おまけ、仕上がらなかった子らのために
というわけでKAC無事(?)に終わったわけですが、とりあえず書き出したものの、という品も少々ありまして。
今回は書き始める前に構想練って、ということもなく、時間早めに上げなきゃという気負いもなく、だというのにずるずると書きながら「無理、面白くなる気がしねー!」とか「時間がねえ!」とかで頓挫したのも又多かったように存じます(?)。
ので、供養代わりにここに置いておきます。多分、続き気になるようなものはほぼないんじゃないかなあ。お暇な方だけどーぞ。
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箱根にやってきた。ほんとは熱海が良かったんだけど彼女がどうしても箱根がいいといってきかなかったのだ。彼女は箱好きだった。
「箱根は初めて?」
「ううん、小さい頃に。なんか美術館とかもいったけど、よく覚えないわ」
きょろきょと景観をうかがう彼女の頭に、さかなクンの帽子があって、それが気になって仕方なかった。首から下は清楚な感じのワンピースなのに、頭にはハコフグ。
なんならワンピースを透けて見える、Tシャツには「エルピス」と書いてあった。どでかいカタカナ文字が恥ずかしいというより、透けているのが恥ずかしい。
ぼくの姿勢に気づいたのか、彼女、
「いいでしょ、これ。シースルー」
わざとやってたんかい!
初めてのお泊まり旅行だというのに、あまりよくわからない前衛性と趣味性を発揮しないでもらいたい。
ところでエルピスってなんだっけ、と考えながら商店街を歩く。
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部室にいたのは一年の女だけだった。他の面子は皆、音楽室へ行っているか気ままな自主練(サボり含む)でもしているのだろう。物置と化した部室の、真ん中にでんと置かれたテーブルにヒジをつきながら、見慣れない顔の一年は雑誌を読んでいる。
ちらっとこちらを見て、会釈だけして彼女はまた読書に戻った。
おれは溜息をついてキーボードケースを壁に立て掛け、反対端に坐った。
スマホを取り出す。Gadget を起ちあげてからイヤホンをしてないことに気づいた。バッグに忘れたらしい、と考えてから、そもそもバッグを教室に置いてきてしまったことに気づいて舌打ちをする。ふう、と
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アオキはなさないで、と唐突にいわれて、ハア、と語気強めで俺は聞き返した。「青木がなんだって?」
「青木は成さないで、って言うたんや!」
返す調子が強かったのはこちらの勢いに反発したからか。俺は手に包みや空き箱の載ったトレイを持っていたが、この流れで捨てに行くのもなんなので、再び席に座り直した。
夕方のハンバーガーショップ。適度にざわついた店内に、俺たちのやりとりは特に目立つものではなかった。
俺は呼吸を整えた。「何を急に。青木なんてどうでもいいだろうに」
「せやかて」と少ししょげた感じで朱田は言った。「逆に可哀想すぎるんよ、ああ期待
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サイ・ジュンジェンには三分以内にやらなければならないことがあった。現場の鎮圧である。この場で侵入者を食い止めなければ『世界』が崩壊する。
侵入者の数は三人。長い廊下の先、こちらの出方をうかがっている。警備員は何をやってたんだ、と憤慨するがいまさらどうしようもない。拳銃には弾がフルに詰まっているが、
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留金を外して采花は物置の戸を開けた。淀んだ空気の匂いがする。昔読んだ雑誌や漫画の単行本などが入った段ボールもこの中にあるだろうが、今回のお目当ては虫めがねだった。小学生の頃、譲ってもらったのがこの物置のどこかにあるはずだった。
数年も前に、気味が悪くて、けれど捨てることもできずに放り込んだ。
それはただの虫めがねではなかった。黒い樹脂に縁取られ、そのまま持ち手が伸びていて、持ち手のところには金線で模様が描かれていた。
元の持ち主はおばあちゃんで、おばあちゃんは魔女だった。もっともこっそりそう教えてくれたのは当人で、父も母も苦笑いしてただけだった。
「呪文を教えてあげよう」
おばあちゃんが袱紗から虫めがねを取り出しながら頬笑んだ。
「サカシマナルモノヨ サカシマノママニ チイサキモノヨ オオキクナラン」
意味はよくわからなかったが、采花は耳で聞いたままに音を覚えた。聞いた音は忘れない、そんなちょっとした能力を持っていたのだ。小さいものが大きく、というのはわかったが、その前がわからない。
が、虫めがねは虫めがねだろう。
「その呪文、必要?」
おばあちゃんは声を出して笑い、采花の頭を撫でた。
無骨な、あるいはシンプルなデザインがひしめく中、采花の虫めがねは目立った。理科の授業で使うので各自虫めがねを持ってくるように、と先日先生が言ったのだった。
「虫めがねなんてウチにありません!」
「百円ショップでも売ってるだろ……って、田原か、おまえんち金持ちなんだから、商店街の文房具屋へ行って経済回してこい」
「そういう冗談は首につながりますよ!」
クラスがどっと沸いた。采花は何が面白いのかよくわからなかったが、一緒になって笑った。百円ショップで用意しよう、とその時は思ったのだ。おばあちゃんの虫めがねを持ってくるつもりはなかった。
「采花ちゃんの、なんか手鏡みたいね」
大人びて見えるリツちゃんが言ってくれたので采花はうれしかった。意地の悪い誰かが古臭いとか偽物っぽいとかいったら、居心地が悪かっただろう。
「ほんとだ、手鏡みたい」
田原が無遠慮に虫めがねを手にし、顔の前に掲げた。その時、おばあちゃんの呪文が聴こえた気がして、采花は耳を押さえてヒッと声を漏らした。
先生が引き戸を開ける音、コトンと虫めがねが置かれる音、日直の「きりーつ」という声。椅子が床をこする音、ハッとして立ち上がり、皆に合わせながら、さっきのはなんだったんだろう、と采花は思った。
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こうして並べても「すげえ読みてえ! つづき書けよ!」的なのが何一つないのが凄い🤔 いや最後のは書き方次第でなんとか……親の欲目か。
ということでお付き合いくださり、ありがとうございました。今年は、できれば止まってる諸々を書き出したい(というか完結させたい!)
パチンカスは終わるような代物ではないのでアレですが時事ネタだらけなのに二年経過しちゃってんだよなあ……orz
KAC2024反省会 スロ男 @SSSS_Slotman
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