EITOエンジェル総子の憂鬱(仮)37

クライングフリーマン

新中学生襲撃事件(前編)

 ======= この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 南部(江角)総子・・・大文字伝子の従妹。南部興信所所長の妻。EITOエンジェルのチーフ。

 南部寅次郎・・・南部興信所所長。総子の夫。

 大前英雄管理官・・・EITO大阪支部の管理官。コマンダー。総子からは『兄ちゃん』と呼ばれている。

 足立祐子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 石動悦子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 宇野真知子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 丘今日子・・・EITO大阪支部メンバー。看護担当。元レディース・ホワイトのメンバー。

 河合真美・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 北美智子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 久留米ぎん ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトの総長。EITOエンジェルス班長。

 小峠稽古 ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。

 和光あゆみ・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 中込みゆき・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 海老名真子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。

 来栖ジュン・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7の総長。EITOエンジェルス班長。

 愛川いずみ・・・EITO大阪支部メンバー。EITOエンジェルスの後方支援担当になった。

 本郷弥生・・・EITO大阪支部、後方支援メンバー。

 大前(白井)紀子・・・EITO大阪支部メンバー。事務担当。ある事件で総子と再会、EITOに就職した。

 芦屋一美(ひとみ)警部・・・大阪府警テロ対策室勤務の警部。総子からは『ひとみネエ』と呼ばれている。

 芦屋二美(ふたみ)二曹・・・。三つ子の芦屋三姉妹の次女。陸自からの出向。総子からは『ふたみネエ』と呼ばれている。オスプレイやホバーバイクを運転することもある。後方支援メンバー。

 芦屋三美(みつみ)・・・芦屋グループ総帥。EITO大株主。芦屋三姉妹の長女で、総子からは『みつみネエ』と呼ばれている。芦屋三姉妹と総子は昔。ご近所さんだった。

 小柳警視正・・・警視庁から転勤。大阪府警テロ対策室室長。

 指原ヘレン・・・元EITO大阪支部メンバー。愛川いずみに変わって通信担当のEITO隊員になった。

 用賀哲夫空自二曹・・・空自のパイロット。EITO大阪支部への出向が決まった。二美の元カレ。

 小柳警視正・・・警視庁から転勤。大阪府警テロ対策室室長。

 松本悦司・・・東京の天童に同じく、かつて大文字伝子と闘った。EITO大阪支部武術顧問。元大阪府警巡査。


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 = EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す =

 ==EITOエンジェルズとは、女性だけのEITO大阪支部精鋭部隊である。==


 ※モスキート音(蚊の羽音)とは「キーン」という17,000 Hz前後のとても高い音のこと。「若者には聞こえるけれど、大人には聞こえない音」と言われる。

 午前9時。EITO大阪支部。会議室。

「美智子。何で辞めたいんや。言うてみ。」「一身上の都合です。」

 美智子は、堅い表情のままで、大前に応えた。

「芸能人か。有名人か。それ、分からんぞ。総子には、言うたんか。」

「いえ、まだ・・・。」「ほな、ぎんには言うたんやな。」

「いえ、まだ・・・。」「何悩んでるんや。ここはな。警察でも自衛隊でも一般の会社でもない。恋愛や結婚やったら、みんなで祝ってやるぞ。」「おおきに、コマンダー。」

 それきり、美智子は黙ってしまった。

「もし、緊急でなかったら、『こぶまん』と決着ついてからにしてくれへんか。パワハラで言うてない。お願いや。東京から、いつ救援要請が来るか分からんのが実情や。どんな事情かは、今すぐ言わんでもええ。頼む。タイミング、待ってくれ。」

 大前は、美智子に頭を下げた。

「訓練、行って来ます。」と言って、美智子は会議室を出て行った。

 今日の会議は、午後からということになっている。

 美智子が出て行ってから、ヘレンがやって来て、言った。

「コマンダー。ウチに任せて貰えませんか。」真っ直ぐ、大前を見たヘレンに大前は、「頼む。ちょっと出掛けて来るわ。紀子。急ぎの連絡が来たら、電話かメールしてくれ。」と言って、出て行った。

「ヘレンちゃん、何か心辺りあるの?」「ううん。でも、ウチら、同じグループやったし、ぎんにも言えへんことやったら、ウチ、聞いてみる。無駄骨かも知れへんけど、ウチも、ここのスタッフやさかい。」

 紀子は、ヘレンの言葉に、黙って頷いた。紀子は、総子の幼なじみで、このEITO大阪支部に入った。ヘレンは、元々はレディースの一員だったのだ。ぎんの下で動くメンバーとして、美智子とは関わっていたのだ。

 午前10時。司令室。

 祐子と真知子が入って来る。

 ポツンと座っていた、真知子が紀子の肩を叩いた。

「久しぶりにウチが通信士や。」「どうして?」「コマンダーが電話してきてな。ヘレンが美智子を連れ戻しに行ってる間、無人やから、『ベテラン』のお前が頼りや、って。」

 真知子が言った言葉を継いで、祐子が、「ウチもまだ事務員出来るで。」と、真知子の隣に座った。

 いずみが後方支援に組み込まれたので、通信の仕事は、殆どヘレンが切り盛りしていた。それだけ人材不足なのだ。

 マルチディスプレイに小柳警視正が映った。

「おや。懐かしいメンバーだな。ヘレン君は?あ、大前君は?」

 紀子が効かせて言った。「ウチ・・・コマンダーは、何か用事で出掛けました。ヘレンちゃんは体調不良で欠席です。午後から、二美さんが来られます。今日の会議は午後1時の予定でした。

「分かった。昨日、市内各地で、中学生、いや、新中学生を狙った強盗が頻発している。警邏を増やしても限界がある。今分かっていることは、真壁が資料に纏めたから、送付する。会議で検討してくれ。」

「了解しました。」と。真知子が応えた。

 正午。二美が早めに出勤した。4人で簡単な昼食を作り、食べた。

 食べながら、紀子が午前の出来事を話した。

 二美は、真知子と祐子に尋ねた。「あの子、そんな子だっけ?」

「ヘレンちゃんと同じ母子家庭で、イジメにあって、ホワイトに入ったんです。総長、あ、ぎんよりヘレンちゃんの方が、一番知ってると思います。」

「そう。まあ、ヘレンちゃんが任せろって言うなら任せましょう。後で資料を検討しましょう。」と,二美が言うと、「ああ、一美ね、ただの胃もたれだったらしいわ。」

「良かった。」と、紀子が言い、後の2人も異口同音に言った。

 午後1時。会議室。

 二美が、資料を読んでいる。

「昨日、市内の数カ所で、中学生が強盗にあった。中学生と言っても、先日まで小学校6年生で、春休みが終ると、中学生になる生徒だ。襲われた場所は、レンタルDVD店の裏手。ボーリング場の近く。ゲームセンターあるいはモールから1キロ以内。目撃情報から、大人の男性3人組。どこかのチンピラっぽい服装だったと判明している。同じ時間帯だから、全て同一犯という訳ではない。襲われた生徒達は、ランドセルから解放され、学業からは暇な時間に入り、油断していた。ランドセルには防犯装置が入っているモノが多いが、手荷物らしきポシェットにはゲーム機、クレジットカード、お名前カード、財布、スマホ。複数人で行動しているし、すっかり油断していた。襲った奴らは、妙な銃を持っていて、襲われた生徒達が蹲り、簡単にポシェットを奪われたのを、モールからやって来た婦人が目撃している。そして、新たな有力な証言が出てきた。自転車で現場近くを目撃した小学生が『モスキート音』を聞いたというものだった。推測されるのは、その銃はモスキート音を増幅させ、生徒達は堪らずしゃがみ込み、ポシェットを奪われた、というストーリーだ。府警のサイバーセキュリティ班と科捜研の協力で、今、その銃に対応することを検討している。」

 二美が読み終わると、「真知子。襲われた場所の地図は?」と総子はマイクで、司令室の真知子に尋ねた。

「付いてます。今、画面に出します。」マルチディスプレイに地図が出た。

「此花区、東淀川区、東成区、生野区、旭区、平野区、それに西区。この七カ所以外が被害に遭っているということは、次に狙われるのは、この『アンラッキー7』ね。」

「二美ネエ。それは凄すぎるネーミングやん。」と総子が言った。

「つまり、大阪市区コンプリートを狙っているのね。で、クリアしたら、次のダンジョン。」と、ジュンが言った。

「次のダンジョンは、警察にしなくちゃね。紀子。ペンライト幾つある?百均で買ったやつ。」「1ダース。12個です。」「充分よ。科捜研で開発したアプリ、後でみんなダウンロードして。」二美は何故か、どや顔をした。

「じゃ、本格的に作戦会議よ。」と、二美が言った。

 午後1時。松本邸。

 EITO大阪支部の武術顧問である、松本悦司。

 大前と並んで、美智子とヘレンが並んでいる。

「先日、警察の先輩が亡くなりました。この、北美智子君の祖父です。」

「え?松本さん、警察のOBやったんですか?美智子のおじいちゃんも?」

「コマンダー。まずは、これを読んで下さい。」

「松本君。君は、『グリコ・森永事件』を覚えているだろうか?」


【グリコ・森永事件40年】

 グリコ・森永事件とは、最後まで残った江崎社長に着せられた“黒のオーバー”の謎“と共に、警察の、いや、大阪府警の『消えない傷』になった事件である。

 *グリコ・森永事件

 1984(昭和59)年3月18日、江崎グリコ社長の江崎勝久社長(当時42)が3人組の男に自宅から拉致され、身代金10億円と金塊100キロを要求された。江崎社長は3日後に自力で監禁場所から脱出したが、「かい人21面相」を名乗る犯人グループは脅迫を止めず、スーパーなどに青酸入り菓子をばらまき、森永製菓、ハウス食品、丸大食品など大手食品メーカーを翌85年2月まで脅迫し続けた。威信をかけた警察の捜査は実を結ばず、2000(平成12)年2月、全ての事件の時効が成立した。

【犯行終結宣言】

「かい人21面相」を名乗る犯人グループは昭和60年8月12日、在阪新聞社(毎日、朝日、読売、サンケイ)に届いた挑戦状を最後に、動きを止めた。

〈くいもんの 会社 いびるの もお やめや このあと きょおはく するもん にせもんや〉

 脅迫をやめる理由について21面相は、滋賀県警前本部長が公舎で焼身自殺したことに触れている。

〈男らしうに 死によった さかいに わしら こおでん やることに した〉

 1984年に発生したハウス食品工業脅迫事件のことだった。


{他府県の警察との『縄張り意識』の為、県境で犯人を逃がしてしまった、と、当時のマスコミは騒いだが、取り逃がしたパトカーに乗っていたのは、私と、私の同僚の上司だった警察官だった。事実は、少し違う。あの車には、副総監が乗っていた。後で知ったことだが、現在の副総監の『替え玉』を長く勤めた、副総監の双子の兄弟だった。替え玉副総監は、腹にダイナマイトを括り付けられていた。犯人グループの1人は、『手出し出来るか?』と書いたスケッチブックを窓から出した。犯人は、『県境だった為、縄張りがあるから取り逃した』ということになったのは、上司がその場で、替え玉副総監が殺されるかも知れないと判断したからだ。その車には同乗者と運転手がいた。警察官だった。将来を嘱望された、副本部長に就任されたばかりのキャリアだったから誘拐の条件としては土上等だ。車を見失ったんじゃない。偽警察官が誘拐したんだ。身代金の授受は、密かに行われた。本部長は、焼身自殺した。真相は定かではない。私は、依願退職し、警備会社に就職した。家族を守る為に。『狐目の男』は実在した。彼こそがリーダーだった。警備員だった私は伊丹空港で目撃したよ。彼には発見されなかった。何故捕まらなかったか?それは、彼が日本人じゃなかったからだ。もう時効を迎え、あれから40年も経った。完全に風化している。事件をどうにかしたい訳じゃない。君にだけは話しておきたかった。}

 ―完―

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