第39話 そして物語は続く

 寝るか。ゆっくり寝るのなんて何カ月ぶりだろうな。

 さて、久々に領地に戻ってきたから、明日からは村の様子を見に行かなければならないな。

 特産品や学校の様子も……ポッドに任せきりにしていた事ばかりだが、やることが山積だ。


 ゴーンゴーンと朝を告げる鐘がなる。

 戦時中は標的にならないように控えられていたが、時を告げる鐘は教会の重要な仕事の一つだ。

 最近はうちの屋敷や村の丁稚として、孤児院の子供たちが引き取られていたこともあり、今まで手が回らなかった教会の業務が復活してきている。

「お、おはようごじゃいます。レイショ騎士爵」

「あぁ、おはよう。

……把握できていなくてすまないが新人さんかな?

まずは君の名前とここに来た経緯を教えてくれるか」

「はい、クレアと申します。

元々、孤児として暮らしていました。

父が戦死し、現在は没落した元田舎貴族の娘ですが、家の復興を目標に頑張りたいと、こちらに志願しました」

「なるほど、いい心がけだ。

ふむ……もしかしたらその希望叶えられるかもしれないな」

「本当ですか?」

「あぁ、だけどその前にちゃんとメイドの訓練で礼儀作法を身につけないといけないな」

「はい、頑張ります」



 それから半年後、レイショ騎士爵、もといレイショ男爵領にレイショ男爵騎士団が誕生した。

 過去に俺が鍛えた騎士たちの中から志願した男たちと、その他男女問わず新兵を含めた総勢百名ほどの騎士団。

 これから鍛えるのだが、なかなか意欲の高いメンバーが集まってくれたと思う。


「総員!我々レイショ騎士団の長、レイショ男爵に敬礼!」


 初代騎士団長は、スレイ男爵騎士団の新人の中でも非常に伸び率の高かったタッパを起用している。

 先の王都決戦においても非常に多くの敵軍を無力化し、その上で敵にも味方にも死者を出さないという慈悲の刃と、街への損害も最小限に抑えられる広い視野と応用力のあるスキルを持つ新進気鋭の兵士だ。


 そして、実家を再興したいというクレアも女性部隊の訓練生になった。

 再興に一番近いのは、騎士として爵位を得てから王国騎士団などで頭角を現し、騎士の称号を得てから結婚や陞爵することだと思うとして、戦闘系スキルの強かったクレアを勧誘したのだ。


「さて、本日からレイショ騎士団が本格的に稼働することになった。

過去の戦いで知り合った者、俺が直接鍛えた者を隊長として招聘し、その他の新兵を領内から募った。

いまは少数だが、それでも精鋭になりうる者を選んだつもりだ。

戦闘に慣れていない者も一生懸命励んで精鋭になってほしい。

ところでクレア、騎士団が戦うのは何のためかわかるか」

「わ、私でありますか?

ではなく……はい!騎士が戦う理由それは領民を、国民を守るためであります!」

「うむ、その通りだ。

我々騎士団は特権階級でも、偉そうに民を虐げるようなものではない。領の、王国の、そして何より民の剣となり盾となる、平和の守り人なのである。

そのことを忘れずに働いてくれれば、いずれ俺のように爵位を取れるものも出るだろう。

諸兄らの頑張りに期待する」



 騎士団を作ったからには、これもやっておかねばなるまい。

「レイショさん。

男爵への陞爵おめでとうございます」

「ありがとうございます。シスター・カルネ」

「いやぁ、子供のころから知ってるレイショくんが、まさかここまで出世するなんてねぇ」

「それはお互い様ですよ。中央への栄転を断ってここでシスター長をしてるんでしょう?」

「ここには思い入れもありますし、レイショ君と始めた学校の校長もやりがいがありますからね」

「本当に助かっていますよ。

領内の各地に分校も作れましたし、平均的な学力もだんだん上がってきています」

「ここから国が変わっていくといいですねぇ」

「はい。そのためにもうちの騎士を定期的にここに配置しますので、スキル鑑定をしてあげてください」

「いつも寄付ありがとうございます。

貴方に主のご加護がありますように」


 お祈りのポーズで洗礼を受けてから、シスター・カルネに向かいなおす。


「ところで、シスター・カルネのご加護はいただけませんか?」

「私のですか?」

「えぇ、あなたからのご褒美が欲しいです。

まずは、こちらを」

と、ひざまずいて指輪を見せる。


「シスター・カルネ。私と結婚していただけませんか?」


 と、この日のために用意した、シスターカルネの誕生石を丁寧にカットし、教会のモチーフとシスター・カルネの好きな動物をあしらった自作の婚約指輪だ。


「私でいいんですか?」

「で、ではありません。シスター、いや、カルネさん。貴女だから結婚したいんです」

「ふふっ、やっぱり変わっていませんね。

かしこまりました。男爵夫人の大役お受けいたします」

「やったーーーー!絶対幸せにします。愛しています!レディ・カルネ」


 シスター・カルネもポッドと似たような人間と魔族の混血らしい。

 と言っても、血は薄まっているからほとんど人間なのだが、たまに海に身体を浸さないと体調がおかしくなるらしく、海沿いのこの教会から離れることができない。

 今年で三九歳。と言っても、魔族の血のおかげで随分と若く見えるし、平均寿命は人間の倍ほどあるから、実際は二〇歳くらいだと思って相違ない。

 トルメのおかげで長命スキルを手に入れた俺となら、お互いの寿命が尽きるまで添い遂げられることだろう。



 それから半月ほど経って、領内でレイショとレディ・カルネの結婚式が執り行われ、お披露目のパレードも催された。

 この平和が恒久のものになればいいなと思いつつ、いったんここで筆をおこうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百才の勇者は引退して奴隷商人になる バイオヌートリア @AAcupdaisuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ