたい。
まず、清志さん側の盛山弁護士の主張によると、前提として会社自体の財産は遺産ではなくて、あくまで会社の株式が遺産だよ、という話があって、会社の株式の価値はだいたい4億から5億くらい、不動産とか預金とかのその他の資産が2億くらいで、合計は6億から7億くらいだ、という話。会社の資産自体は確かに20億近くあるらしいのだけれど、借金もたくさんあるとかなんとかで、そんな感じになるらしい。
えー、借金がたくさんあるの?と驚いたのだけれど、工藤君によると、会社を経営する上で銀行などからの借金があるのは普通で、証拠として提出されてる決算書とかからすると、資産の方が大幅に上回っててむしろ優良な企業なのだそうな。そういうものなのか。
次に武雄さん側の岩渕弁護士の主張によると、株式が8億くらい、不動産とかその他が2億くらいで合計10億くらいになるのだそう。
最後に智子さんの三条弁護士の主張だと、株式が11億5000万、その他が2億5000万で合計14億くらいだという話。
株式の価値ってよく考えたことがなかったけど、よくニュースで株価の話をしてる感じだと、なんか市場で値段が決まるものだと思ってた。だけど、工藤君によると市場で取引されている株式、上場株式というのは一部の大企業だけで、普通の会社の株式は市場で取り扱われない非上場株式なんだそうな。額神製薬の株式も非上場株式で、市場価値というものがないから、価値については算定方法次第で大幅に違ってくるのだそうな。
その結果、私の遺留分の価値も、7000万円くらいから、最大1億7000万円くらいまですごく幅のある数字になる。
ただ、まあ、7000万円だって大きすぎる金額だし、あんまり贅沢をいっても仕方がないだろう。
それに、株式の価値がどうのという議論はよくわからない専門用語のオンパレードなので、とても割って入る気がしないし、三条弁護士に期待するとしよう。
次の更新予定
2025年1月11日 17:01
ぬこ神家の相続 大崎 灯 @urotsunahiko
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