第13話 祖母の四十九日問題
母から連絡が来た。
「おばあちゃんの四十九日はあんたにはお茶出しやってもらうから」
一方的。
「そういうのは苦手なんだけど」
「いい?皆苦手だしやりたくないに決まっとるの。でもおばあちゃんのためにわたしだって頑張って手配とかしてるんだし。得意な人なんておるわけないの。とにかくやって」
わたしがうつ病になったのは幼い頃からこの頭ごなしにこちらの意見も一切聞いてもらえなかったこの言い方にも一因があるのだと、この人は一生気づかないんだろう。
「そう言われても…」
わたしはもうASDであることをなかったことにしていくつもりはないし、うつ病が悪化しそうなことは自分のためになんであれ断ると決めていた。
「あんたは出てった人間だけどこういうことはやってもらわんと困るし」
「出てったって言うならもう放っといてよ」
「はあ?やるのが普通なの!おばあちゃんのお葬式であんなに泣いとったのにどうしておばあちゃんのためにやったろうと思わんわけ?」
ヒステリック。
「だってもう何したっておばあちゃんに届かないし。わたしが泣いたのはおばあちゃんがいつも弟や妹と比べてわたしだけ差別されてるのを気にかけてくれてたからだよ?」
今まで伝えたことはなかったけど初めて言えた。
すると母の声が冷たくなった。
「それはあんたがおばあちゃんに何か言ったからだわ」
違う。もしそうだとしたらわざわざそれを親に言うわけがない。反論に必死になりすぎて母はそんな簡単なことすら気づかない。自分の言うことを聞かせるという目的以外のことに対して頭が回っていない。
母はきっと発達障害だ。だからわたしに遺伝した。言えば狂ったように反論するから一生言わないけど。
「そんなわけない!わたしはそんなこと言ったことない。それはさすがにひどくない?」
ちなみに祖母は母の妹である叔母のことも病気などもありいつも心配していた。じゃあ叔母も祖母に心配されたくて何か言ったと思うのか?とっさのことでわたしもそこまで言い返せなかったが多分叔母に対してはそうは思わないだろう。だから余計に腹が立った。
「…そうか、でもとにかく今度は来てお茶出しやって」
話が戻った。
しかし電話の後ろで父が「嫌なら来るな!」と怒っている。
わたしも行きたくない。
母がそんな父に「そしたら(妹の名前)ちゃんが一人でやらないかんからかわいそう」と謎の反論をしていた。
母は要領のいい妹が好きだ。昔から母の言う「きょうだいは平等」とはわたしにしてあげたことは必ず妹にもしなければならない、しかし妹にしてあげたことは別にわたしにしなくてもいいだった。しかも無意識で。ASDのわたしはそれに気づくのにも何年もかかったけど。
「もうとにかくわたしは行かないから」
なんか情けなくて泣きながらわたしはそう伝えるのが精一杯だった。
最後には母も折れた。
それで終わったかに思えたのだけど。
一時間後くらいに今度は父から着信が。
「おばあちゃんにはお世話になったんだろう。四十九日くらい来てやれんのか」
「…」
正直もう両親には会いたくない。
「料理のキャンセルとかもあるから明日の朝まで考えて来るなら連絡してこい。一晩よく考えてみろ。今まで子ども3人を差別したことはない」
弟は結婚しておばあちゃんの家の2階に住んでいる。妹は離婚もしていないが子どもと実家に住んでいる。家賃と食費はタダだ。わたしは結婚していて別の場所に住んでいて両親からは家賃の援助すらしてもらったことはない。なんなら妹は外食に連れて行ってもらったり妹の子どもを何度も旅行に連れて行ってもらっている。わたしにも子どもがいるけどそんなことしてもらったことはない。あるのはおばあちゃんが生きてる頃におばあちゃんと両親と妹親子と一緒に数回旅行に行ったことくらい。これのどこが平等?
ついでに昔離婚したいと思って実家に帰れないか打診したときは大事なタンスを捨てたくないから部屋が空けられないと言われた。せいぜいその大事なタンスをあの世まで持っていってほしい。
「だから…!」
「とりあえず俺たちのことは別にしておばあちゃんのことを考えてみろ」
わたしの話は何も聞く気もなくそこで話は終わった。
一晩考えろと言われたその日の夜、見た夢は実家が台風で流された両親と妹がわたしの部屋に住まわせろとやって来て狭いから無理と断るとすごい形相でコンクリートの塊を投げつけながら追いかけてくるというものだった。
もともと自分が病んでいるのは自覚していたがこれは相当な気がする。
翌朝「今後わたしが何を言っても永久に平行線だと思うし今はお父さんとお母さんが怖いです。おばあちゃんの冥福は家から祈ります」とメールした。
そしてわたしは四十九日を欠席した。
両親とはこれで絶縁になるのかな。
発達障害のいる世界ーASDは断じてギフトではありません!ー @medjed
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。発達障害のいる世界ーASDは断じてギフトではありません!ーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます